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奴隷二日目

まだ鬱々とした展開です

────・・・・僕のこと忘れないでね?


視界一杯に広がる花畑。

夢のようなその景色の中、幼い男の子がユーフェミアをじっと見つめてくる。


「大丈夫、忘れないよ。わたし記憶力は抜群なんだから」


その言葉を真実にするためにユーフェミアは、目の前に立つ男の子をもう一度じっくりと観察する。

傾き始めた日の光に照らされて、赤くすら見える美しい銀色の髪。女の子のようにぷっくりと赤い口。

そして・・・。


「でも、ねぇ?顔を見せてくれなきゃ次にあったときに分かんないよ」


ユーフェミアがいうように、男の子の顔は長く伸びた前髪がほとんど隠してしまっている。

ユーフェミアがそう訴えると、男の子は困ったように肩をすくめた。


───・・・うん。でも僕、自分の顔嫌いなんだ。君だって僕の顔みたら醜いってきっというよ。


「言わない。わたし絶対そんなこと言わないもん」


友達の顔をそんな風に思うわけがないし、それにお世辞抜きで少しだけ見える鼻や口の形はとても整っている。お肌だって白くて透き通るようだ。

きっとものすごくかわいいと思うのに、隠すなんてもったいなさすぎる。


────・・・・ごめん。でも僕、本当に・・嫌いなんだ。


そういう声が少し震えているのに気がついて、ユーフェミアは慌てて明るい声で告げた。


「うん、分かった。だったら無理に見せて、何てもう言わない」


────・・・うん、ありがとう。代わりにこれをあげる。【約束の証】。


「え・・・? うわぁ・・綺麗なゆびわぁ」


────・・・・うん、僕の大事な宝物。ユフィにあげる。・・・だから絶対に覚えていてね、僕の事。【約束】、ね?


「うん【約束】、ね、エト!」



******

 カーテンの隙間から射し込む光が眩しくてゴロリと寝返りを打った。自分の体温で暖められた寝床がこの上なく気持ちがいい。

ああ、今日はいい夢を見た。大事な思い出の記憶。この夢をみた日はいつも素敵なことが起こるから、きっと今日もいい日に違いない。今日の予定はなんだったかしら、と。そこまで考えて、はっと頭が覚醒した。

目覚めと同時に起き上がって、そこで自分がベットできちんと寝かされていたことを知った。

馴染みはないけれど、見覚えのある部屋。


・・・そうだ、あの第二王子の・・・。


自分の様相を見下ろせば、嘔吐物や汗で散々汚れていたはずなのに、真新しい清潔な寝衣を身につけている。自分で着替えた記憶はない。そんな余裕があるわけがない。というより床を転げ回った記憶しかないので、多分あのまま気を失ったのだろう。

では一体誰が自分を着替えさせ、ベットに寝かせてくれたのか?

・・・・・・まさかあのルーナルドが・・・?

頭にちらつくのは、無表情で冷たい目をした狂第二王子の姿。

いえ、ないですわね。

あの王子様が汚らしい自分を介抱してくれたなんてあるわけがない。

大方、屋敷に仕えている侍女かメイドが着替えさせてくれたのだろう。


「・・・起きたのか」


突然に声をかけられ、飛び上がった。まただ。また急に!

レディの部屋に断りもなく。それにびっくりするから急に声をかけるのは本当にやめてほしい。

まあ、そう言って訴えてみたところで黙殺されるだろうとわかってるので、口にはしないけれど。

顔を上げて見れば、予想通りの人物が予想通りの場所に立っていた。流れる黒髪、切れ長の金の瞳。雪のように白くてすべらかな肌。今日も無駄に美しい。


「起きたのならさっさと支度をしろ。5分だけ待ってやる」


そうしてまたルーナルドは静かに部屋のドアを閉めた。一応その辺は気を使ってくれるらしい。

それにしても毎朝毎朝5分って!

もっとゆとりを持って行動したいものです、とぶつぶつ言いながらユーフェミアは朝の支度を整えた。



*****

 連れていかれたのはダイニングのような場所で、ルーナルドの対面に座れと命じられた。

いくつも席はあるのに対面は嫌だな、と思いつつ渋々腰を下ろすと、なんとルーナルド自ら食事を出してくれた。

・・・・実際には「食事だ」と言ってルーナルドが出したものは肉や野菜などではなく、奇妙な後味がする透明な液体だけだったが。

また毒なのではと警戒したが、だからといって飲まないわけにもいかないので、覚悟を決めて一気に飲んだ。

昨晩嘔吐を繰り返したせいで水分を失った体に、その液体は不思議と染み渡って。それだけでも随分と体が楽になった。

 そうして、食事とも呼べないような食事の時間があっという間に終わった後。

ルーナルドが冷たい表情で突き出したのは、例の青緑色の液体が入った薬瓶だ。

タプンと揺れる毒々しい色のそれをみた瞬間、ユーフェミアの体は意思とは関係なく震えだした。

昨晩の、あの苦しさのあまり転げ回った記憶が恐怖となって体中を支配していく。

冷や汗が止まらない。呼吸が乱れて苦しい。

嫌だ、もう飲みたくない。

あんなものをこれからもずっと飲むくらいなら・・・・。


「ここで死ぬか?」


二人しかいない部屋に響き渡るのはルーナルドの氷のような冷たい声。じっと探るように見つめてくる金色の瞳。

ここではいと答えたなら、ルーナルドは間違いなく迷わずユーフェミアを切って捨てるだろう。

毒を飲まなくても同じこと。

ここで楽になりたいならいっそのこと・・・・。


「・・・・・・・・。・・・・・・・・いいえ、わたしはまだ死ねません」


どれほどの苦しみに晒されようとも。

どれほどの屈辱を受けようとも。

それでも何としても生きながらえると決めたのだから。


震える手で、薬瓶を受けとった。背中を行く筋も汗が伝い落ちていく。恐怖のあまり膝が奮え、立っていられない。

毒を飲む前からこれでは、一体飲んだらどうなってしまうのか。


「毒の効果を実際に見てみたい。ここで飲め」


え、ここで?

でも、また昨日のように嘔吐を繰り返すとすれば、こんなところでは・・・。


「いいから、さっさと飲め!!」


刃物のような鋭い声で命じられ、左胸に刻まれた印が疼く。

仕方なく、ユーフェミアは瓶のふたを開けて。

異臭を放つそれを覚悟を決めて一気に全て飲み込んだ。


そしてユーフェミアは、昨晩のように何度も何度も嘔吐を繰り返し。


苦しみ抜いた末に意識は暗いところに落ちていった。

















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