呪われた一族2
戦争の引き金になったレオナルドは即打ち首。
王女カノンも毒盃をあおることを強要され、レオナルド処刑の3日後に死んだ。
ハイエィシア王室は、その二人の遺体をアルフェメラスに差し出してなんとか怒りを鎮めてもらおうと交渉したが、娘を溺愛していたアルフェメラス王の怒りはその程度のことではおさまらず。
王族全員の首を差し出せ。娘を救えなかった王族全員が責任を取れと要求。
当然そんな要求に従えるわけもなく、ハイエィシアも軍を投入。
闘いはますます過熱していった。
一方、禁忌の子として産まれたフェリクス。
生後すぐに父も母も失った彼だが、殺されることはなかった。
ハイエィシアの国教が子殺しを絶対に認めていないからだ。
けれど、保護もされなかった。どうせ、近すぎる血の交配によって産まれた子だ。放っておいてもすぐに死ぬだろうと捨て置かれた。
最低限の衣食住だけは保たれていたが、王族の誰も彼に構うことはなかった。
彼はレオナルドのかわりに王太子となったエルヴィンの弟として仮初の身分を与えられ使用人によって育てられた。
予定と違ったのは、いつまでたってもフェリクスが死ななかったことだ。
それどころか、非常に優秀で。
誰に教わったわけでもないのに、独学で剣を学び、魔術を習得し。王宮の図書館にあった本を読みあさっては知識を蓄え。そして誰もが無視できないほどの人間に成長した。
気がつけば、フェリクスは英雄と呼ばれ国を支える人間としてならない存在になっていた。
それでも自分の出自をすでに知っていたフェリクスは決して奢らず、自分の親が侵した罪を一心に背負った。
妻をめとり、その妻を何よりも誰よりも大事にしつつ、自分の親せいで起こってしまった戦争をなんとか終わらせようと昼夜その身を投じた。
そんなフェリクスに異変が現れたのが、34歳の時だ。
まず右の足先に気味が悪い字ができた。
けれどどこかでぶつけたのだろう、とフェリクスは特段気にも止めていなかった。
だが、ある日気がつくと字は右足の甲にまで広がっていた。
これはおかしいとは思ったが、今戦場の最前線であるこの場を離れるわけにも行かず、また部下達に動揺を与えないためにフェリクスは見て見ぬふりをした。
その間にも字はどんどん体中に広がって。
やっと闘いが一段落し、領地に戻ったフェリクスが医者にかかったときには既に字は下半身すべてに広がっていた。何かが巻き付いたような黒い不気味な字。
フェリクスをみた医者は、こんな症状は見たことがないと首を傾げる。
何件も医者を尋ね歩いたが、結果は同じだった。
何もないわけがない。字が広がる度に、体調はどんどん悪くなる。もう歩くのさえ困難なほどだ。
そうして藁をすがる思いで訪れた王宮。
そこで働く、医師ではなく呪術師から。
フェリクスは自分の体に起こっている元凶を告げられることになる。
それは呪い。
一人孤独に死を迎えたアルフェメラス王女の、クロス一族への果てない憎しみの形。
字が全身に広がったとき、フェリクスは呪いによって死を迎えるというものだった。
呪いをとく方法は、たったひとつ。
許しを得ること。
エリンティアはもういない。だから同じ血を持つ、王女から。
アルフェメラスの王女から許しを得ること。
けれど、戦争が続く中、アルフェメラスの王女と接触する機会などあるわけもなく。
会ったとしても敵国のクロス家を王女が許してくれるわけもなく。
フェリクスは、字がでて約2年後に。やせ細り衰弱した末、字に絞め殺された。
それでも呪いは消えず、フェリクスの子供達も。
そしてその子供も。
次の代もその次の代も、みな遅かれ早かれ体のどこかに字が現れ、数年で命を落としていった。
そして、それは現クロス公爵家の当主であるアッシュフォードも勿論例外ではない。
五つ下の妹も、まだ幼い弟も。
アルフェメラス王女の許しを得られない限り、皆例外なく呪いに殺されてしまうのだ。
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