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みわかず的現実恋愛集  作者: みわかず
7話:『ハロウィン仮装体育祭2020』【ハロウィン企画2020】
16/29

中編



 当日は快晴。まずまずの涼しい風も吹き、絶好の体育祭日和だ。


「くれぐれも距離と水分は取って、日影に入って、少しでも具合が悪いと思ったら保健室に行くように。以上!みんなの健闘を祈る!」


 まだ涼しいうちに競技を始めるようにか、エルビスの仮装をした校長の挨拶はあっという間に終わった。マジか!リーゼントかっけえよ校長!


 各クラス毎にテントは二つずつ。足りない分は近隣のスーパーや商工会から借りてきたから絵面は変だが、祭りの気分は上がる。


 三年生の仮装はどうやら学年で統一したらしく、流行りの漫画のキャラ柄の羽織風だ。袖がない。人気キャラ柄を獲得するために二週間前の試験での平均点の高いクラスから指名制にしたとか。ただ生地が足りなかったのか色違いのクラスも多い。市松模様多数。


 一年生は揃いのTシャツとハチマキやバンダナだけのクラスが多く、俺らのクラスは若干引かれた。……だよな。去年までの体育祭はそんなんだったよ、知ってんだ俺……


「ぶはははっ!若狭っ!お前の脚めっちゃ綺麗だな!」

「先輩!よく俺だってわかりましたね?」

「陸上部舐めんな、後ろ姿でも脚でわかる」

「キモーッ!?」

「オゥコラ、お前のクラスにはぜってー負けねぇからな!」

「ふはは!今日の俺らは魔女っ娘なんで先輩にも負けねぇッス!」

「ああ?今をときめく漫画キャラの俺らに敵はいねえっ!」

「色違いの2Pじゃないスか」

「ああん?金髪アフロの魔女っ娘なんて見たことねぇわ」


 先輩と睨み合うこと一瞬、すぐに笑ってしまった。お互いに不毛な言い合いがおかしい。

 そして先輩は笑いながら「2P(ツーコン)の下剋上見てろよ!」とクラステントに戻って行った。


「こうやって全学年集まると、二年生の迷走ぶりがすごいね~」


 笑いながら鳩山が近づいてきた。ちなみに女子の衣装は男子より力が入っている。何KBだ。隈は化粧で隠したらしい。そして男子も女子から軽く化粧をされた。荻野はがっつりファンデーションを塗られたのでデカイ美女ができあがった。ちなみに俺は鳩山にアイシャドウとグロスをつけられ、そこでもう無理って言われたのはちょっとせつなかった……

 化粧が崩れる前にと集合写真は撮ってある。そしてなぜか荻野の撮影会になった。


「予算の少ない中でみんなよく考えたよな。普通にすげえわ」

「1組は模造紙で薔薇の造花を作ったんだって。花束背負って走るんだって!」

「マジか!花束最後まで持つのかよ……」

「2組は黒ポリ袋を繋げてムンクで、もうすでに熱いって」

「それはやべえ。顔の白塗りも溶けるんじゃね?」

「3組のシーツお化け!」

「あれ顔隠れてるから誰かわからねぇけど、ハチマキにちゃんと名前書いてあるのな」

「4組の段ボールで着ぐるみも暑そう。でもポッキーの箱が歩いてると食べたくなる~」

「お菓子集団の中に混ぜ込み飯シリーズがいたよな」

「え?それは探さなきゃ!段ボールといえば6組の緑色の土管もすごくない?ブラザーズの帽子が揃ってるのがスゴイ!女子は百均のティアラが可愛いわ~」

「ティアラつけた女子が土管から出てるってシュールだわ。7組の漫画名言Tシャツを思わず目が追ってしまうのには注意だな……」

「あれ罠よねー、読んじゃう。8組のハンターが無難に強そうじゃない?暑さ対策で上着なしだけど」

「親がよく礼服貸してくれたよな……」

「クリーニング屋さんが学割にしてくれるって」

「商店街すげえな!」

「でもやっぱり我が5組が一番のイロモノだね!」

「お前のせいでな」

「私のおかげでしょ。走りやすい格好なんだから一位とってよね、陸上部エース」

「全学年混合リレーは被り物を取っていいんだと。そうなると難しいよなぁ」

「弱気~。魔女っ娘に敵はいないのよ」

「またテキトーなことを……まあ、頑張るけど」

「やったー!」


 ぴょんぴょんとリボンの付いたポニーテールも跳ねる。毎日よく結ぶよな。


「……女子はみんなツインテールにするのかと思った」

「ん?それは決まってないよー、ショートの子もいるし。そういえばツインテール多いね。若狭がしてほしいなら私もするよ?」

「んにゃ、別に」

「もしかしてツインテールのカツラが良かった?」

「いや。鳩山はポニーテールが合うって話な」

「え」

「だってその頭じゃなくなったら鳩山だってわかんねぇもん」

「おーい!?」

「わはは!あ、ほれ、玉入れ集まれだとよ」

「もう出番だと!おのれ若狭!そこで見てるがよい!」

「悪役か」

「応援よろしく!」

「おうよ」


 玉入れ、借り物競争、障害物競争、大玉転がし、脱出ゲームもどき。このなぞなぞが懐かしくも手強い。

 一応点数制だが、どこも似たり寄ったりの得点だ。祭っぽくて気が楽だと笑っていたら、あっという間にリレーになった。


 ひとクラス男女5人ずつ。校庭のトラックを女子(半周)→男子(一周)→女子(半周)→男子(一周)と、一学年8クラスの計24人が一気に走る…………ないわ!こんなリレー!幼稚園でもやらんだろ!

 はぁ……待機場所がどこか迷子になりそうだ。


 俺がクラスで唯一の陸上部だからアンカーだが、男子はわりと早く走る奴らが揃った。女子はそれなり。鳩山に言われた一位を取るのはビミョーだ。

 さらに、ほとんどのクラスが着ぐるみを脱いで並ぶ。ますます一位が遠のく。


「なんだ若狭。脱がねぇのかよアフロ」

「アフロの魔女っ娘なんで。先輩こそ羽織脱がないんすか?」

「これで一位になってこその下剋上だ。そしてこの羽織は進路妨害の役に立つのだ!にやり!」

(わる)だ!!」

「ふはははーっ!」


 なんてふざけていても、出番になったら本気になっちまう。なんならアンカーだけが着ける(たすき)を結ぶだけで燃える。


「さぁて若狭。最後に俺を抜いてみせろや」


 去年のインターハイで200メートル走全国6位になった先輩がアンカー襷を締めて不敵に笑う。

 練習ですら一度も抜けていない、俺の目標の人。

 公式どころか、こんな祭が最後のレースになるとは。


「……はい!」

「よし。……なーんて、リレーだからどうなるかわからねぇけど。トラックを走るからには他の運動部は蹴散らせよ」

「ウス!ついでに先輩も蹴散らします!」

「ついでかよ!ははっ!やっぱ生意気!」


 パァーン!


 スタート音とともに歓声が上がる。見ればうちの魔女っ娘は集団の真ん中あたりにいた。半周じゃなかなかバラけない。第二走者たちがオロオロして、先生たちは「密ー!密ー!」と焦り、その様子に笑ってしまった。

 そして案の定ゴタついた。人数が多すぎるからか、被り物の目印がないからか、次の走者までたどり着けない。爆笑。


 やっと魔女っ娘(男)が飛び出した。見た目が良かったか、わりと上位に繰り上がった。少しバラけたからか、次の走者とはスムーズにバトンパスができていく。それでも抜かし抜かされ、歓声はどんどん大きくなっていく。


 だがこのままなら先輩を追いかけることになる。位置取りは厳しい。


「若狭ーっ!」


 トラックの外から鳩山が大きく手を振っていた。

 目が合うと、鳩山は笑ってまた手を振る。犬だったら尻尾がちぎれそうな勢いに、体が軽くなった。


 次走者レーンに並ぶ。

 先輩がバトンを受け取った。

 早く。早く来い。

 次々と走って行くアンカーたち。


 来た。


 バトンを握り、前を追う。


 一人抜き、二人、三人、四人抜いた。


 今日はすこぶる調子がいい。いつもよりごちゃごちゃした格好なのに脚が軽いし腕も振れる。


 そして、バサバサと羽織をはためかせる先輩の背中に追いついた。



「若狭ーーっ!!」



 遠くに鳩山の声がした。



 *



 ゴールテープと緊張が切れた後に派手に転げた俺は保健室に担ぎ込まれた。腕は擦り傷がひどかったが、頭はアフロがあったし、足は奇跡的に擦り傷が少し。だが両腕は包帯でグルグル、衣装もボロボロ。……体操着が無事で良かった。


 リレーは一位になったがクラスは総合得点で優勝を逃したので一人転び損だが、先輩を抜かせたのは素直に嬉しい。保健室に連れて行ってくれたのはその先輩だが、ずっと大笑いしていたのにはそこまで笑うかと若干イラついた。


 閉会式が終わり、後片付けを免除されたクラスのリレーメンバーは校庭の隅で椅子に座っていた。保健室からその輪に入る。


「よお!マジでヒーローだったぜ若狭!」

「こんな格好なのに」

「陸上部の先輩も凄かったけど、あんなごぼう抜きが生で見られて俺めっちゃ感動」

「こんな格好なのに」

「女子の声援が凄かったわー。俺だって一人抜いたのにスルーされたしー」

「ホントこんな格好なのに」

「女子のツッコミが厳しすぎねえ!?みんな同じ格好だろう!?」

「「「転んで台無し」」」

「「「女子が冷てー」」」

「「「鳩ちゃんがあんなに頑張って作ったのに」」」

「それについては申し訳なく思っている」


 本人にも絶対謝ろう。まだ着替えていないから散々な格好のままだ。

 鳩山は準備期間中、ずっと目の下に隈を作ってたらしいし。そりゃ女子が怒るのも無理はない、のかもしれない。

 ちょっと落ち込んでると美女姿の荻野とその他が呼びに来た。


「片付け終わったから教室に戻るよ。あれ?どうした?」

「いやあ、鳩山がせっかく作った服をダメにしたからさ」

「ええっ!?」


 わ、鳩山もいたのか。みんなの影に隠れててわからんかった。

 まあいいや。


「ごめんな」

「謝らないでよー!若狭はリレーで一位とってくれたじゃん。しつこく言ってたけど本当に一位になるなんてめっちゃすごいし、格好良かったよ!!すっごく嬉しかった!!若狭はやっぱりヒーローだよ!!」


 ポニーテールがぴょこぴょこ跳ねる。


「……あー、最後に転んだけどな」

「あはは!あんなに派手に転んだのに腕の擦り傷だけってさすが運動部だよね!魔女っ娘でもミイラ男でもどんな格好だって若狭はヒーローだよ!今日のMVPだよ!」


 クラスメイトの前で手放しで褒められていたたまれない。顔をそむけた先の荻野はにやりとするし。おい指をさすな。


「あはは、鳩山さんに褒められて若狭が照れてる」

「フツーにはずいわ」

「リレーが一番盛り上がったからね。若狭はでかい顔をしてればいいよ」

「転んだけどな!」

「あはは!注目されてたよ」

「転んだからな!」

「モテは遠のくばかりだね」

「痛恨の一撃っ!?」


 教室に戻ってもみんなの笑いが収まらなかった。……くそ。









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