『納豆と妹(のぞみ)』
『納豆と妹』
僕は納豆が大嫌いだ
なぜかって?
そんなの簡単だ
あの気味の悪い粘り気
そして食べ物とは思えない匂い
まさに最凶のタッグ
実際に食べたことはないけど……
食べずとも僕には分かっている
絶対にマズくて食べられるものではない
そうにきまっているんだから!
※
大人たちはのぞみが大嫌いだ
のぞみを一度も見たことないのに嫌いだった
なぜかって?
そんなの簡単だ
父と母が離婚した後にお腹の中に居ることがわかった子供だし
すでにその時、母一人で僕たち三人の子供を養っていたし
なにより早い段階で障害があることがわかった
生まれてきても不幸になる運命……
だから祖父は母に言った
「堕ろしなさい」と……
そして祖母も母に言った
「堕ろしなさい」って……
叔父や叔母も母に言った
「堕ろしなさい」
母は泣いた
あんなに強かった母が……
涙を流していた
でも母は言った
『私は産みます』って……
大人たちはそんな母を蔑むような目で見た
僕はなんだか悲しかった
※
妹は納豆が大嫌いだ
なぜかって?
そんなの……かつての僕と同じだ
「ネバネバしてて臭いよぅ」
遠目で納豆を睨み付ける妹
一度も食べたことがないくせに……
いつの間にか僕は笑っていた
目の前に居るのは確かに僕の妹
愛しくて愛しくてたまらない僕の妹
「よし、だったらお兄ちゃんが一口食べてみるから、のぞみも真似してみるんだよ?」
そういって僕は納豆を口に運んだ
怪訝そうに僕を見るのぞみの瞳
「お兄ちゃん……おいしーの?」
「うん、おいしいよ。のぞみも食べてごらん」
妹はその日から納豆が大好きになった
『納豆と妹』について
子供と大人。問題の本質についていえば、両者に大差はない。違ってくるのは、大人になるほど現実を避けるのが上手くなる。ただそれだけのこと……。




