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駆け巡る走馬灯12

やっとたどり着いた公爵邸。

恐ろしいほど静まり返ったそこに、嫌が予感がしつつ飛び込んだ。

そして・・・。

何ヶ月ぶりに父の顔を見ただろう。

ベットに寝かされ、綺麗な死装束を着せられた父。

がりがりに痩せ細った尊敬してやまない偉大な父。


「ああ、お帰り、ルーナ・・・。・・・父さん、ルーナが帰ってきてくれたよ・・」


アッシュが穏やかに笑って、目を閉じたまま動かない父に話しかけるのをどこか遠いところで聞いた。


「ごめんね、ルーナ・・・。

 ルーナが帰るまではって、父さん頑張ってたんだけど。父さん、母さんのことが大好きだから・・・。

 待ちきれなくて母さんのところいっちゃったみたいなんだ・・・。

 はは・・・。

 ほんと、仲がいいよね・・・。こんな時にまでさ・・・。二人一緒に逝かなくてもいいのにね・・・。

 残されたこっちは、さ・・・。 

 こんな二人いっぺんにいなくなられちゃ・・。 困っちゃう、よね・・・」


はは、と穏やかに笑ったアッシュの顔が。

俺と目が合った瞬間に、グシャリと歪んだ。


「アッシュ・・・」


今にも倒れそうな、ひどい顔色だった。

きっとずっと泣くこともできなかったのだ。

泣く暇もないほど一人で頑張ってきた。

母が亡くなったときも。

伏せっている父のかわりに母を弔ってやらなければ、と。

妹を、そして生まれたばかりで母親をなくした弟を支えねば、と。

公爵家嫡男として、誰にも弱みを見せれず、たった一人で踏ん張ってきた。

そして今、目の前で父さえも失った。


俺は、そんな兄を支えるどころか何も出来ずに側にさえいなかった・・・。


「悪かった・・・兄さん・・・」


「ル・・・ナ・・・。 一ヶ月前・・母、が、身罷った・・・」


「・・・ああ」


「父、も・・・つい、先ほど・・・旅立た、れた・・・」


「・・・ああ」


「・・・・・っ! ・・・・・・・ごめん、僕ちょっと・・はは・・。 泣い・・てもいい・・かな」


「ああ」


「・・・・・っ! ううう・・・・うう!」


そうしてたった一人で全てを背負って踏ん張りつづけたアッシュは。

俺のしがみついて声を殺して一晩中泣いた。




アッシュとともに父の葬儀を整え、つつがなく送り出せた後。

俺はクロス家を苦しめる忌ま忌ましい呪いについて初めて聞いた。

父が、俺に心配をかけるからと口止めしていたらしい。

けれど、父の亡骸、その首もとに巻き付くようにでていた不気味な黒い字。

あんな異様な光景を目にしてしまっては、もはや黙っておくことなど出来ないと判断したんだろう。

アッシュがぽつりぽつりと語って聞かせてくれた。


なんだそれ・・・。


一族全員が呪われている、だと?


それも300年も?


なんの罪も侵していない子孫達が?


解呪できないと、皆呪い殺される、だと?


なら、アッシュも? 

リアも・・・?

生まれてすぐに両親を失った、こんな小さな赤子のトーマまで・・・?


そんな馬鹿な話があっていいものか。


ふざけるな。


もう誰も死なせはしない。


アルフェメラスの王女・・・?

そいつが必要なのか?

そいつがいれば、呪いは解けるんだな?

なら俺が、生け捕りにしてきてやる。

今和平を望んでいる一団がいるときく。

その一団を束ねているのが、そのアルフェメラスの王女だという噂もある。

アッシュは、平和的に和平を結んでから王女に接触するつもりらしいが。

そんなもの何年先になるかわかったもんじゃない。

力付くで侵略して、生け捕りにしてきた方が早いに決まっている。

時間は限られているんだ。

今度はいつ誰が倒れるかわからない。



そうして俺は、再び総指揮官として赴任しアルフェメラスに向けて行軍した。

なりふり構わず、全てのものを潰し尽くした。

俺の大事なものを奪おうとするアルフェメラス。

その王女。

許さない。

絶対にこれ以上奪わせはしない。


狂ったように敵を屠り続け、我が身が壊れるのも恐れずに何ヵ月も、何年も進みつづけた。


そして、侵略しつづけた敵国の地。


その先で。


俺は、誰よりも愛おしい。


懐かしい魔力を感じて、その場に立ち尽くした。


・・・・・知らなかったんだ。


誰よりも大事なユフィ。

ずっと俺の心を支え続けてくれたユフィ。

君を助けるために力を手に入れて。

君の夢を叶えるために戦場にでたのに。


俺はずっと君の願いと共にあると思っていたのに。


なのに俺が。


俺こそが。


君の夢を誰よりも遠ざけていたなんて。


君がアルフェメラスのたった一人の王女だなんて。


ずっと和平を叫び続けているユーフェミア王女だなんて。


・・・・・知らなかったんだよ。





次話は久しぶりにユフィが登場します。

読んでくださりありがとうございました。

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