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アッシュフォードの誓い

 不当な扱いを受けつづけ、一人孤独に命を絶ったエリンティア。

彼女の憎しみは300年という長い年月が経てもなお少しも消えることなく、今もクロス一族を呪い続けている。

それだけ彼女の怒りと苦しみは深く、悲しみは果てしなかった。

毎日毎日自分とは違う女の、それも血の繋がった妹の元へと通いつづける夫をどんな思いで見送っていたのか。

愛の証とも言える赤子が生まれた、という報告をどんな気持ちで誰から聞いたのか。


かわいそうだと思う。

哀れだと心の底から思う。


けれど、自分たちにはどうしようもないことだとも思う。

 

罪を犯したのは妻を裏切り続けたレオナルド。

そしてそんなレオナルドを受け入れつづけた王女カノン。


生まれた赤子には罪はない。

ましてや、その子孫にも。

罪などない。

ないはずだ。


だから許されるはずだ。

生きたいと願うことは。


間違いなどではないはずだ。

呪いを解いて人並みの幸せを手に入れたいと思うことは。




一族を救う唯一の方法。


【アルフェメラスの王女の許しを得る】こと。


この300年、公爵家の力を使ってありとあらゆる手を尽くして調べたにも関わらず、それ以外の解呪方法は見つからなかった。

解呪にはアルフェメラス王女の許しを得る。

それが唯一の方法。

けれどどれだけ調べても、その詳細が分からない。

許し、とはなんなのか。

何を持って許しとするのか。

言葉だけでいいのか、それに伴う特定の行動をしてもらえばいいいのか。


けれどどのみち、戦争が続く以上、王女と接触する機会などないのだ。

クロス家の解呪は絶望的に思われた。


風向きが変わったのが5年前。

アルフェメラスに放っている密偵から、和平を訴えつづけている集団がいるとの知らせを受けた。

そしてその中心人物が、現状一人しかいないアルフェメラス王女だとも。

 

アッシュフォードは喜びに震え上がった。

和平を望んでいる。それも自分たちを唯一救ってくれるアルフェメラス王女が。

うまくすれば、信頼を勝ち取れる上に、恩まで売れる。

もちろん、戦争を止めたい気持ちは嘘じゃない。

クロス一族にとって終戦は悲願だ。

けれどそれよりも切実なのは、やはり命の保障だ。

すぐにアッシュフォードは、アルフェメラス王女の考えに賛同することを大々的に発表し、ハイエィシアを内側から変えることに尽力した。

  


父は5年前に亡くなった。

兄は生まれてすぐに。

姉もわずか7歳で亡くなった。

母は、弟を産んですぐに産後の日達が悪く亡くなった。


もう沢山だ。

これ以上大切な人たちを奪われてたまるか。

 

5つ下の妹。

まだ6歳になったばかりの弟。

自分が親代わりになって育てた大事な妹弟。


絶対に救ってみせる。

そのためならなんでもする。

例え、人の気持ちを利用するような姑息な手段だろうとも。


そのためなら僕はどんな嘘でも笑顔で吐き続けてみせる。





「君に一目惚れしちゃったみたい」


嘘を吐くのが得意なこの口からは、そんな言葉がするりとでてきた。

出会ってすぐにこんなことをいうのもどうかと思ったが、時間は限られている。


【許し】がなにを指すのかはいまだに分からないが、自分に惚れてもらえば間違いないだろう。

愛する男の頼みなら大抵のことなら聞いてくれるはず。

ましてやその男の命にかかわることならなおさら。


悠長に駆け引きをしている場合ではない。とにかくまずは異性として意識してもらわなければ話にならない。

一目惚れ、とはなんて都合のいい言葉だろうと思いつつ、それらしい表情を作るのも忘れない。

多少強引かもしれないが、これでうまくいくはずだ。

自慢ではないが、女性に困ったことはない。

頼んでもいないのにうるさいほど群がってくるし、ルーナ程ではないがそれなりに整った顔立ちをしていると自覚している。

熱っぽい表情と甘い声で特別扱いしてあげれば、すぐにでも落ちるはずだ。


「君に好きになってもらうために、どんなことでもするつもりだから。覚悟しておいてね?」


ニッコリと微笑んで、止めの口説き文句を甘く囁いた。


大丈夫だ、これで彼女はすぐに僕に落ちる。


そうして落ちてくれたなら、責任を持って一生大切にするから。


だから、お願いだから早く僕のところに落ちてきて・・・。











そう安易に思ってた時期が僕にもあったなぁ・・・・。


アッシュは、かつての愚かな自分を思いだし、はあっと重いため息を吐いた。














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