表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/153

そして彼は絶対悪になった

食事に毎日毒を混ぜられている。

そしてそれをしているのが誰かなのかもわからない。

もしかしたら、1番信頼していた侍女。

護衛騎士。

親類かもしれない。

その事実をユーフェミアに教えることを、ルーナルドは断固反対した。

もしそんなことを事前に教えて王女の気力が削がれれば、解毒に堪えられなくなる、と。

自分が誰かから殺したいほど憎まれている。そんな事実は教えなくてもいい、と。


アッシュが何と言ってもルーナルドは譲らない。


甘いと思った。

そんな生温いことを言っている状況では決してない。

この際王女の気持ちなど無視をして事実を伝えるべきだ。

でないと、それこそ解毒なんてできない。


よほどの覚悟がなければ解毒は成功しない。

それはルーナルドだってわかっているはずだ。

飲めば凄まじい苦痛を伴う薬。

訳も話さず無理矢理口の中に捩込んでしまえば、それこそあっという間に気力が削がれて死んでしまう。


黒幕をあぶり出すにも時間がいる。

とにかくさっさと訳を話し、毒だけでも抜いてしまわないと。


何度も意見を交わした。

ユーフェミアの心を優先しすぎるルーナルド。

とにかく問題の解決を急ぐアッシュ。

いつまでたっても話は平行線で解決策が見えない。


何時間もそんな話し合いが成された末、ルーナルドが出した答が。

では、自分が絶対的な悪になる、というものだった。


ユーフェミアを力付くでさらい、奴隷落ちさせたうえで誓約魔法をかけ、毒という名の薬を飲ませ続ける。

彼女の護衛騎士の中に間者が必ず何人かいるはずだから奴らを捕らえ情報を吐かせる。

その方法であれば、黒幕も、解毒も一緒に出来るだろう、と。

一切表情を変えず、いつもの無表情で彼は淡々としゃべりつづける。


確かにユーフェミアが動けば必ず護衛騎士が何人か付くだろう。

そしてその中に黒幕の指示を受けているものが紛れ込んでいる可能性が高い。

そうしないと移動の間何週間も毒を盛れないからだ。

平和的な解決を目指すのであれば、護衛騎士を捕らえて拷問した末口を割らすなんて方法は取れない。

けれど、確かにルーナルドのいう方法ならば・・・・。


いや、無理だとすぐに結論が出た。

大切に育てられた王女が、生き残るために自らの意志で奴隷にまで身を落とす。

そこまでしてでも生き残る。

確かにそれほどの覚悟があれば、薬を飲みつづけることもできるかもしれない。

解毒にも堪えられるだろう。

けれどそもそも王女がそんな選択をするとは思えない。

奴隷に身を落とすくらいなら潔く死を。

そういうに決まっている。


それに、もし万が一王女が生きることを選択してくれたとして・・・。


けれど、そうなったらルーナルドは?


これほど王女を大切にし、残ったもの全てをかけて助けようとしているにも関わらず。

彼は王女の中で、無理矢理さらい、跪かせ、毒を飲ませつづける絶対的な悪として位置づけられる。

ルーナルドの思いなど何一つとして気付かず。

ルーナルドがどんな思いで側にいるのか理解することもなく。

幼い日に結んだという【約束】を守るためにルーナルドが命をかけていることも。

その約束をした相手がルーナルドだということにすら気付かずに。


ただ彼女の中で悪として生き、そしてそのまま死んでいく。


そんなことがあっていいはずがない。


それくらいなら、さっさと王女に訳を話して・・・。


「アッシュ」


彼が誰よりも努力していたのを1番近くで見てきた。

努力は実を結びやっと信頼を得はじめていたのに、あっという間に手の平を返された。

血狂いだとみんなに恐れられた。

それでもじっと堪え続けた背中を見てきた。

誰よりも幸せになってほしい。

救えない命ならせめて最後だけでも心穏やかに過ごさせてあげたい。


だからそんな方法は断固反対だ、と。

お前一人が泥をかぶるそんなやり方には協力できない、と。


そういおうと思ったのに。

見越したようにルーナルドがアッシュの名前を呼ぶ。


そして言ったのだ。


めったに動かないその顔を。


泣きそうなくらいに歪めて。


「頼む」


と。


「頼むから、最後にユフィと共に過ごす時間を俺にくれないか」


と。


例え彼女の中で悪役にしかなれなかったとしても。

それでもほんの少しの間でも彼女の過ごしたいのだ、と。


ずるい、と思った。

そんなことを言われてしまえば、折れないわけにはいかない。



こうしてルーナルドは【絶対悪】として、大事な女の子の前に数年ぶりに立ち。


力でねじ伏せて跪かせた後。


大事な大事なゆりかごの中に王女を保護することに成功した。










ルーナは自分が健康体であったなら、無理矢理さらうようなことをするつもりはありませんでした。

余命宣告をされ、早く問題を解決しないとユフィを守れないと焦った結果の決断でした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ