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10日ぶりの食事

毒薬を毎日飲め。それ以外は好きにしていい。


思えばルーナルドは最初に確かにそう言っていた。

そしてそれはどうやら事実であるらしく、屋敷から逃げだそうとしたユーフェミアにルーナルドは一瞥くれただけでその場から去って行った。

特に折檻をするわけでも、きつい罰を与えるわけでもなく。また激高して切りかかってくるわけでもなく。

ただ興味なさそうな冷たい目でちらりと一瞬だけ視線を向けただけだった。

 そのことに、ホッと安堵の息を吐き出したユーフェミアの顔をクロス公爵がニコニコと笑いながら覗き込んでくる。

本当に、先程あの恐ろしい第二王子と対等に渡り合ってた人と同一人物かと疑いたくなるほど、その笑顔は穏やかで人懐っこい。


「さて、じゃあ王女様? 朝ごはんにしよっか。お腹すいたでしょう?」


確かに世間的には朝食の時間になるのだろう。

けれど朝ご飯とは言っても、ユーフェミアにはきっと今日もよくわからない液体がでるだけで。

公爵が思っているようなそんな立派な朝食などでてはこない。


そう思って曖昧な返事を浮かべたユーフェミアだったが。


いつものダイニングに並べられている料理を見て、思わず感嘆の声を上げた。


数種類もの焼きたてのパン。

新鮮と一目でわかるみずみずしいサラダ。

湯気をあげる温かそうなスープ。

そしてとろとろのチーズがかかったオムレツ。


「僕が用意したんだ」


ニコニコとクロス公爵が笑う。


「これを公爵様が? すごいです、とてもおいしそうです」


10日間、まともな食事を一切取っていないユーフェミアのお腹が、部屋いっぱいに立ち込めるおいしそうな臭いに盛大に空腹を訴える。

つまり、盛大にお腹がなった。


「・・・・ふん、はしたない娘だな。だがお前に食わせるものはない。奴隷のお前はこっちだ」


一人、一番上座に座ってすでに食事を取っていたルーナルドが、冷たく言い放つ。


顎で雑に示された、その先にあるのはいつもの謎の液体。

並べられた他の食事に比べて、お世辞にもおいしそうには見えないし、なんなら食事にすら見えない。


「もう、ルーナは、意地悪してはダメだよ。はい、これは王女様の分ね。口に合うといいんだけど」


そういって、ユーフェミアの前には暖かいスープが並々と注がれたカップがコトリと音を立てておかれた。


「聞けば、毒のせいで余り物を食べれていないんだって?じゃあまずこれからだね」


用意してもらったのは野菜をくたくたに煮たスープとパン粥。


ちらりと上座にすわるルーナルドの様子を伺ったが、興味がないのか黙々と食事をするだけでこちらをみようともしない。


・・これは、食べてもいい、ということなのでしょうか?

食べていいと許可はでていないが、食べてはいけないとの言葉もない。


なので、ユーフェミアは許可がでたものと勝手に理解した。

 

「い、いただきます」


「はい、どうぞ、召し上がれ」


ニコニコと嬉しそうに公爵が笑う

この料理すべてを公爵が用意したなんてすごい。

匙を入れれば、ふわりと鼻をくすぐるミルクの臭い。

パクリと口に含めば、暖かくて優しい味が口いっぱいに広がった。


この日の朝食で、ユーフェミアは10日ぶりに食事と言えるものを口にした。


「ねえ、ユーフェミア王女殿下?」


久しぶりの食事が体の隅々まで行き渡るのを実感し、感動に打ち震えていたユーフェミアの顔を、隣の席に座った公爵が覗き込んでくる。


「なんでしょうか?」


顔を向ければ、頬杖をついた公爵がニコニコと穏やかに笑っている。


そしていきなり何の前触れもなく爆弾を放り込んでいた。


「ねえ、僕君に一目惚れしちゃったみたい」


声のトーンが急に変わった。

ニコニコと穏やかに笑っていた目が、獲物を狙う肉食獣のようにぎらついた途端、公爵を取り巻く雰囲気がぐっと色気が増した。


「だからねぇ? 君に好きになってもらうためになんでもするつもりだから」


覚悟しておいてね?

耳元で響く、色気を存分に含んだ声。

こちらをみつめる熱のこもった瞳。

わずかに朱にそまった頬。


それを正しく認識して。

ユーフェミアはゆっくりと口角をあげた。


「そうでしたか。それは光栄です、公爵様。これからもよろしくお願いしますね」


壮絶なまでの色香にさらされながら。


顔色一つ変えることなく。


ユーフェミアは何を考えているのかよくわからない顔でニッコリと微笑んだ。






次話より、クロス視点、ルーナ視点、最後にユーフェミア視点に戻る予定です。

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