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闇に蠢く狂犯者

どしゃぶりの雨の中、男は人気のない森の中をひたすらに歩く。


今までの人生は最悪だった。

どれだけ頑張っても、いつも男は二番手だった。

目の前にはいつも大きな壁が立ちはだかっていて、身動きが取れなかった。

努力は決して報われず、必死になって収得した全てを、事もなげに手に入れていく者がいた。

自分が欲しかった言葉を、自分が決して手に入れられない輝かしい人生を。

産まれながらに与えられている者がいた。

 

見るもの全てを引き付ける絶対的なカリスマ性。

人々に安らぎを与える優しく整った風貌。

王者としての威厳と決断力。

そしてなにより、他の誰も並びえないほどの圧倒的な魔力。


決して超えられない壁は一番身近な人間、兄としていつも男の前に立ちはだかっていた。


褒めたたえる言葉はいつも、必死で努力を重ねてきた自分にではなく、努力もせずに笑っている兄にかけられる。

羨望の眼差しは自分を素通りして、隣に立つ兄にだけ向けられる。

勉学、魔法術、人付き合いに至るまで、何をやっても完璧にこなす兄。

それに比べて、何をするにも人一倍の努力を要する自分。

顔と名だけよく似たできそこない、と。

何度そう陰口をたたかれたことだろう。


それでもまだ、兄に子が産まれるまでは兄のスペアとしてそれなりに生きる意味をみいだせていた。

王太子となった兄、クラウスにもしものことがあったらお前が国を背負うのだ、と。

そう父にも言われ、何度も「期待しているぞ」と言葉をかけてもらった。

嬉しかった。

誰にも見向きもされなかった自分が、他でもない父王に期待をされている。そのことが何よりも嬉しかった。


けれどそれも兄が結婚をし、子がすぐに産まれたことでなくなった。


兄とよく似た、兄よりもさらに優秀な甥と姪。

その二人が産まれたことで、スペアとしての役割さえなくなった。


誰にも期待されない自分。

誰にも見向きもされない自分。

いつも強烈に輝く兄の影になり、日陰ばかりを歩く自分は一体何のために生まれてきたのか。


認められたい、認めさせたい。

自分に見向きもしなかった奴らが、自分に平伏する様を見てみたい。


そんな時だった。

ブランフラン国王ゼノが接触してきたのは。

かの王は、「貴方こそが王になるべき人だ」と認めてくれた。

そしてそのやり方まで教えてくれた。


驚いた、自分にこんな才能があったなど。

今まで自分は、やり方を知らなかっただけ。

頑張る方向が違っただけ。

この力は兄さえも遠く及ばないだろう。


後は、和平などと小賢しいことをほざく姪を殺し。

その罪をハイエィシアになすりつけ、大義名分を掲げてハイエィシアを滅ぼすだけ。

生意気なあの姪は、民衆の人気だけはある。

その姪の敵を滅ぼしたとなれば、民衆の心は手に入れたも同然。

混乱に乗じて、目障りな兄王と立太子したばかりの甥を始末すれば、玉座は自然と転がり込んでくる。


もう少しで、全てがうまくいく。


一時は、大事な生贄となるべき姪が異国で姿をくらまし焦ったが。

数日前にやっとその居場所を特定できた。

月が赤く輝いていたあの夜に、なにやら必死で誰かに助けを求めていたようだが。

この異国の地で、どこかの賊に襲われ慰め者にでもなっているのだろうか?

あの生意気な小娘が・・・?

考えただけで、愉快すぎて笑いがこみあがる。


「・・・ふふ・・。 今助けてあげるよ、ユーフェミア・・・」


それが血の繋がった叔父としてできる、せめてもの救いというものだろう。


そして・・・。


「綺麗に殺してやる」


ふふっと。

男は笑う。


と、その時。

踏み出した男の足がバチリと激しい痛みとともに弾かれた。

危うくバランスを崩しかけて、なんとか体勢を整える。


「・・・・・・・・・結界・・・・?」


魔力を探ってみれば、四方を囲むように結界が張られている。

これほどの広さを囲っているにもかかわらず、ムラのない強固な守り。

何と見事な結界か。

アルフェメラスでも、これほどのものを作れる人間はそうはいないだろうう。


「・・・・なるほど・・・」


この結界の中にいたおかげで魔力が遮断され、今までユーフェミアを見つけられなかったわけか・・・。


あのユーフェミアに、これほどの結界が作り出せるわけがない。

であれば・・・・。


大事な大事な姪をさらったのはただの賊ではないらしい。


これほどの広さの結界を作りだし、維持できるほどの実力者。

そんな人物がユーフェミアをさらった・・・いや、おそらく保護したのだ。


この結界の中には、ユーフェミアと共にその『誰か』もいるのだろう。


何人いるのかわからない。

相手の実力も把握できていない。


けれど、何を恐れることがあるだろう。

自分にはこれほど心強い『味方』が大勢いるというのに。


男の後ろ、遥か後方までにずらっと並んでいるのは人を超える腕力、鋭い牙と爪を持った異形のもの。

魔物。

ブランフラン国王からもらったヒントをもとに、魔物を従わせる術式を編み出した。

今まで誰にもできなかった自分だけの才能。

あの兄さえも成しえなかったことを自分は成したのだ。

この力があれば、世界さえ手にできる。


これからはこの力で、自分が。

このマリウスが世界を手に入れる。


そのために、まず目障りなあの姪を殺さなければ。


男、マリウスは強固な結界の前に腕を突き出した。


マリウスがかつてもっとも得意だったのが結界系の魔法。

誰よりもその性質を知り尽くしているマリウスに壊せない結界などない。


「砕けろ!」


魔力を乗せたその言葉を発した瞬間、四方を囲っていた強固な結界は。

激しい音をたてて散り散りに砕け散った。


「さあ、宴を始めようか」


そうしてマリウスはゆったりとした笑みを浮かべたまま一歩を踏み出した。








記念すべき連載100回目。

ここまで続けてこれたのは、皆様のおかげです。

ありがとうございます。

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