血狂いの第二王子 ルーナルド
たった一人で万の敵兵ともやり合える、比類なき強さを持った王子。
例え、髪が黒かろうが、その瞳が金色に輝こうが。
強さだけが求められる戦場で、そんなことは大した弊害にはならなかった。
軍を率いて出陣し、敵を蹴散らして必ず勝利をおさめて帰ってくる。
どれほどの苦境に立たされていようが、ルーナルドが出陣すればあっという間に戦況はひっくり返る。
何度も何度もそんな厳しい戦場をくぐり抜け、功績を積み上げるうちに。
ルーナルドは、忌み嫌われていたはずのこの国で。
市井と軍の中枢部を中心に圧倒的な支持を集めていった。
────・・・かつての初代クロス家当主。 フェリクス クロスのように・・。
しかし、ルーナルドの快進撃を快く思わない人間もいた。
第一王子ギルバートを押す一派と。
そして正妃が産んだ、第二子。 つまりルーナルドの弟である第三王子カーティスを押す一派。
次代の王は、ギルバートかカーティスか、という争いの中で急に表れた第三勢力。
後ろ盾には、筆頭公爵であるクロス家。
武力、知力共に、並び立てるものがいないほど極めた男。
市井での人気が高く、なにより軍の中枢部を握っている。
一度切り捨て、捨てたはずの王子が、こちらに牙を向く。
そんなことは許せるはずがなかった。
そうして焦った浅はかな人間が出した答が、邪魔なら殺す、という至極簡単なものだった。
放たれたのは、夥しいほどの数の暗殺者。
子殺しは国教に背く行為。
けれど、このころにはもうルーナルドは成人を迎えていた。
成人した男を殺すことを国教は禁止してはいない。
無茶苦茶な解釈のもと、ルーナルドの元には毎日のように暗殺者が送り込まれるようになった。
隷属魔法で魂を縛り付けられた暗殺者が毎日山のようにルーナルドを殺しにきた。
そいつらは、【死ぬまで戦え】という魂の縛りを受け、足を切っても手を切っても、ルーナルドがどれだけ応戦しても向かってきた。
仕方なく、首を切り落とし、その命を強制的に終わらせる。
そうしなければ彼らは止まらなかった。
毎日送り込まれる刺客。
毎日首を切り落としては返り血を大量に浴びた。
国から支給された白い軍服は毎日真っ赤に染まり、ルーナルドの美しい顔を恐ろしく引き立てる。
そうしていつしか囁かれるようになった。
あの王子はやはり狂っている。
国のためなんかじゃない。
血を求めてただ戦場を楽しんでいただけだ。
血狂いだ。
血狂いの第二王子ルーナルドだ、と。
いくら才能があったって、本人の努力無しに得られるものなど一つもない。
誰にも負けないほどの強さ。
誰にも負けないほどの知識。
なぜルーナルドはそれを追い求めたのか。
きっと・・・・ただ自分の存在を認めてほしくて。
・・・・生きていてもいいんだと誰かに言ってほしくて。
毎日血を吐くような努力をし続けた。
努力の末手にしたのは、圧倒的な支持と、絆。
けれどそんなものは幻でしかなく。
ルーナルドがただ認めてほしかった自国で最後に手にしたのは。
血狂い、というそんな不名誉な二つ名と。
そして、敵意に満ちた眼差しだけだった。
読んでくださりありがとうございました。




