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みわかず的現実恋愛集  作者: みわかず
3話:雨が降ったら
6/29

ーー

遥彼方さま、活動報告ミニお題より


雨が降り出し、歩いていた主人公が傘を広げる。

  ↓

軒先で雨宿りしている同級生を見つける。

  ↓

相合傘をして二人で帰る。


この流れを一人称で書いてみよう。

主人公の性別、性格、年齢は自由。

二人の関係も自由。同級生はかつての、でもよし。



高校生。


約2000字


 


 ポツと顔に何かが当たったと空を見上げると、眼鏡にもポツポツと水滴が当たった。


 うーわ、マジで降って来やがった。


 いそいそとスクバから折り畳み傘を出して広げると、待っていたかのように雨の勢いが強くなった。濡れた眼鏡を制服のシャツでテキトーに拭く。

 蒸し暑かったのが、少し肌寒く感じる。

 ブレザーを脱がなくて良かった。さっさと帰ろ。


 商店街をいつもより早めに歩いていると、本屋の軒下に女子が一人立ってるのが見えた。あのエリート高校の制服は。

 一人だけ思い当たったが、もう少し近づかないと顔が分からない。


「あ。赤木くん」


 向こうから声を掛けられた。中学を卒業して以来会っていなかったのに、あっさりと名前を呼ばれた。


「……やっぱり青山か。何してんだ?」


 中学から自他共に認める本好きの青山が本屋の前にいるのに、我ながらアホな質問をしてしまった。

 高校生になって少し伸びたらしい髪は変わらずお下げのまま。


「新刊を買ってたら雨が降りだしちゃって、少し弱まるのを待つか、あそこのコンビニで傘を買うか迷ってたところ」


 変わっていない言動に内心ほっとする。


「……相変わらず本の虫か」

「将来は本倉庫を作れるくらいに稼ぐ予定です」

「ぶっ、その自己紹介も変わらないのかよ」

「さすがに高校では引かれたかな、あはは」


 ブレないな。俺は漫画の方が好きだけど、青山に薦められた本が面白く読めたおかげで小説も読むようになった。だから青山の夢はちょっと憧れている。いや、結構応援してる。


「じゃあそのおこぼれをあてにして今のうちに恩を売っとくか。どこまで送ればいい?」


 え、とぽかんとしやがって。そんな無防備だとキスするぞ。

 まあ、それをやらかすと変態になるからしないけど、そこのコンビニまでと言われてもそれはそれで凹むな。


「……じゃあ、家まで……いい?」


 青山はチラリと俺の傘を見てから言った。……家まで、いいのか?


「お父さんのコンビニ傘で家の傘立ていっぱいなの」


 …………色々妄想する前で良かった……ちっ。



 差し出した傘に青山が入ってくると、さすがに狭い。相合い傘なんていつ以来だろう。


 ああ、三年の時の文化祭だっけ。

 お祭り好きだったクラスのおかげで材料が足りなくなり、学校近くのホームセンターまで買い出しに行ったんだった。ペンキやら木材やら買うのに、皆何かしら作業してて丁度手の空いてるのが学級委員の青山しかいないからって無理矢理付いて行った。女子一人じゃ可哀想だろうよ。


 小雨が降っていたからホームセンターまでは相合い傘で行った。帰りは荷物がいっぱいになるし、俺が傘を持つ余裕はないって、青山の傘だけにした。



 あの時、傘の下で、女子っていい匂いがすると初めて認識した。


 雨の匂いに混じるそれは、今も変わらない。今日、本屋の前を通って良かった。



 近況を話題にしながら初めての住宅街を歩く。もうすぐだよと言ったのに、ふと青山が立ち止まった。

 おぉ何だどうした? ここまでか?


 家まで行けなかったのは残念だが、雨は小降りになっていた。これならもう傘はいらないな。


「赤木くんは相変わらず優しいね」

「そうか?」


 即バイバイと言われると思っていたから、ただ驚いた。優しいなんて言われ慣れないから普通に照れる。恥ずい。


「うん。久しぶりに会ったのに、変わらずに話せて、傘に入れてもらえて、う、嬉しかった」


 やめろ青山、下心がめっちゃ恥ずかしい。でもこれは俺のチャンス。


「青山、ライン交換してもいい?」


 高校入学と同時に買ってもらったスマホをブレザーのポケットから出す。青山がスマホを持ってなくても番号は教えておこう。とりあえず、雨が降ったら傘を貸すぐらいはできるよと言い訳を考えて。


「あ!あの、今日、家に忘れてて、」


 青山の狼狽えながらの説明に少しがっかり。いやだいぶ。家に忘れてなんて断り文句だろ……


「家に着いたら、少し待っててくれる? 急いで取ってくるから」


 小雨の中に傘から飛び出す青山の腕を慌てて掴まえる。


「家まで送るって」


 慌てた事が恥ずかしいのか、少し赤くなってへらりと笑う青山。

 ……今は勘弁してくれよ。可愛いのは。良いように勘違いしそうだ。

 あ、と掴んだ腕を名残惜しく離す。


「ごめん、急に掴んだから痛かったろ」


「え、全然痛くないよ。私こそ慌てちゃってごめんなさい。せっかく濡れないように送ってもらったのに」


「気にすんなって。今日買った本、面白かったら今度貸してくれればいいよ」


 何とか次に繋げようと内心わりと必死な俺を見上げる青山。


「うん、分かった」


 ……この距離での笑顔はヤバい。

 一人で悶えていると、青山があのねと呟いた。


「赤木くんじゃなかったら傘に入らないし……い、家の場所を教えたりもしない……よ」


 青山はさらに真っ赤になって、俺は、眼鏡が曇った。










お読みいただき、ありがとうございました( ´ ▽ ` )


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