駆け巡る走馬灯2
良く晴れた日、だった。
その日は前日までの寒さもずいぶんと和らいで、風もなく日差しも暖かかった。
なにか、いいことがあるかもしれない、と。
幼心にそんな期待を抱いた。
それがいけなかった。
・・・・いや、長年の疑問を解消できたのだから、やはり【いいこと】があったのかもしれない。
とにかく、俺はえもしれぬ期待を胸に小屋から這い出した。
そして、見たのだ。
随分と遠く。
未だ恐ろしくて足を踏み入れたことがないきらびやかなその領域。
自分とは明らかに隔てられたその美しい世界の。
綺麗に磨き上げられた中庭の廊下を、高らかに靴音を鳴らして歩くこの世のものとは思えないほど美しい女性を。
頭にキラキラと輝く宝石をこれでもかというほどつけて。
誰よりも美しい衣装を見に纏い、誰よりも自信に満ちあふれた様子で堂々と歩くその女性。
見た瞬間、なぜだか強烈な思慕を抱いた。
抱きしめてほしい。
認めてほしい。
ただ愛してほしい。
他の人間、全てに憎まれていても。
あの美しい人、ただ一人にだけ存在を許されるなら、それでいい。
本気でそう思った。
そしてそう思うことが許される気がした。
あの人なら自分を愛してくれると、わけもなく思った。
そうして馬鹿な俺は、ふらふらとその女の前に姿を現して・・・・。
そして、ずたずたに心を引き裂かれた。
自分の前に急にでてきたみすぼらしい子供。
どろどろに汚れた襤褸一枚を身につけた、余りに場にふさわしくないがりがりに痩せた子供。
そんな俺を見た女の最初の行動は。
哀れだと顔をしかめるでもなく。
汚らしいと眉を寄せるでもなく。
ましてや、かわいそうにと抱きしめてくれるはずもなく。
嫌悪感をあらわにして悲鳴をあげる、というものだった。
「なぜお前がここにいるの?」
「汚らわしい」
「この国を闇に陥れた、忌まわしき凶王子レオナルドの生まれ変わり」
「ルーナルド」
「お前など・・・・お前など・・・」
悲鳴をあげた後、女は狂ったような表情で終わることなくずっと俺を罵りつづけた。
ルーナルド。
俺はこの時、自分の名前がルーナルドなのだと初めて知った。
そしてこの女が自分の母親。
生物学的な母親、なのだとも。
母親の口から何度も出てくる名前。
レオナルド。
そして自分の名前ルーナルド。
似てる、と思った。
彼女が憎しみを込めてその二つの名を口にする度に。
そして彼女の後ろ、付き従っている女官達までもが同じように憎しみを込めた目で俺を見る度に。
心に何かが突き刺さった。
そうして理解した。
ああ、意図してそう名をつけられたのだ、と。
子がこの世に生まれ落ちて、最初に祝福として与えられる名前。
特別なそれさえ俺は、凶王子レオナルドの生まれ変わりとして。
憎しみの対象としてしか与えられなかった。
俺の金の瞳、そして黒髪が。
300年にわたる戦争の引き金になった男、レオナルドと同じであり。
だからこれほどまでに憎まれているのだと。
俺は俺を詰る母親の言葉で、理解した。
読んでくださりありがとうございました。




