駆け巡る走馬灯3
バカバカしいと今なら思える。
髪の色がなんだ。
瞳の色がなんだ。
そんなもの遺伝子情報のひとつでしかない。
この黒髪がそんなに気に入らないなら、全て剃り落としてやってもいい。
金に輝く目が不吉だと言うなら、両目を焼き潰してもいい。
力付くでそんな馬鹿げた呪縛、引きちぎってやると思えるのに。
当時の俺にはそんな気力はなかった。
当然だ。
味方など誰もいなかった。
誰にも見向きもされず、何も教えられなかった。
戦う術などなにもなく、購うための知識もなければ、そんな体力もない。
ただただこれ以上傷つけられないように、息を殺してひっそりと。
体を丸め、隠れるように。
死にたいと思いながら生きることしかできなかった。
転機が訪れたのは5歳の時。
俺は何の前触れもなく、いきなりクロス家に引き取られることになった。
当時の俺にはわからなかったが。
あの状態の俺を引き取るなど相当な覚悟と労力がいったはず。
アッシュの父。
当時のクロス家当主、ゲイル クロスには感謝しかない。
今まで暮らしていた小屋がすっぽりと入るほど大きな風呂場。
いい臭いのする石鹸。
悪臭のしないフカフカなベット。
見たこともないような豪華な食事。
そして今まで着たことがないような、肌触りのいい布をふんだんに使った服。
全てが初めてのことだった。
俺を気にかけてくれる優しい人たち。
ここにいてもいいんだと言ってくれたゲイル。
よろしくね、と抱きしめてくれたゲイルの妻マリア。
今日から君は僕の弟だと、ニシャリと笑ったアッシュフォード。
小さな手で俺の顔をぺたぺた触って笑った、まだ赤ん坊だったアッシュの妹リア。
俺は初めて人の温もりを知った。
大事だと思った。
家族だと言ってくれる彼らがなによりも大事だとそう思っていたのに。
なのにどうしても信じられなかった。
実の親でさえ俺を捨てたのだ。
父親にはあったことすらない。
母親にだってあの時偶然見かけなければ、きっと会うことはなかった。
二人とも一度として会いにきてもくれなかった。
あの狭い小屋で。
ずっとずっと待っていたのに。
来てくれなかった。
父親が、母親が、家族として受け入れてくれないのに。
他人が家族になどなってくれるわけがない。
きっとまたいつか、あんなふうに罵られる。
自分の顔を見て悲鳴をあげて、息継ぎの間すら惜しいというふうに。
ナイフのような言葉を何度も何度も投げつけられる。
また傷つけられるのが怖くて。
心を守るのに必死で。
何度笑顔で話し掛けられても、答えることもせず。
ずっと殻に閉じこもって。
そうやって、気遣かってくれるクロス家の人間を傷つける変わりに、自分の身を必死で守ってきた。
そんな日が三年ほど続いたある日。
俺はゲイルに連れられて訪れた他国で。
あの小生意気な。
そしてその後どうしようもないほど惹かれることになる、彼女。
【ユフィ】に出会うことになった。
運命の出会いをしたんだね、等とアッシュは言う。
君にとって大切なものとの出会いがあったんだね、と。
けれど、あの出会いはそんなキラキラしい言葉で表すようなものでは決してない。
なんせ俺は、会って数分のしないうちに首根っこを捕まれて殺されかけたのだから。
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