ユフィ
【ユフィ】という名前をよく聞くようになったのはいつからだっただろう。
良く覚えてはいないが、多分二、三年前。
もしかしたらもっと小さい頃からたまにルーナルドが口にしていたかもしれないが、アッシュがはっきりと認識したのは多分それくらいの時期だ。
【ユフィ】と。
ルーナルドはたまにその名を口にするようになった。
誰に呼び掛けるでもなく、無意識のように。
見たこともないような優しい顔つきで。
アッシュも他の誰も知らない誰かの名前を呼ぶ。
ああ、彼女がそうなんだな、と直感でわかった。
きっとルーナルドがいうその【ユフィ】が彼を変えたのだ。
あのアッシュが知らない半年間で、ルーナルドが見つけた大切な何かは、きっとその【ユフィ】なのだろう。
たった半年で、自分達の家族が三年かけてできなかったことを見事にやってみせた【ユフィ】。
会ってみたいと思った。
───・・・・けれどまさか、あんな形で会うことになるとは思ってもみなかったよ・・・。
ある時を境に、ルーナルドは軍の総大将の職をやめアッシュの和平交渉を手伝うようになった。
【血狂い】なんていう不名誉極まりない二つ名さえ逆に利用して。
あちこちに圧力をかけて和平実現へと足並みを揃わせた。
今、和平がなんとか結べるところまで来ているのは、アルフェメラスを友愛で押さえ込んだユーフェミア王女と。
そしてハイエィシアを力で押さえ込んだルーナルドのおかげといってもいい。
この二人なくして和平は実現しなかった。
それに比べればクロス家の功績など微々たるものだ。
なんとか和平を結べるところまでこぎつけ、夢がいよいよ現実にという時になって。
不穏な情報が入ってきた。
アルフェメラスに放っている密偵から。
和平の要となるユーフェミア王女が、人知れず毎夜毒を盛られている、と。
毒は少量づつ、もう何か月も盛られ続けていてもはや致死量近くまで来ているのはらしい、と。
このまま放置すれば後数ヶ月、早ければ数週間で命はないだろう、と。
その報告を受けてアッシュは酷く動揺した。
クロス一族を救うため、どうしても王女に死なれては困るからだ。
しかし、そんなアッシュよりも取り乱した人物がいた。
ルーナルドだ。
滅多に感情を表さない美しい顔が焦りと絶望に染まり。真っ青になりながらその場に立ち尽くしていた。
【ユフィ】と。
無意識のように彼が呟いたことで、ルーナルドの大切な子がユーフェミアなのだとようやくアッシュは理解した。
酷く動揺していて使い物にならなくなったルーナルドのかわりに事実関係を詳しく調べさせた。
今にもアルフェメラスに飛んでいきそうなルーナルドを必死で押さえ込んで。
大丈夫だ、きっとそんなはずはないと何度も励まして。
けれど残念ながら報告は正しく、ユーフェミア王女は何者かに毒殺されかかっていた。
それも、使われている毒は解毒が著しく難しいものであり。症状が緩やかな反面、解毒には凄まじい苦痛を伴うことがわかった。
しかも王女のそれはもはや致死量に近い。
解毒にかかる負荷は更にとんでもないものになる。
それこそ死んだ方がましだと思えるほどの苦痛を伴うだろう。
毒を盛った何者かは、気づかれないように緩やかに、
けれど例え気づかれても解毒できないように。
確実に王女を殺せるように。
そんな毒を選んだ。
その事実をユーフェミアな教えよう、と。
そう話がついた時だった。
ルーナルドが肺の病に倒れたのは・・・。
ルーナ頑張れと思われた方、応援お願いします。
読んでくださりありがとうございました。




