6話
でも今日だから!シフォンケーキ焼いちゃったから!
今日絶対告白しなきゃいけないんだからね私!
これから八巻君はモテモテだから!私なんて今日言わなかったら八巻君の視界に入らなくなるから!
……どうして、こういう、落ち込むことを、自分で考えちゃうんだろ……バカ。
「いた!」
ダン!と強い足音に思わず顔を上げると、息を切らせた八巻君がいた。
「良かったやっぱり望だった。会いたすぎて幻覚見たかと思った」
ああ、いつもの八巻君だ。―――だけど。
「ご、ごめんね、予定より早く着いちゃって、でもあの応援の中にはいたくなくて」
「あー、あれはなー。あれに負けたくなくて片付けちょっぱやで終わらしてきた、ははっ」
「終わったの?」
「うん、帰ろ。迎えにきた」
「……あの、八巻君」
もう涙が出そうだ。八巻君が嬉しいことばかり言ってくれる。
予定は狂ったけど、バッグから丁寧にシフォンケーキの箱を取り出す。そして、八巻君へ。
リボンの掛かった箱をまじまじと見て、受け取ろうと手を差し出す八巻君。呼吸を整える私。
「八巻君が、好きです。受け取ってください」
なんのひねりもない告白。
顔は熱いし、声は震えた。でも、目を見て言えた。
八巻君の目が光った気がして、ガシリと、でも優しく箱を持たれた。
「うん。俺も望が好き。全部もらう。誰にもやらない」
真っ赤な顔の八巻君。
この間より、赤い。
きっと、私も、赤い。
「あ!改めて、県大会出場おめでとう」
「あ、そか。それもあった。忘れてた」
二人同時に笑ってしまった。
そして、昇降口を並んで外に出る。
「どうよ俺らすごいでしょ。自信になった?」
「うんとっても。差し入れが増えても、これからもお菓子作ったら食べてくれる?」
「もちろん!俺だけに作ってほしいけど、望のお菓子が美味しいことも世に知らしめたいのが悩みです」
「え〜、ふふっ、嬉しい、ありがと八巻君」
途端に手を繋がれ、八巻君が校門に向かって息を大きく吸い込んだ。
「俺の彼女可愛いーーっ!!」
「うるせぇ八巻!どこの妄想彼女……って、ええっ!?小田ちゃん!?」
「はあ?うわっ!手ぇ繋いでる!?」
「嘘だろ!?どういうこと!?」
「あ!なんだその箱!お前だけズルいぞ!」
「よこせその箱!うまそうな気配がする!」
わらわらと現れたみんなにどういう顔をしたらいいかわからない。
「わっははー!この箱は県大会出場を決めた俺だけのものであるー!」
「あ、あれか。って!決めたの菅井だろうが!」
「「「「「 そうだそうだ! 」」」」」
「ぐはっ!俺のアシストがあってこその菅井だ!」
「八巻こそ良いところにいた菅井に感謝しろ!」
「「「「「 そうだそうだ! 」」」」」
「お前ら俺に厳しすぎない!?」
「「「「「 いいからその箱よこせや! 」」」」」
「ギャーッ!追い剥ぎーっ!」
なぜか安定の鬼ごっこが始まってしまった。いつもは美香先輩に追いかけられているみんなが八巻君を追いかける。
グラウンドの方に走って行くみんなとすれ違いで菅井君と美香先輩がやって来た。バッグから菅井君用のバナナケーキを取り出す。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、私の後輩はおバカが多すぎない……?」
「うわ、俺は一緒にしないでほしいです」
「そういえば菅井は最近バカしないね?」
「一応高校生なんで」
「なにそれ」
今のうちに渡さなきゃ、菅井君までみんなに追いかけられちゃう。
「二人ともおつかれさまでした。はい菅井君、県大会出場おめでとう」
「おー!ありがとう小田ちゃん。うわ、ラッピングも上手だね、店で売ってるやつみたい」
「ほんとだ!赤いリボン可愛い!のんちゃんの女子力高いわ〜」
「えへへ、私の女子力はお菓子作りに特化してるので、女子力というなら絶対美香先輩です」
「やだ嬉しい!やっぱ後輩は女子よ!あいつらに言わせると私のはオカン力らしいからね〜」
「美香先輩は可愛いッス」
「やだ〜!ありがと菅井〜!」
「だから俺の彼女になってください」
「え」
「今ならなんと小田ちゃんが作った美香先輩の好物、チョコバナナケーキが付いてきますよ」
「え!」
「どうですか?」
「えぇ……本気?」
「試合くらい本気ッス」
なんで私の目の前で告白するの。こっそり立ち去るにも近すぎて逆に動けない。そして菅井君のアプローチの仕方がよくわからない。それだとケーキが大きなおまけになりませんか?ただのプレゼントじゃなかったの?
「美香先輩好きです。眼中にないなら今から入れてください」
「い、言い方なんかグロい」
「今片思い中なら失恋するのを待ってます」
「それヒドくない!?」
「年上になるのは無理ですけど、美香先輩が大好きな細マッチョになりますよ」
「ぐぬぬ!」
「俺の顔、わりと好きですよね?」
「ぎゃあっ!」
美香先輩が両手で顔を覆った。その手も首も真っ赤だ。可愛い。
「やだもう、ちょっと待って、えええちょっと待って〜」
「前向きに考えてくれるなら小田ちゃんのケーキをプレゼント!」
「菅井の卑怯者〜!のんちゃんのケーキじゃ言うこと聞くしかないじゃんか〜」
「そりゃ勝率を上げるためなら何でもしますよ」
「のんちゃんは欲しい、でもちょっと待って〜」
なぜか引き換えが私になってしまって、美香先輩の混乱がわかりやすい。
でも、嫌で困っているようには見えない。
ふと見れば、菅井君のケーキを持ってない方の手は握り込んだままだ。
顔を隠したまま唸っていた美香先輩が呟く。
「……白状すると、菅井の声がわりと好き……」
「美香先輩好きです」
「ぎゃあ!わざと良い感じに言うな!」
「俺のこともっと好きになって」
「囁くなー!菅井ーっ!こらーっ!」
「わはは!」
そうして、美香先輩は逃げる菅井君を追いかけていってしまった。
……一人になっちゃった……
美香先輩と菅井君も気になるけど、八巻君たちはどこまで行ったんだろう。みんなが途中で帰ってたらカップケーキどうしようかな。
とか思ってるうちに息を切らせた八巻君たちが戻ってきた。
「はあっ、はーっ、いい加減、諦めろ」
「「「「「 それが、小田ちゃんの、おやつなら、俺たちは!諦めない! 」」」」」
「あ、あの、みんなの分はカップケーキがあるの」
「「「「「 キャーッ!さすが小田ちゃん様ーっ! 」」」」」
八巻君をジリジリと囲んでいたみんなは一瞬で私の前に一列に並んだ。部活やって、追いかけっこして、まだ機敏に動けるなんて、サッカー部員すごい。
それから菅井君と美香先輩が手を繋いで戻ってきてまたひと騒動。
そして、八巻君と二人きりで帰ることに。
「望を送った後に美香先輩と喋ってたのは、どうやったら望に意識してもらえるか聞いてたんだ。全然役に立たなかったけど。なんで菅井は美香先輩がいいのか俺にはさっぱりわからん」
謎が解けてすっきりして、そして恥ずかしい。
それを伝えると八巻君は胸元をぎゅっと掴んだ。
「好きなコがヤキモチ焼いてくれる、最高……!」
そ、そういうものかな……?
「望としたいこといっぱいあるんだけど、ひとつお願いしてもいい?」
「うん、なあに?」
「俺のこと名前で呼んでよ」
「ふあっ!?」
「望からの『八巻君』もいいんだけど、彼女には名前を呼ばれたい」
「ええええ、と……け、健太、くん?」
「……恥ずかしげにたどたどしく呼んでくれる彼女、最高!」
「えええ……」
恥ずかしいし照れるし、隣を歩いていることにフワフワする。
「彼氏彼女っぽい!だからもう望に失恋ケーキはないからね」
頬を赤らめた八巻君がとても、かっこいい。
「……ありがとう、健太君」
大好き。
了
お読みいただき、ありがとうございました(●´ω`●)
どぞ、眼球を休めてあげてください。




