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どうしてこうなった?

いきなり時間が経過していますが、ユーフェミアが何を思ってどう過ごしたのかは後で描写します。

とりあえず、クロス公爵、アッシュ視点でのお話です。


アッシュは、かつての愚かな自分を思いだし、はあっと重いため息を吐いた。

アッシュが、この屋敷に通うようになってもうすぐ2週間になる。

そうしてその間に、アッシュは自分の認識の甘さを認めざるを得ない状況に追い込まれていた。



今、自分の両手には今まで握ったこともない鍬。

足には今まで一度として掃いたことのない長靴。

首元には刺繍などどこにも施していない白いタオル。

そして、絹のようだといつも褒めたたえられた髪に至っては藁で作られた帽子の中で見る影もない。


いわゆる農作業スタイルの自分。

足元には見事に耕された畝。

たった今アッシュがせっせと耕したのだ。


うん、我ながら初心者とは思えないほどの出来だ。

・・・・って、そうではなく。


・・・・・・・・・・あれぇ・・・・?


どうしてこうなった・・・?

僕一応公爵なんだけど・・・?


「どうしましたか、公爵様?」


すぐ隣から可愛らしい声が聞こえ、アッシュはうんざりとした顔を上げた。


・・・・あ~あ、また顔中土まるけじゃないか・・・。


隣の畝には、友愛の女神と讃えられた隣国の姫君が不思議そう顔でアッシュを見ている。

この姫君、驚いたことにアッシュと同じデザインのズボン、白いシャツ、長靴、軍手、麦わら帽子という農業スタイルだ。

土の付いた手で顔を拭いでもしたのか、右頬と額に土がこびりついている。

淑女の姿では絶対にない。

少なくても、ハイエィシアの王女様はこんなことしなかったし、どんな下位貴族の令嬢だってここまでのことはしないはずだ。

そしてそれは今の自分にも当てはまる。

こんな格好で自ら畑を耕す公爵なんて聞いたこともない。


「あ~・・・。 なんで僕はこんなことをしているのかなぁ、と思ってね」


言ってもどうせ無駄なんだろうな、と思いつつ恨み言を言ってみる。

すると王女は困ったように眉を下げ、左頬に手をあててわずかに首を傾げた。


「まあ・・・。 わたしのお手伝いをしていただけると伺ったのでお願いしたのですが・・。

いけませんでしたでしょうか・・・?」


・・・・・・君を落とすためになんでもするとは言ったけど。

僕的にはそういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・。


認識が甘かった。甘すぎた。


その一言につきる。

この王女、思っていたよりもずっと手強い。

どれだけ甘い言葉を囁いても顔色一つ変えず、サラリとかわされる。

好きだよとストレートにいってみても、「まあ、ありがとうございます」といかにも愛想笑いという笑みを浮かべるだけ。

多少強引に迫ってみるか、と顔を寄せて耳元で女性が好きそうな言葉を囁いてみたのに、「こそばゆいですわ」と微笑まれただけ。照れるどころか、眉一つ動かさなかった。

常にニコニコと穏やかに微笑んでいるが、何を考えているのか読めない。


そしてこの王女、一つも手の内を明かさないくせに、こうやっておかしな頼み事はいくつもしてくる。

なんでもするといった手前、そして惚れてもらわなければいけない弱みもあり、無下にすることも出来ず。

いい顔をして、無理をしてでも願いを聞いているうちにどんどんおかしな方向に話が転がった。


「君・・・・順応しすぎじゃないかな・・・・?」


そうアッシュがあきれるほど、この王女様は適応力がありすぎた。


・・・・・・・あ~。初めてあったときはあんなに震えて・・。可愛かったのになぁ・・・。


初めてあったときは、ルーナが怖かったのか彼女はひどく怯えて震えていた。

その様子は小動物のようで加護欲を大いに掻き立てられた。

僕が守ってやらないとなぁ、とそれなりには思ったのだ。


なのに、違った。

この王女はアッシュが思うほど、繊細でか弱い女性ではなかった。


この王女、しおらしかったのは最初の数日だけで、毒さえ飲んでいれば本当に好きにしていいのだとわかると、本当に好きにしだした。

大抵のことでは動じないアッシュが絶句するほど自由奔放だった。


まず、最初の頼みごとはフルージエの種を手に入れらてほしい、だった。

フルージエは若い葉を摘んで乾燥させるととてもいい薬になる。

頭痛、腹痛、歯痛に至るまでありとあらゆる痛みを取り除いてくれる。

が、残念ながら栽培がとても難しく、王都でもめったにでまわらない。

国の研究期間が日々研究を繰り返し、ある程度の栽培方法を確立してはいるが、それでも十分とは言えない。

その貴重な種を手に入れろ、というのか・・・?


クロス公爵家の力を持ってすれば、手に入らないことはない。

・・・けれど、なんのために・・・?


いぶかしむアッシュに、王女は哀しそうに眉を寄せた。


「公爵様の力を持ってしても、無理、でしょうか?」


お前には無理かと、問われれば、否と答えてしまうのが男の性だろう。

ましてや、今から自分に惚れてもらわなければいけない女性の頼みならばなおさら。

多少の無理をしてでも叶えるべきだろう。


「いいや、必ず手に入れて見せるよ、姫君」


格好をつけてそう言ったけれど。


今思い返してみればあれがよくなかった。

そして、3日もしないうちに王女の願い通りに種を手に入れて届けたのもよくなかった。


アッシュが通い出した数日間は、毒の影響でぐったりしていた彼女だったが。

耐性ができたらしく次第に元気になっていって。

それに伴って、王女の願いはどんどんエスカレートしていった。

どんな注文でもアッシュが断らない、もしくは断れないということを正しく理解していたのかもしれない。


長靴、軍手、帽子、ラフなズボンとシャツ、そして鍬。役に立たない魔石落ち。数種類もの肥料。


・・・・ときて・・・。


現在。

なぜか一緒に鍬を振り下ろしてせっせと畝を作っているという理解しがたい状況に至る・・・。


なんだよ、軍手に鍬って。

普通、宝石とドレスじゃないの?


けれど王女は、宝石でも渡されたかのようにフルージエの種を受け取り、ドレスを着るように嬉しそうにシャツとズボンに着替えた。


そして爪の先まで綺麗に手入れされた手に軍手を嵌め、鍬を担いで庭に飛びだし。

そしておもむろに屋敷の隅にあった使われなくなって放置されていた畑を一心不乱に耕しだした。


まあ、今現在アッシュが王女と一緒になって畑を耕しているのはアッシュが自分でしていることであって、王女は手伝ってくれとはいわなかった。

おそらく、公爵である自分にそんなことをさせるわけにはいかないと一応気を使ってはくれたのだろう。


けれど(何を目的としてそんなことをしているのか全く理解できなかったが)女性が頑張っているのに自分がなにもしないのは居心地が悪く、多少興味があったこともあり。

アッシュが自ら「手伝うね」と言って畑を耕しはじめてからは容赦がなかった。


「あら、公爵様、そこはもう少し深く耕して頂けますか」


「公爵様、空気を含むようにもう少し優しくお願いいたします」


「公爵様、石や草はその都度除いてはいただけませんか」


等など。

口調は丁寧だが、容赦がない。自分も一生懸命畑を耕しているのに、目が横についてでもいるのか、

隣で作業しているアッシュにいくつもダメ出しが飛んできた。


そうして丁寧に作業をする事、3日。


草が生い茂り荒地のようだったそこは、見事な畝が連なる畑へと生まれ変わったのだった。







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