3話
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「クリスマスはどうするの?」
すっかり弟たちに懐かれたお兄さんは、念願のおでんうどんを取り合いながら食べて満足したようだ。
「家でご飯ですよ。チキンとオードブルは予約したので、ケーキを焼くだけですね」
「え!ケーキは手作り!?」
「弟たちも一緒に作りますよ」
私が小学生の頃は両親も仕事を休んでくれていたが、そこは年の瀬、年々休みを取り辛くなり、半休をもらえれば万々歳だ。当時まだ小さかった弟たちはそれが不満で、友達と自分らを比べてはいじけていた。
その時にたまたまテレビで、弟たちと同い年の子供が買ってきたスポンジケーキをデコレーションする企画をしていた。それが下手で笑ったのだが、何のスイッチが入ったのか弟たちもやりたいと言い出した。出費はかさむがデコレーションケーキを3個も食べられるかもしれないと思うと私も良い案に思えて実行。
台所もリビングもめちゃくちゃになったけど、すっごい楽しかった。
「今は普通ですけど、ケーキ作りは3年続いて、クリスマスはうちだけ世間とは別なイベントになってました」
写真に撮ったケーキを切り抜いてテープで補強して、ツリーのオーナメントに飾る。去年のものより美しく!が合言葉だった。
「今はしないの?」
「はい。汚い話ですけど一昨年のクリスマスは食べすぎて吐いちゃって、ケーキのフードファイトはもったいないからやめようってなりました」
「あー……」
「私は残った2日目のケーキも好きですけどね。残骸なのに美味しいってすごいなと」
「あはは」
「その代わりにチキンの量が増えて、結局出費も増えたという……」
「あはははは!」
わ。お兄さんも大笑いするんだ。いつもフニャっとした笑顔ばかりだから新鮮だ。弟たちも当時の写真を持ってきたりで、一緒にワイワイしてる姿をこっそり見つめていると、お兄さんはふいに私を振り返った。
「日本の若人はイブは恋人とディナーじゃないの?」
若人!?
「えー、恋人がいたら考えますけど、当分はファミリークリスマスの予定です」
「姉ちゃんに聞くなよ!」「兄ちゃんはクリスマスはディナーだろ?」「後学のためにそのプランを詳しく!」
私に聞くなとはなんだ。彼氏いない歴=年齢だからなんだ。
弟たちの読みに納得とがっかりをすると、お兄さんはいつものフニャリ笑い。
「ないない。今年は家に帰らないから会社の独り身男スタッフたちと忘年会をクリスマスに当てようって話になって」
「男だけのクリスマス!」「ただの飲み会!」「え……もしや俺らの未来じゃね……?」
自らの不吉発言にさらに騒ぎ出す弟たち。それを悪い笑顔で煽るお兄さん。
面白いけど、なんか疎外感。男だけのクリスマスいいじゃん、むしろやれ。ずっと続け。フン。
「男だけだと際限なく呑んじゃうから、帰りの安全面からリモートにしようかなぁとかね」
「わ、イマドキ〜」「自分の好きなツマミだけって天国!」「リモート寝落ち大会!」
「というわけで料理頼んでもいい?」
「え?」
「本当はここにまざりたいけど、ファミリークリスマスの邪魔はできないし。手間を掛けさせるのは申しわけないけど、君のご飯を食べたいし見せびらかしたい」
やっぱタラシだ、私チョロ過ぎ、呪ってごめんなさい。
「作らせていただきます」
「やった!ありがとう」
「姉ちゃんチョロ!」「でもリクエストはいつも聞いてくれるよな〜」「兄ちゃんも胃袋、鷲掴まれたか……」
ケーキはスポンジを焼いてしまえば、デコレーションは弟たちの担当だ。オードブルも頼んであるし時間はある。
「リクエストはありますか?家庭料理の範囲でお願いします」
「この間のグラタン食べたい」
「わかりました。他には?」
「お任せで」
「承りました」
「条件つけてばかりで申しわけないんだけど、ご家族の分も一緒に作って、次の日の献立にしなよ。代金は俺持ち。クリスマスプレゼント」
「え、でも」
「俺はほら、たぶん翌日も腹いっぱいだろうから気にしなくていいし」
「それとこれとは……」
「いつも俺一人分計算させるの面倒だろうなと思ってさ。大丈夫、一応稼いでいるし!」
「兄ちゃんカッケー!」「言ってみてえー!」「キャー!抱いてー!」
おいコラ弟よ。
「……わかりました。じゃあ、甘えます」
「はい、喜んで」
ふふっ、その使い方、合ってるのかな。
フニャっと笑うお兄さんはやっぱり可愛いなぁ。




