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駆け巡る走馬灯8

ユフィと別れた数日後。

俺も父とともに母国へと帰った。


ユフィが困ったときには必ず助けに行く。


そう約束したものの、今の自分では役不足だということは嫌でも理解していた。

学も、力も、人望も。

今の俺にはなにもない。

何も持ってない。

人の目を怖がって、ただひたすらに隠れて生きてきた。

何の努力もしてこなかった。

何も身につけてこなかった。

そのつけが今回ってきたのだ。


こんな俺ではユフィの助けにもなれない。


変わりたいと思った。

もう隠れて怯えるだけの人生など真っ平だ。


『エトはエトだよ』


何度もユフィにかけられた言葉。


そう、俺は俺だ。

誰かの生まれ変わりなんかじゃない。

堂々と生きてやる。

恥じるようなことなど何一つとしてしてはいない。


そして俺は、己を隠し守るだけの長い前髪を切り捨てた。

ずっと視界を覆っていた黒い幕。

それを切り捨てただけで、世界はまるで違って見えた。


時間はいくらあっても足りない。

少しでも早く力を身につけたい。

一分一秒が惜しい。


父に頼んで家庭教師をつけてもらい、知識を貪欲に溜め込んだ。

昼間は家庭教師に教えを乞い、夜は公爵家の書斎にある膨大な量の本を片っ端から読み進めていく。

どうやらこの頭は一度聞いたり読んだりすればそれなりに理解できるらしい。

都合がいいことこの上ない。


勉学がある程度まで進むと、今度は剣術、体術、棒術。

ありとあらゆる武術を習い、習得していく。

体が羽のように軽い。

教えられた複雑な動きを何度も何度も練習し体に叩き込んでいく。

そして夜に、こっそりと一人で屋敷を抜け出しては一晩中魔物を狩りつづけた。

実践よりも身になる練習方法などない。

何度も命の危険に晒されたが、その分だけ力がめきめきとあがっていくのが自分でもわかった。


一番苦労したのは魔法術だ。

この国は剣術大国といわれるだけあり、剣術にこそ重きを置いている。

魔法などそれをサポートするだけの力と思われてあまり重要視されない。

土地柄なのか魔力の強い人間があまりおらず、そのため強い魔法も使えない。

結果、魔術師の絶対数が少なく、適切な師に教えを乞えない。

けれどなにがあってもユフィを守れるような、比類なき強さを手に入れるためには、剣術も魔法も。

どちらも極めなければいけない。

公爵家の書斎をいくら探しても、あまりいい魔法書は見つからない。

どうしたものかと行き詰まっていたとき。

そういえば、ユフィは魔法が好きだったな、と思い至った。

好き、というよりもあれは魔法バカだ。

ありとあらゆる魔石、そこにかかれている術式を読み取り解析するのが大好きだった。

何度術式についての話を聞かされたかわからない。

目をキラキラさせて、氷の術式はどうだの、火の術式はこうだの、と・・・。

日が暮れるまで話につき合わされた時もあった。


術式、か・・・・・。


そう。

魔法は全て術式を組みそこに自分の魔力を注ぎ込むことで発動すると言われている。

その術式を頭の中で組むのが一苦労で、ある種の才能がないとできない。


確か氷の術式は・・・・。


ユフィがわざわざ地面に書いて説明してくれた術式を頭に思い描いてみる。

少し難しかったが時間をかけて丁寧に組んでみると、なんとかできた。

けれど凄まじい集中力がいる。

こうして術式を頭の中で維持するだけで集中力がどんどん削られていくのがわかる。

適性がないのか、それとも修練不足か。

どちらにしても、泣き言など言っていられない。

ユフィとの約束を守るためにはどうしても力がいる。

俺は、頭の中で組み立てた術式に自分の魔力を注ぎ込み。

その力を丁寧に手の平に集めて。

一気に解き放った。


キラリと、小さな氷柱ができた。


あの時、ユフィが嬉しそうに見せてくれた氷の魔法。

一瞬で周りの水分が凍りつき、氷の結晶となってキラキラと降り注いだ。

あの時のあの奇跡のような魔法と比べると、あまりに稚拙で弱々しいけれど。

確かに発動した。


適性はある、はずだ。

やってやれないことはない。

後は修練あるのみ。


そうして俺は、毎日毎日ただひたすらに強さを追い求めた。


時々約束通り、父と風呂に入り背中を流しあい。

アッシュとはたまに喧嘩もしつつお互いを高めあい。

母と妹のリアには庭に咲いていた花を時々届け、たまにお茶を一緒にし。

今まで出来なかった家族としての関わりを大事にしながら。


知識と力を追い求め、己の糧となると判断したものは全て頭と体に取り入れた。


そうして気がつけば俺は。


軍の最高司令官であり総大将として国に認められ。


そして失われていたはずの第二王子としての地位と名誉を取り戻していた。















読んでくださりありがとうございました。

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