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みわかず的現実恋愛集  作者: みわかず
6話:ヲタクと行き倒れ
13/29

前編

大学生。

ヲタク女と研究男。


全二話。(約8000字)



 

「付き合ってください!」


「お気持ちは大変ありがたいのですが、私、ヲタクなのであなたの恋人にはなれません」



 ◆◇◆



 高校まで自分の見た目を気にせず過ごしていた。しかし大学進学を機に家族からダメ出しされた。主に母。


「モデルのようになれとは言わないから、一般的な女子の服を着なさい。肌荒れも気にしなさい。部屋も整頓しなさい。それができなければ……これから一人暮らしのあんたが実家に置いておかざるをえない品々がどうなるかわからないわよ」


 世間を渡る前に鬼が現れた。


「いくら命の支えだろうと、この条件をクリアしなかった場合、あんたが隠せてると思って安心している物品も全てメル〇リで売ってやるからね!!!」


 あんたのような好事家なんていくらでも日本にはいるのよと高笑いする()の言い分に同意してしまったので、しぶしぶ推しへの愛をちょびっと削った。結果、憧れの女性キャラのコスプレができた。嬉しい誤算。


 そこを基準に日々の身だしなみにも気を使うようになると、リアルでも男性から声を掛けられるようになった。化粧の威力!

 そうなると合コンの数合わせにも呼ばれるようになった。会費をまけてもらえるところだけ参加。美味しいものは食べたい。

 非ヲタの会で話なんか一個も合わないので、アルバイトをするために身に付けたペラペラの社交性を駆使して、会費をまけてもらった分だけ当たり障りのない会話をしていると、頼む飲み物がソフトドリンクだけなのもあり、ただの大人しい女と思われるようで、何度かお持ち帰りのお誘いがかかった。


 そうして秘技は編み出される。


「門限までに帰らないと実家から父が迎えに来てしまうんです」


 その話を実家に帰る度にすると父は項垂(うなだ)れる。確かにこんな事をする親だったら私は母に物質(ものじち)を取られる事はなかっただろう。

 そして伸び伸びさせてくれた事を感謝しても父は項垂れる。なぜだ。毎度父心(ちちごころ)は難しい。


 コスプレのための体作りのおかげで肩凝りがなくなりお通じは良くなった。気を抜くとすぐに猫背になってしまうけど、ヲタク人生で一番健康かもしれない。颯爽と歩けることに一人で感動。次はピンヒールを履いて練習しよう。

 私のキャンパスライフは授業以外はもっぱらコスプレのための時間に費やされた。成績が下がると結果的にアルバイトの時間が減ってイベントに難が出るので勉強も必死にやった。締め切りは何でも大事である。


 二年生になるとアニメに興味のある留学生の何人かを日本アニメの沼に引きずり込んだ。そのついでに三か国くらいは簡単な会話が可能に。日本カルチャーの恩恵がすごい。そのせいなのか留学生のお世話を任されることが多くなった。私に任すともれなくヲタ化するのだが、そこは黙認のようだ。

 金髪碧眼の王子キャラとかアラビアン美女キャラとかリアルで拝めるなんて……大学に入って良かった。


 留学生といることが多いとインテリに見えるようで、変なモテ期に入った。

 今ここ。


 別に隠してはいないので、冒頭の定型文で一般人は諦めてくれる。影では隠れヲタクと言われているようだが隠してはいないっつーの。日本語じゃないだけで、毎日推しについて愛を語り議論をしている。

 そしてヲタク同士では仲間意識の方が強くなり、恋愛に発展したことがない。

 好きな漫画やアニメでカップルが成立すれば仲間で集まり祝杯をあげ、推しキャラが失恋すれば慰労会を開く。

 それが楽しくて楽しくて、恋愛が自分におきる事象だとはこれっぽっちも思っていなかった。


「あんたが独りでもしぶとく生きていける人になってくれればいい」


 と母に苦笑されても深く納得するばかり。

 自分でもすっかりそのつもりでいた。



 ◆◇◆



 別に推しに似てもいないし、10人中9.5人にモブ寄りフツメンと評されるだろう先輩は、今日も白衣を着たまま構内の教授室のドアから3メートルのところで行き倒れていた。

 ロングスカートを捌いてランチトートを抱きしめてしゃがみ、声を掛ける。


「先輩、レポートは提出できました? 今回も教授が軍資金をくださったのでお弁当を作ってきましたよ。食べます?」


「……たべる……」


 行き倒れていた先輩がプルプルと上半身を起こすのを支えながら、準備していた飲むエネルギーゼリーの蓋を開けて渡す。これを飲ませないと、ご飯を食べるための移動の体力も無いのだ。初めて遭遇した時は救急車を呼ぶところだった。実際一度は教授が呼んだらしい。そして栄養剤を飲まされただけで帰ってきたとか。


 節約と体型維持のために自炊をしているので、弁当は毎日作っている。といっても夜に作ったものを翌日の昼まで持たせているので、夜朝昼の三食の内容はほぼ同じ。

 ここで先輩に食べてもらえれば私は別メニューを食べる理由ができる。現在は教授が私の分までカンパしてくれるので、前日から準備をして二人で同じものを食べるようになった。予算が潤沢って素晴らしい。


 教授室の目の前に芝生の中庭があるので、そこにシートを敷き荷物を置いてから先輩の移動を助けに廊下に戻る。介助である。

 毎月教授から先輩のレポート締め切り一覧を渡されるのだが、倒れているのは締め切り日のみ。丸っと2日間は食事をしなくても動けるがその一時間後には電池が切れるらしい。

 先輩曰く「ちゃんと計算して倒れている」

 22歳成人男性の前向きダメ発言に引いた。


「……白和(しらあ)えがいつもと違う味なのにうまい……」


「美味しい出汁を見つけたんですよ。ちょっとずつゆっくり胃に入れてくださいね」


 なるべく消化に良いものを作ってはいるが、そこは成人男性なのでエンジンがかかってくるとたくさん食べる。和洋中その他、好き嫌いがあまりないようで、作る方は大変助かっている。


「スープも違う……?」


「ベジブロスに初めて南瓜の種とワタを入れてみたら甘味が美味しかったので。苦手ですか?」


「南瓜か……これも美味しい……野菜すごい」


 水筒のスープも空になった。

 今日も綺麗に食べ切ってくれた。良かった。


「ごちそうさまでした。今日もありがとう」


 そう言いながらうとうとしだす先輩。食事しながら寝そうになる幼児を連想してしまい、いつもによによしてしまう。ランチトートからクレーンゲームで取った小さなクッションを枕用に置いて横になるのを促すと、私は靴を履く。


「では、講義があるので行きますね」


「うん。起きたら教授のとこに荷物置いておく」


「お願いします」


 次の瞬間にはスコンと眠りにつく先輩。の〇太もビックリだ。

 でもそれは先輩が満腹になった証拠なので、私も満足してテキストを抱え直した。



 ◆◇◆



 先輩は実は優秀な人で、学生でありながら研究員として働いてもいる。教授と連名だったり大学名義で色々特許を取っているらしい。総取りしないのかと聞いたことがある。


「僕は研究するのが好きで、今じゃ好きってよりも生活になっている。大学に来て設備の充実さに感動したけど、移り行く時代に満足できる設備なんてないことに気づいた。まだまだ足りない。だからって新たに施設を作り出すよりも大学で増やした方がいい。大学は毎年新しい人材が新しい何かを持って来てくれる。君の何気ない一言で閃いたこともある。それぞれの専門家が毎日ごちゃごちゃいる。これって実はすごい事だと思うんだ。大学が有名になれば海外のもっとたくさんのデータに、データ以外の知識も集まる。そしてたぶん、僕はこういう事でしか教授に恩返しできないだろうし、きっと普通の社会人になれないだろう僕の収入はこれしかない。実は純粋な下心により大学名義で特許を取っているのです」


 意外とまともな答えだった。


 留学生の中には優秀な人材を青田買いしに来ている人もいる。

 ヲタク仲間宴会で金髪王子が実はさ、と言うと、アジアンビューティーも実はと言い出した。姐さんの内緒ねテヘペロにキュン。


 だが、急に世界を見た気がした。


 教授からOKが出たので先輩に海外企業や大学へのお誘いがあることを伝えると、なぜか私も同席で留学生スカウトマンのラブコールを聞くことに。

 驚いたことに先輩は5か国語をマスターしていた。スカウトもびっくり。


「だって論文を原文で読むのに必要でしょ?」


 コテンと首をかしげる先輩に、頭の良い人って優秀な変人なんだと確信。

 先輩は夏休み中に何社か見学させてもらえることになったらしい。休み明けには教授室にたくさんのお土産があり、教授が埋もれていた。

 あいつに加減を教えてやってくれと言われたけれど、教授にできないものは無理という真実と変な木彫りのお面を突き付けた。


 それでもやっぱり行き倒れは直らず、今日も先輩の介助をする。


「先輩、私の他にも世話をしてくれる人を確保した方がいいんじゃないですか?」


「え、なんで?」


 お気に入りの砂糖たっぷりの甘い卵焼きを頬張りながらきょとんとする先輩。

 なんで?への意味が掴めず、若干イラッとする。


「先輩は大学院の後も大学にいるでしょうけど、私は予定通りに卒業します。その後の話です。先輩が自分でどうにかできそうにないので提案してます。これでも心配してるんですよ。先輩は認めませんけどオーバーワークです。毎週デスマーチとか馬鹿ですか。それをフォローしてくれる人はいないんですか?」


 すると先輩は箸を咥えたまま腕を組んで悩み出した。

 少ないけれど友達がいるのは知っているし、研究室のメンバーとも良好な関係だ。


「そういえば今日も告白されていたね。あの彼と付き合うの?」


 ふと顔をあげた先輩の明後日からの質問にまたイラッとする。私の質問は無視ですか。ていうか。


「告白されているところを見たなら断ったところまで見ててくださいよ」


「じゃあ、まだ僕は君を独り占めできるね」


「どういう意味ですか?」


「そのままだよ。でもそうか、君が卒業した後かー」


 私のヲタク論をいつでもふむふむと聞いてくれる先輩は、自分の研究をわかりやすく噛み砕いて教えてくれる。だが、たまに会話が会話にならなくなる。こういう時は別な事を考えながら喋っていると今ではわかるが、それまでは変人記録がどんどん上書きされた。

 でも珍しく話の流れが戻った。


「手っ取り早く彼女か彼氏を作ってはどうですか?」


 これが一番簡単な方法だ。そうなると私は完全に邪魔者だが、先輩を大事にしてくれるなら誰だっていい。







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