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第3話 真実の愛探し

学園は、貴族の子女と裕福な平民の一部が通うことを許されている。


もちろん、男女別々だ。


寮生もいるが、ここは修道院と女子修道院がそれぞれ管理していて、とても監視が厳しいと言う噂だった。貧乏貴族の子弟や、平民の特待生などは、仕方なくそこへ入っていた。


私たちは、全員、王都に屋敷を構えているので自宅から通っていた。ケネスもだ。


ただ、食堂だけは一緒になる。


そして、授業を別々に分けたり、寮生を口やかましく監視したりするくせに、さすが貴族と言うべきか、社交については何とも緩いところがあった。


食堂やそこに続く庭園では、男女が自由にしゃべっていても誰も文句を言わない。




ケネスは、私には冷たいが、ほかの女子には悪い態度ではない。

なんだか表面を滑っているだけといった感じもあるが。


国内有数の名家同士の婚約なのだけれど、私とケネスの不仲は実は有名で、そこを付け狙うもっと身分の低い貴族の娘たちも多いと噂になっていた。


そんな話を聞いたところで、私にはどうしようもなかったけど、噂って、聞きたくなくても耳に入ってくる。


ケネスは特に目立ってステキな男性だし、婚約者の私が身分だけ高い、いかにもダメそうな女子だから、余計話題になるのだとわかっている。


だって、まず、重い感じのメガネだし、センスゼロの流行を無視した重厚なドレスなんだもの。これでは、婚約者が冷たくても、仕方がないでしょう。


まず、メガネとドレスを変えたらどうかとルシンダにも言われたのだけど、そんな提言が母にバレたら、ルシンダと一緒に居ることを止められてしまう。


ルシンダが「悪いお友達」扱いになっちゃう。



そうではありませんと母を説得することは、もう、私はあきらめていた。


使用人が朝夕の私の身だしなみを、母の命令でチェックしていたし、少しでも変わった様子をすると、報告がいって、淑女らしくないと必ずお説教された。


母の説教は、母が私を大事に思う分だけ重くて、期待をされていることがよくわかる。


婚約に対しても同様の考え方で、決まった以上は変更はありえなかった。


そして婚約者の間にまったく交流がなくても、母はむしろ当然だと考える人だった。


「婚約期間中の交際などむしろ不健全でしょう。立派な淑女と言うものは、例え婚約者とも礼儀正しくあるべきです」


つまり、お互い、全くの無視でよろしいと。

母の考えを変更させるための、うまい方法が見つからず、私はため息をついた。

ホントにこれでいいのかしら?





ところがある日、事情が変わった。


隣国のアマンダ王女が入学して来られたのである。


「どんな方なのかしら? 今頃、急に留学してこられるだなんて」


ルシンダが、ちょうどその場にいたアーノルドとウィリアムに向かって訊いた。


こんな時アーノルドは便利だ。そして、たいていのことは教えてくれる。


「隣国の第一王女だよ。留学のために来たのさ。でも、それには……」


とある事情があるのだと言う。


アーノルドは、あたりをはばかりながら教えてくれた。



第二王子などが隣国に留学することはよくある。

例えば、隣国の状況をよく知るためとか、そこの社交界になじむためとか。


だが、王女の遊学など、あまり聞かない。


「婚約者がいるのに浮気をしたっていうんだ」


「へ、へえ……」


私たちは茶色の巻き毛のおとなしそうな王女を遠巻きに眺めた。


なかなか美人で、少なくとも見たところは浮気だのと言ったことはやりそうに見えない。


「噂ってあてにならないよねえ?」


ウィリアムが興味ありげに言う。


「政略に巻き込まれたとか?」


我々4人の会話のもっぱらの中心は、しばらくはアマンダ王女になった。


しかし、我々は所詮はただの貴族……いや、私の家は公爵家だから大貴族に間違いないが、数ある家のうちの一つに過ぎず、とにかく王族なんかではない。王弟殿下が名乗る公爵などとは違う。



ちなみに当家、モンフォール公爵の叙爵は、はるか昔、当時の王の浮気の果ての庶腹の王子に遡る。

あんまり昔の話なので、そもそもの醜聞など、もはや歴史だ。教科書に載っているくらいだ。


ただご先祖様も、もう少し後先考えて ご乱行に及んでくれていたらいいのに。


せめて、もう少し地味にやってくれていたら、生徒に興味を持たせるための逸話とかになって わざわざ教科書に載らないで済んだのに。


モンフォール家のご先祖様のご乱行が、歴史の授業やテストに出ると、赤面したものだ。




話が飛んだけれど、そんなわけで私たちは熱心にアマンダ王女を遠くから観察していた。


背の低い、愛らしいふわふわの茶色い髪と琥珀のような美しい目の、何ともかわいらしい少女だった。


しかし、見た目おとなしそうなアマンダ王女が本領を発揮したのは、編入後わずか一週間後だった。


人もあろうに、彼女はケネスに目を付けたのである。





ある日、私たちは耳寄りな話を聞いた。


ケネスが真実の愛を探していると言う話だった。


「一体、なに、言ってるのかしら」


ルシンダが、ちょっとむっとしたような口調で言った。


「真実の愛って……真実の愛ってどんなもののことをいってるのかしら」


「そんなもの、そこらに転がってるわけないじゃないか。探したいなんて、落とし物ではあるまいし。時間をかけて育むものだと僕は思うね」


ルシンダの兄のアーノルド様も分別臭く言った。




私は、友達二人の発言を聞きながら、食堂のテーブルに目を落とした。


ごめんなさい。ルシンダ。そしてアーノルド様。


すごく気を使わせて。


わかっています。


真実の愛を探すって、つまり、今の婚約者から自由になりたいってことですよね。


言い換えてるだけですよね。


遂に言葉に出し始めたのね、ケネス。


仕方ないわ……



アマンダ王女と仲良くなったと言うなら、元々好きでもない婚約者なんか邪魔なだけ。


私は母の命令で妙なメガネをかけているし、母が自分の趣味であつらえた流行完全無視の奇妙なドレスを着ている。


とうとう来たるべき時が来たのだ。

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