駆け巡る走馬灯9
別に今更地位や名誉が欲しかった訳じゃない。
だが、ユフィがどんな状況下であっても確実に助けるためには、地位も名誉も、あって邪魔になるものではないはずだ。
綺麗に手の平を返し、嘲る顔を隠すように叩頭する狸達。
何度そのはげ上がった頭を踏み潰してやろうと思ったかしれないが。
なんとか堪え受け入れるふりをする。
今はまだその時じゃない。
国王・・・生物学上の父に命じられるままに、何度もアフフェメラスとの戦にでた。
戦争に加担したのは、王にごまを擦りたかったわけでも、手柄をたてたかったわけでもない。
ただ、俺なりに早く戦争を集結させたいと思っていたからだ。
ユフィは魔法の話と同じくらい世界から戦争がなくなったら、という話をしていた。
世界が平和になったらいいのに。
戦争なんてやめちゃえばいいのに、と。
そうして言うのだ。
いつものように、目をキラキラとさせて。
戦争が終わって世界が平和になったら、世界中を旅して廻るのだ、と。
今まで食べたこともない料理を食べ、見たこともないものを見て。それから、まだ誰も知らない魔法を探して廻るのだ、と。
そのためには、世界が平和でなければいけないのに、と。
ぷんぷん怒って、戦争を繰り返す二国はバカだと散々文句を言っていた。
ユフィの大事な夢。
だったら俺が力付くでこの戦争を終わらせてやる。
俺ならできるはずだ。
それだけの力はとうに手に入れた。
手足のように動く駒もいる。
ユフィが誰よりも望んだ平和を。
戦争集結を。
アルフェメラスなど圧倒的な力でねじ伏せて。
完膚なきまでに叩き潰してやる。
そうすれば今後はむかう気など起きないだろう。
一日でも早く戦争を終わらせる。
邪魔するものは徹底的に排除した。
毎日毎日、戦いつづけた。
そんな日々が数年続いたある夜。
自軍のテントで休んでいる時に、襲撃を受けた。
俺を殺しに来た手練れの暗殺者だった。
最初は呑気にも、アルフェメラスがよこした敵だと思っていた。
こんな最奥にまで侵入を許したのか、と。
わずかな違和感を覚えつつ。
襲撃してきた暗殺者を尋問してやろうと最初に足の健を切った。
なのに、這ってでも向かってきた。
迷うことなく両腕を切り落とした。
それでも、口で刃物をくわえて向かって来ようした。
背中を踏み付け、身動きを封じた。
けれどそいつは、奥歯にでも仕込んであったのか。
魔石を暴発させて俺ごと自爆を計った。
あいにくと、奥歯にはめ込めるほどの小さな魔石の暴発ごときでやられるほど俺はやわじゃない。
けれど。
そこまでする暗殺者に背筋が冷えたのは事実だった。
暗殺者は毎晩のように現れた。
夜営場所を変えても、それぞれのテントの配置を変えても、警備を強化しても。
的確に一度として間違えることなく俺のそれだけを襲撃する。
これはもう、軍の内部に内通者がいるとしか思えなかった。
そしてどの襲撃者も。
恐ろしいほどの執念で俺を殺しに来た。
どれほど実力差があっても一切気にせず。
どれほど威圧をかけても怯まず。
手を切り落としても脚を切り落としても止まらず。
首を落とし、完全に殺すまで俺に向かってきた。
これはもう普通ではなかった。
ひとつ、思い当たる事象があった。
父・・・ゲイルに聞いたことがある。
ハイエィシアの王族のみが知っているという《隷属魔法》。
魂を縛るその魔法はどのような命令でも絶対に遂行させる強制力を持つ。
それではないのかと思い至ったとき。
俺は全てを悟った。
・・・・・・・・ああ、そうか。
俺は実の親、もしくは肉親に。
殺したいほどに憎まれているのか、と。
筋違いな憎しみと暴言を向けるだけではあきたらず、ついに直接殺しに来たのか、と。
父か母か。
腹違いの兄、それとも会ったこともない弟か?
・・・・・・・もしくはその全員に、か・・・。
心が暗いところに落ちていく。
けれど、絶望はしなかった。
俺は俺だ。
世界に一人しかいない大事な人間。
そういってくれる人が、俺にはちゃんといる。
俺を捨てた奴らなど親でも何でもない。
愛してくれる父も母も俺には他にいる。
兄も妹もいる。
だから平気だ。
昼は総指揮官として敵国と戦い、夜は自国の放った暗殺者と戦った。
精神的にはなんとでもなったが、肉体的にはとっくに限界だった。
ある時は食事にまで毒を盛られ、内蔵が焼け切れそうだった。
ある時は睡眠剤をまかれ、意識が朦朧としながら戦った。
何度も死にかけた。
けれどその度になんとか命をつないだ。
そうしてぎりぎりのところで生きていた俺に付いた大層な二つ名が。
【血狂いの第二王子】というものだった。




