エピローグ~始まりはいつだって突然
カンカンカンカン…
耳に響く音が五月蝿い。この音を喜んで聴くのは鉄道マニアか爆音マニアではなかろうか。そんな大変失礼な感情を抱きながら私、浜野悠里はこの音の主の到着を待っている。
食品製造会社に勤めている私は積もり積もった仕事疲れを小さく口から吐き出した。衣食住、生きていくだけでも我慢しなければいけないことが沢山である。来世は石油王にでもなりたいと皆が考えそうな事を心の中で呟きながら、お一人様につき目線すらも手持ち無沙汰な私は少しだけ上を見上げて空をみた。
雨だと言っていた天気予報とは裏腹に空は晴れていて、燃えたつような赤さを放っている。気象予報士さん外れてますよ、と心の中で一人呟きながらあまり空を見上げる機会もなかったなとその光に見入っていた、とても儚くそして美しく、そしてなんてーー
「眩しい!?」
あまりの事に一人で大声を出す。そう眩しい、とても眩しいのだ。
両の眼が、いや体が突然光に包まれる。突然の出来事にパニックになった私は一体何なのと叫んだが、自分の言葉すら何かにかき消されたように聞こえない。落ち着いて事態を把握しようとしても頭はまるで誰かに肩を掴まれて揺さぶられているようで考えることすら儘ならない状況だった。
(……けて……世……塔…を…………私……りあ…)
聞こえる。自分の叫び声すら聞こえないはずのこの状況で、ノイズがかかっているみたいにに殆ど聞き取れないが、まるで迷子の子供の様に泣きそうな声が。
人のことを考えているほど余裕のある人間ではないが、その時はあまりにも悲痛なその声にどうか泣かないで…と薄れゆく思考の中呟きながら、私は意識を手放した。