駆け巡る走馬灯4
当時の俺は、黒い髪を銀に染めゲイルの息子、アッシュフォードとして暮らしていた。
ゲイルの知り合いだという気のいい貴族の家。
子供がいないというその夫婦にはとてもよくしてもらったし、使用人達も丁寧に接してくれた。
髪を染めただけで、誰にも敵意を向けられない。
・・・いや、違うか。
あの国でなければ、金目で黒髪のままでも、それほどに忌避されないのだ。
ゲイルはもしかしたらそれを俺に教え、希望を持たせたかったのかも知れない。
けれど当時の俺はそんなことに気づく余裕などなく、周りによる全ての人間を警戒し、敵意を向けられる前に拒絶し続けた。
そんな風に過ごして4ヶ月がたった頃。
ゲイルの物言いたげな視線には気がついていたものの、どうすることもできず。
自分の殻に閉じこもって、しゃべることも笑うこともせず死んだように生きていた俺の前に。
あの小生意気な娘が立ち塞がったのだ。
「ねえ、あなた。なにしてるの? かくれんぼ? かくれんぼね?」
部屋にいると誰かしらの目に付くので。
毎日人の来なさそうな場所を探しては、隠れていた俺の前に。
気がつくと小さな子供が立っていた。
場所は、中庭の茂みの中。
誰かと遊んでいるとでも思ったのか。
その子供は俺の返事も聞かずに目をキラキラさせて隣にしゃがみ込み身を隠しはじめた。
嬉しそうに時々茂みから顔を除かせては誰かが探しに来るのを待ってたようだが。
あいにくと、そんな人間などいない。
どれだけ待っても鬼はやってこず、見つけてはもらえないのだ。
「・・・・ねえ、誰も来ないね?」
誰も来ない場所を探して隠れているのだ。
来るわけがない。
放っておけばそのうち飽きてどこかにいくだろう。
そう思った。
なのに、その子供はいつまで立っても俺の側を離れようとはしなかった。
数分後。
鬼が来ないと思い気が抜けたのか。
その子供は聞いてもいないのにぺらぺらと自分のことを話し出した。
名前は【ユフィ】というらしい。
ユフィは、一目見てわかるほど仕立てのいい服を着ていた。
この家には子供はいないと言っていたから、近くの子供か。
それにしては随分と身なりがいい。
公爵子息としてここにいる自分と同じか、もしかしたらそれ以上の上等なものを身につけている。
上位貴族の子供?
警戒心がさらに沸き上がる。
この場を離れるべきか、そう思ったとき。
気がついた。
その上等な服からわずかに除く、首もと、手首、足、その全てに。
痛々しい、無数の傷痕があることに。
「・・・・・・・・・・・・っ!!」
虐待?
すぐにそう思った。
こんな立派な身なりをしているのに。
使用人に、なんてことはありえない。
では親に?
兄弟に?
家族に虐待をされているのか?
こんなに小さいのに?
・・・・いや、小さすぎる。
6歳だと言っていたから自分より2つ下なだけ。
それにしては、体が小さすぎる。
よく見ると、首から下はがりがりに痩せている。
食事も満足に与えられていない?
────・・・この子供も、自分と同じような境遇なのか。
そう思うと同時に妙な親近感が湧いた。
この【ユフィ】なら、唯一俺のことをわかってくれるかもしれない。
話したい、話してみたい。
自分もそうなんだよ、と慰めあいたい。
欲望に負けた当時の俺は・・・・。
「どうしてしゃべらないの?」と尋ねた【ユフィ】に向かって。
愚かにも、こういったのだ。
「もう僕は死にたいんだ」と。
何年ぶりに口を聞いたのか。
喋り方さえ忘れてしまっているかと思っていたのに。
俺の口は素直にその言葉を吐き出した。
そうして・・・・。
【ユフィ】の逆鱗に触れることになる。




