命懸けの賭け事
「あれがユーフェミア王女か・・・」
自分の屋敷の私室に帰ってきたアッシュフォード クロスは、一人小さく呟いた。
彼女に実際会ったなら、一体自分はどういう感情を抱くのだろう、と密かに興味があった。
クロス一族を未だに縛りつづけるアルフェメラスの王族。
憎しみを覚えるのか、敵意を覚えるのか。それとも全く逆に、生存本能が強い服従を示すのか。
けれど実際は、そのどれでもなかった。
強い敵意も感じはしなかったが、服従心も特に芽生えなかった。
簡単にいえば、特に興味を引かれなかった。
容姿は確かに王女というだけあってとても整っていると思う。
ふわふわと波打つディープゴールドの髪や、デマントイドガーネットのような緑色の瞳も美しいと思う。
肌は白くて滑らだし、爪の先まで綺麗に磨かれている。
100人いれば100人が美少女と評するだろう容姿をしている。
けれど、それだけだ。
・・・・・・所詮世間知らずのお姫様だ・・・・。
王宮の奥で大切に大切に育てられたのだろう。
日焼け等したこともないような肌。
苦労などしたことのないような綺麗な手。
毎日時間をかけて手入れされていたんだろう美しい髪。
何の苦労もしていない口だけは達者なお姫様。
一番安全な場所で、和平を叫びつづけただけの愚かな王女。
今回の和平協定は彼女の力なんかじゃない。
おそらく見目麗しい彼女は、和平の象徴として担ぎ上げられているだけ。
あんな弱々しい少女が、あれほど見事な交渉術や、双方が納得するような協定事案を出せるわけがない。
彼女はただの操り人形だ。
<彼>があれほど執着しているくらいだから、どれ程の女かと思えば。
肩すかしもいいところだ。
美しいだけの女など嫌というほど見てきた。
だからこそ、心は何も動かない。
けれど、操られるだけの愚かな女ならクロス一族にとっては好都合だ。
それだけ御しやすいということなのだから。
「ごめんね、王女様」
君に罪などないのだけれど。
でもそれをいうなら自分たちにだって罪はないはずだ。
なりふりかまっていられるほどの時間はない。
彼女には必ず自分に惚れてもらう。
どんな手を使っても。
アルフェメラスの王女は今現在彼女一人。
であれば、現状クロス一族が救えるのは彼女だけ。
そして言うことを聞いてもらうには、自分に惚れてもらうのが一番手っ取り早い。
こんな人の心を利用するようなやり方は本来好きじゃない。
けれどもうやり方にこだわっている時間はない。
・・・・大切な、妹と弟のために。
そして自分の全てを捨ててまでこの機会を与えてくれた親友のために・・・。
もう迷わない、ぶれない、最後までやり通してみせる。
アッシュフォード クロスは、薄ぐらい室内で一人静かに決意を固めた。
次話、クロス一族の話になります。
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