2話
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「兄ちゃんすげえ!」「ちくしょー!また負けた!」「今度こそ!唸れ俺の右手!」
「はっはっはー、蹴散らしてくれるわー」
自社アプリのキャラクターのぬいぐるみを持った隣のお兄さんが我が家のチャイムを鳴らしたのは30分前。試作ぬいぐるみについて女子高生の意見を聞きたいとやって来たのを、そこに丁度帰ってきた弟たちがゲーム拉致。両親共に残業で夕飯いらないと連絡があり、さて仕込んだ夕飯をどうしようかとお兄さんをご招待。
「うわ、家庭のおでんて初めてかも……てかこの大鍋、家で使うサイズなの?」
「え?両親の田舎ではどちらでも普通に使ってますよ」
「大家族……!」
「やった!今日はウインナー入ってる!」「モチ巾着〜♪」「ちくわぶは?厚揚げは?がんもは?」
「とりあえず全種類一個ずつ食べた後は早い物勝ちだからね。はい、いただきます」
「「「「いただきま〜す!」」」」
お玉と菜箸で争う弟たちに圧倒されたのか、お兄さんが固まった。しまった。お客さんだから先によそうんだった。
と思ったら、弟たちは先にお兄さんの分を丼にわけてくれた。えらい!
「これは食べがいがあるね〜。コンビニでもこんな数を買ったことないよ」
「多いときは残してくださいね」
「いや!食べる!」
……美味しそうに食べてもらえてめっちゃ嬉しい……!
緊張して何回も味見しちゃったし。
一人あたり二個ずつは入れておいた具はきれいさっぱりなくなった。お兄さんは一個ずつで間に合ったようだが、弟たちの食欲が怖い。お父さんお母さん、残業ありがとう。
「材料費出すんで、次のおでんの時は俺の分もお願いします」
「冬は週一でおでんになりますよ?」
「やった!曜日で決まってるの?」
「いえ、私の気分とスーパーの売り出し内容によります」
「じゃあID教えてよ。朝でもいいけどそれで教えて?」
「あ……はい」
連絡先ゲット!
「じゃあ、好きな具材はなんですか?次から入れます」
「うん?うーん……改めて聞かれると特にないなぁ。でも君のおでんなら何が入ってても美味しそうだ」
殺されるーーっ!何この人!タラシなの!?
「うわ、兄ちゃんタラシだ」「でも姉ちゃんのご飯はだいたいうまいよ」「おでんなら靴下が入ってたってうまいよ、きっと」
「えー!……試してみたい気もするけど靴下はちょっと……」
「入れませんよ!ちなみに余った汁には今からうどんを入れますが、食べられます?」
「うそ!そんなシメがあるの!絶対美味しい!でももう無理!」
「「「わははー、残念だったな兄ちゃん!」」」
「くっ、恐ろしい食欲だな中学生……悔しい……!」
「次回も用意しますから」
「絶対だよ」
やだ可愛い。来週はいつおでんにしよう。
◆
「火の元よし、戸締りよし、制服よし。いってきます」
「いってらっしゃい」
おでんの日からほぼ毎日、お兄さんが声をかけてくれる。嬉しい。
「おはようございます……眠そうですね?」
「おはよー、昨夜は居酒屋打ち合わせだったから呑んじゃったんだー、あー、目が開かない」
「大変ですね。見送りならよかったのに」
「俺がしたかったんですー」
大人はふいにトキメクことを言う。つい期待してしまう。
「……そういうのは彼女にするんですよ?」
「えー、隣の家の女子高生には駄目なのー?日本厳しいー」
「私が彼女なら嫌ですもん」
「そういうことか。今彼女いないから誰に声をかけても怒られないもん」
「小学生以下には気をつけてくださいね」
「日本キビシー!」
そっか、彼女いないんだ……でも「今」って言ったってことは、すぐにでも彼女になる誰かがいるのかもしれない。私のことは「隣の家の女子高生」か……
「ねーちゃん!いた!ごめん!筆忘れたから鍵開けてー!」
弟が一人ダッシュで戻って来た。慌てて玄関を開けると「サンキュー!」とドダダダと階段を駆け上がる。やれやれ。
そして書道用の筆をそのまま手に持って家を出ると、おもむろにお兄さんに手を振った。
「兄ちゃんオハヨー!今日の晩飯はグラタンだぜ!いいだろー!いってきまーす!」
うちの弟は1人でも3人でも騒がしい……少し恥ずかしいなぁと思いつつ玄関に鍵をかけて、お兄さんに挨拶をしようと見上げると、キラキラした目が見下ろしていた。
「グラタンいいなぁ、いいなぁ、いいなあああ」
「……冷凍のシーフードミックスを使ったやつですよ?」
「OK予約!」
グッジョブ弟!




