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みわかず的現実恋愛集  作者: みわかず
4話:花火は社の前で【「夏祭りと君」企画】
7/29

1話

遥彼方さま主催「夏祭りと君」企画参加作品です。


男子中学生主人公。

ハッピーエンド…?


約18000字(全4話)


 

 五歳の夏祭りに、透明なお姉さんを見た。


「じいちゃん、ゼリーみたいなひとがいる」


 僕の指差した先を見た祖父は、お社の前に立って花火を見ている白い着物の女の人が見えなかった。でも、信じてくれた。

 僕の頭を撫でながら、そうか見えるのかと笑った。


()()()()の邪魔をせんように、もう少しこっちに来ようか」


 そうして僕は祖父に抱っこされ、半透明なお姉さんから少し離れた所で並んで花火を見た。





 祖父の家は山の麓にあって、父が連休の時はドライブがてら遊びに行った。母は山の物が大好きで、よく祖父母と山菜などを取りに行き、僕は父と虫取りや魚釣りに励んだ。


 お盆には地区の夏祭りがあり、手作りの屋台がたくさん並んで、締めには花火も上がった。都会の花火大会に比べたら断然少ないけれど、いつも静かな町を明るくする花火は印象的で、夏休みの絵日記には毎年必ず描いた。


 お盆恒例のお墓参りの後に、祖父の家では必ずする事がある。

 裏山を五分登った所にある小さなお社の草取りだ。裏山と言っても祖父の物ではなく、地域のものだけど。

 お社には木の鳥居があり、僕は平気でも祖父は屈まなければくぐれない小さなもので、お社も祖父の家にある仏壇くらいの大きさで、物心がついた時には小人の家だと思っていた。

 雨ざらしの箇所には苔も生え、随分と古びたお社はなぜか地域に知らない人が多く、祖父の家だけでそっと草取りをしているそうだ。


 この幽霊と関係があるのかも。


 父も、祖母も母も、僕が幽霊を見たと言った時は驚いたけど、その後はほっとしたようにも見えた。なぜか母が一番嬉しそうで、「ジュンアイよジュンアイ!」と熱心に父に語っていた。


 次の年からなぜか皆でお社で花火を見るようになった。花火を見るには確かに穴場ではあるのだけれど、行く道は階段もないほぼ獣道。

 足が痛むからと毎年言っていた祖母は嬉々として、山道を浴衣姿では歩けないからと言っていた母は浴衣にスニーカーという格好で、必然的に荷物持ちになった父は冷蔵庫にビールをたくさん冷やしてあるのを確認して。


 夏祭りの花火の時間しか現れない幽霊は、花火を見るだけで害もなく、恐くもない。そんな幽霊は僕が中学生になると同い年くらいに見えてきた。


 僕以外に誰も見えない。けれど、僕らは幽霊からも認識されていない。


 そんな不思議な関係がずっと続くのだと思っていた。





『さすけ……?』




 幽霊が僕を驚いたように見ていた。


 僕も呆然とした。毎年ずっと花火を見ていただけの幽霊が、それ以外の行動をするなんて。絵に描いた幽霊じゃなかった。

 でも僕の名前は「さすけ」ではない。


「ぎゃあっ!? 着物の女の子が!」


 母が叫んだ。父はノンアルコールビールをこぼし、祖父母は枝豆を咥えながら幽霊を見ている。

 幽霊も皆に気づいたのか少し後ずさった。足は無いけど。


『だ、だれ……?』


「あ、ああ、大声を出してごめんなさい。可愛い女の子が急に現れたからびっくりしちゃったの」


 母は強し。僕の同級生に声をかけるのと変わらない声音。


『え、可愛い女の子……?』


「ぶっ!何であなたがキョロキョロするのよ。私たち以外にはあなたしかいないわよ?」


 動揺したのか、幽霊はキョロキョロと辺りを見回す。


「ゼリーか……わらび餅か……」


 祖父がぼそりと呟いた。


「僕には、いつも見ているのと変わらないんだけど、皆にはどう見えてるの……?」


「たぶん、お前と同じように見えているよ。向こうが透けているね」


 皆にも幽霊に見えているようで少しホッとした。

 でも何で急に見えるようになったんだろう?

 幽霊の方も落ち着いたのか、改めて僕を見てきた。


『あなたは、"さすけ"ではないの?』


 違うと言うと幽霊はしゅんとした。あぁ、子犬がうなだれているようだ。

 すると、祖父が幽霊にゆっくりと近づいた。


「"佐助(さすけ)"は、私の大伯父です。あなたは、"お嬢さん"ですか?」


 祖父のかけた言葉を繰り返した幽霊は、微かに微笑んでから頷いた。


『はい。佐助からは、そう呼ばれていました』


 そうですかと、今度は祖父が嬉しそうに頷いた。


「私は佐助の双子の弟のひ孫になります。お嬢さんが佐助と間違えたのは、私の孫になります」


『ひ孫……まあ……では……随分と、時が経ったのですね……』


 僕にはさっぱり話が見えないが、ビールでシャツがびしょびしょのまま固まっている父以外の大人は何だか嬉しそうな顔をしていた。







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