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昼 街 教会


「あのー、この御札って何ですか?」


登録を終えた私が一番に言ったことは、その受け取った御札のことだった。

流れに任せて話を進め、聞きそびれてしまった。

見た目は普通の短冊状の紙だが、その表面には不思議な図形と文字が書かれていた。

ヘブライ文字のような形の帝国成語とは違い、カッチリとした印象の文字。どちらかというと、ギリシア文字とかエトルリア文字っぽい印象を受ける。


「それはコルディス札、コルに入る為に使う魔導具ね」


マリーさんがそう返す。


「コルとは……?」


「コルは精霊祖語で、簡単に言えば心。もしくは深層心理とか、心象とか、魂。コルディス札を使って自分の魂に深く触れる、そこで自らの力を知ったり、魔術を編んだりするの」


「魔術を、編む?」


「そう。そこでは自分の適性や知識によって、様々な魔術を紡ぎだすことが出来るのよ。その紡ぎ出した魔術を、自らに刻み込むことで、現世(うつしよ)でも魔術が使えるの」


自分の心の中で魔術を作って、それを身体に登録する……みたいな感じ?

要するに、魔術をプログラミングする所と考えればいいのか。


「適性の低い属性の魔術も、紡げないことはないけど……難易度が高いわ。おそらくは数十年にも渡る知識や経験、その他の要素、もしくは神憑り的な才能が必要とされるくらいに」


「なるほど…」


「シルワちゃんは錬金術に向いてるらしいのね。錬金術士は、様々な工房や学術院で引く手数多。第二適性が光だし、うちの教会で引き取っちゃいたいくらい。ねぇ、教会にこない?」


「あはは、考えておきます……」


つまりこの世界は、これを使って魔術を組み、それを様々な場面で利用することを基礎としているのだろう。

この割かし危険な世界において安定した職業というのなら、悪くはないかもしれない。


「ところで、二人はこれからどうするの?もし大丈夫なら、ロリア先輩が来て欲しいって言ってたの」


「ん。これを卸しにいく」


サーリャさんが、私の背負っている進めるグローサー・エーバーから切り出した素材を指差す。


「えっと、私は……」


「ん。先に行ってて」


「あ、はい」


言うは早く、私から荷物を受け取ったサーリャさんは足早にギルドの中へと戻っていった。


「じゃあ、行きましょう」


小さく首を傾げながら微笑んだマリーさんは、ゆっくりと道を歩き出す。

おそらく、話に出てきたロリア先輩という人が居る……教会?…に向かうのだろう。




活気溢れる大通り沿いには、数多くの露天が立ち並んでいた。

肉、魚、野菜、香辛料。その他には魔導具……多分御守(タリスマン)ってやつ。

魔術的な保存手段があるのだろうか、予想よりも生鮮食品が多い。

えーと、牛肉1パニス……パニス?が1アルジェ8アエス。

多分、重量単位と通貨単位だとは思うけども……私の翻訳能力はMKS単位系(メートル法)に自動変換してくれる程優しくはない様だ。

グローサー・エーバーの肉……魔物食うんかい。

その肉が9アエス……1アルジェが何アエスかは知らないけれども、多分牛肉より安い。

流し見ただけでも、全体的に普通の肉より魔物の肉の方が安い値段。

単位については後々調べる必要があるなぁ……。


「シルワちゃん。あらためて、あの時はありがとうね」


「あ、いえ、私も夢中でして」


「それでも、命を救ってもらったことに変わりはないわ」


隣を歩くマリーさんの優しい声。

正直、いろいろ勢いだけで動いた結果だったので、未だに実感が湧かない。


「それにしても、5カイゼル級のニーダー・ヴォルフを一撃だなんて……シルワちゃんの魔術、それで初めてなんて凄いわ」


「あはは……」


待った、カイゼルとは何ぞや。

おそらく長さの単位だろうが、こっちもMKS単位系にはしてくれない翻訳機能さん。

勉強することは山々だねぇ……。


「着いたわ。ここが教会学術院、ブラウバルト支所よ」


「おぉ…」


白い荘厳な建物。

かのサンタ・マリア大聖堂を彷彿とさせる様式で、その美しさに目を奪われる。

史実にあったら観光スポットになりそう。


「こっちよ、着いてきて」


促されるまま正面の階段を昇る。

周りには、マリーさんと同じような白外套をきた学徒とおぼしき人達が疎らに存在していた。

そのまま進んで正面入り口をくぐる。


「礼拝堂、みたいなもの……かな?」


内部は質素な造りながらも、荘厳さ、神聖さを備えている。

正面から見える、質素な中で一際目立つステンドグラスには、おそらくこの世界において崇められているだろう人物が描かれていた。


「シルワちゃんって、もしかして教会は初めて?随分熱心に眺めているものだから」


「あ、はい、そうなります」


どうやら、無意識に観光客ムーヴをかましていたらしい。

少し恥ずかしい。

マリーさんは、それを知ってか知らずか微笑む。


「天神ソルデウス、智神スキエンティス、愛神アモリア。あのステンドグラスに描かれているのは、世界の根幹を司る御三神の御姿なの」


「はー……なるほど」


「さて、と。ロリア先輩は資料室かしら?」


礼拝堂を横切り、脇の部屋に入っていくマリーさん。私もそれに続く。


「ロリア先輩、居ますかー?賢者様からお手紙でーす」


扉を抜けた先には、体裁の整えられた分厚い本がみっしりと詰まった本棚が並んでいた。


「おー!ようやく来たんね!」


そして、マリーさんが先輩と呼ぶその人も居た。

第一印象は、幼女。


「あ、先輩。これがそのお手紙です」


「ほいほい、っと。届けてくれたのはサーリャちゃんっしょ?」


「そうですね、用事が終わったら来るって言ってました」


手紙を受け取ったその先輩さんが、今度はこちらを、品定めでもするかのように見てくる。


「なるほどなるほど。それで、その子が多分……噂の大型ニーダーヴォルフを一撃で吹き飛ばしたっていう子んね?」


「はい、そうです。昨日話したシルワちゃんです」


「あ、初めまして。シルワ・カエレスティアと申します」


自己紹介を行う私。改めてその先輩をまじまじと見る。

幼女と言っても差し支えない肢体。

ピンクかマゼンタっぽい色の長い髪をツインテールにしている。

言ってしまってはあれだが、小生意気……子悪魔的な、可愛らしくも勝ち気な表情。

ブカブカな白外套。

そんな小さな先輩が、大分大きなジェスチャーと共に口を開いた。


「ロリア・カンネー、ここで研究生やってるよ。気軽にロリアちゃんって呼んでほしいんね!よろしく!」
















「ロリア先輩、こう見えてもとっくに成人――「それは言わせないんねぇぇ!!!!!!!」


18世紀の大英帝国の価値基準を参考にしました。

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