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第七話:マーティアの魔術レッスン -基礎編-

 ……つむつむ、つむつむ。ひたすらに石をつむつむだ。


 あっ、崩れた。

 始めた時は十個積めれば良い方だったが、今では四十二個も積む事が出来る様になった。お褒めの言葉があるかな、と期待の目でマーティアを見たが相変わらずの鉄面皮だったので、諦めて次のステップに移る事にしよう。


 崩れた幾つもの石がふわりと宙に浮かぶ。マーティアが魔力を使って拾い上げたようだ。二十個ぐらいつむつむした時に気が付いたが、目に魔力を集中すればボンヤリした青い光として、自分のものでも他人のものでも魔力が見えるのだ。


 マーティアは慣れた手つき、もとい魔力操作で四十二個の修練石を一つの大きな塊に整列させた。少し間を置いて塊の中から一つ石が飛び出し、わたしの視線の三十メートル程先に移動して、ランダムに動き始めた。 


 わたしは右手を前に突き出し、魔力を球状に形成する。下準備が整ったのを確認し、呪文を唱える。

イグニス()グロメローサス()

魔力の塊はたちまち燃え上がる火の球に変化する。適切なタイミングで追加の魔力を手の平から放ち、火球を押し出す。『火球』呪文完了だ。

 飛翔する火球は修練石に直撃し、爆炎と共に石が四散する。うむ、完璧だ。


 一つ目の修練石を破壊し終わるや否や、五つの石がわたしめがけて飛んできて、手を伸ばせば触れそうな距離で止まる。それから直ぐに石はわたしを中心に高速で回転を始めた。


 破壊呪文の訓練は四つのパターンで行われる。マーティアの気分次第で一つあるいは複数、近距離あるいは遠距離。今回は複数・近距離だ。


 わたしの足下に円をイメージしながら魔力で満たす。

 ここで大事なのは台風の目の様に、わたしが居る場所まで魔力で満たさない事だ。さもなければ後に唱える呪文で大変な事になる。

フォンス()アクアールム()

地面を穿(うが)ち足下に水が湧き出す。直ぐさま続けて呪文を唱える。


ランケア()グラキアーリス()!」

足下の水は瞬く間に凍り、乱杭歯の様に幾つもの尖った氷柱(つらら)が飛び出し、修練石を貫いた。完璧だ。

 ……チラリとマーティアを見る。


「ぬわあああああああぁぁあああっ!!!」

また電撃か! 何でだ完璧だったじゃん!


「一つ撃ちもらしております。魔力の展開にムラがありましたので、威力が不足し修練石の障壁を突破出来なかったのでしょう」


 マーティアが壊れなかった石をこれ見よがしに浮かせ、威力不足と言った場所を示した。氷柱はその一本だけが折れている。拳で小突くと、確かに脆くも崩れ去った。


「……い、一本だけではないか。こんにゃ、あぁあああぁああああぁっ!!!!!」

「ラクリマルム様は無様な言い訳など致しません」


 アウトマーティア、こんな面倒くせえアイドルオタクみたいなキャラだったか!?

それにいつから修練のミスで電撃罰が行使される事になっているのか。だが、どうせ反論しても電撃を食らうだけだし、首輪は外れない。もう最悪だ。


 ……今度は遠距離八つね。ハイハイ。

フルミネウス()エールプティオーニス(爆発)……」

これでもかというぐらいに魔力を込め、手から紫の稲妻を放つ。雷はランダムに回転する石群に命中し直撃地点で爆発。雷は子電流となって八つの石を次々に襲い、赤熱した石はあっと言う間に全て砕け散った。


 マーティアに肩をすくめて見せる。

「ぐあああああぁぁぁああぁぁぁっ!!! 何故だマーティアァッ!!!!!」

「態度が投げやりでしたので」


お前は気難しい寿司職人か!? 全部壊したのに何だこの仕打ち!


「もう我慢ならんッ! わらわはもう止める! こんな、こんなッ…… つまらぬ石如き、積んで崩れて壊して積んで崩れて壊して、何の意味も無いわッ!!!」

悲しいかな気分は激昂状態だが、口調は完全にラクリマルムで固定されてしまったらしい。

「……ならば、実戦訓練に移りますか? その程度の魔力制御ではウルラウスはおろか、この(テラエ)に星の数ほど転がる十把一絡(じゅっぱひとから)げの魔物にすら勝てるか危ういものかと存じますが」


 大した物言いだなぁ? 久しぶりにキレちまったよ……

「御託は要らぬ、かかって来い。一捻りにしてくれるわ!」

「武具も着けずに、ですか?」

「…………武具を持てッ!」


 (かしこ)まりました、と一言断ってからマーティアは神殿の中へ戻っていった。

 ……くふふ、良い機会だ。主従関係というものをこの際叩き込んでくれる。良くもいい気になって散々電撃でいじめてくれたな? その報いは受けてもらうぞ。


 しばらくして、マーティアが鈍く輝く黒いプレートメイルと、マーティアが着ているのと同じく不思議な金属の光沢を持つ衣服。それからわたしの身長より少し大きな杖を持って戻って来る。


「では、こちらにお召し替えを」

「うむ」わたしはその場にたたずむ。


 ……そして静寂。

何故だ、前は着替えさせてくれたじゃないか!


 マーティアが表情一つ変えずに口を開いた。

「こちらはラクリマルム様が魔術で生み出した特別な装備です。魔力で覆ってから『アルマ・ノクティス・オルナートゥム』と、お唱え下さい」


 成る程。そういうタイプだったか。でも今着てるヤツの上に暑苦しくないのかな。まあ、マーティアが脱がしに来ないので多分大丈夫なのだろう。


 武具全体を魔力で覆ってから、先程教えられた呪文を唱える。

アルマ・ノクティス(闇夜の装具)オルナートゥム(よ我が身に)



 魔術を掛けた武具のそれぞれが、一瞬の内に黒霧と化してわたしの身体を包む。霧と共に逆巻く風にわたしは思わず目を閉じた。 ……これ地味にくすぐったいな。

 吹き付ける風とムズムズが終わって恐る恐る目を開けると、武具は形を取り戻しわたしの身体にぴったりと収まっていた。


「杖の銘は『星月夜(シーデレウム・ノクテム)』。『流星鋼(メテオリテウム)』の外殻に、『星月晶(イシルディン)』の触媒、芯材にはラクリマルム様の御髪(おぐし)を使用しております」


 マーティアの解説を聞きながら右手に収まった杖を見つめる。

 地面につけた杖の長さはわたしより少し大きいぐらい。ちょうど肘から中指までの長さ(クビトゥス)四つ分の古典的な長杖『スケプトルム』だ。

 杖の上部は銀に輝く二対の龍の翼が、紺碧(こんぺき)の光を(たた)えた宝玉を支え、柄は光の角度によって見える幾何学的な結晶模様のしっとりとした黒の金属が僅かな歪みも無く地まで伸びている。縁が付けられた握りには滑らかな、けれど手に吸い付く感触の革が巻かれていた。


「鎧の具合は如何でしょう。杖の外殻と同じく流星鋼製。籠手の甲に星月晶が填め込んであり、杖無しの詠唱が可能です。鎧下と外套(がいとう)は石絹製で金属鎧に劣るものの、ある程度の防御は見込めます」


 わたしは解説に合わせて杖から自分の身体に目を移す。

 鎧は胸と胴体のみの胸甲で、金のレリーフが複雑な模様を描いている。籠手も同様だが、杖の先端に付けられた宝玉と同じものが甲に一つずつ填めてあった。

 下地の革手袋は厚いが指は自由に動かせ、ためしに拳をつくり籠手同士をかち合わせてもかすり傷一つ付かなかったが、重さは大したものでは無い。

 鎧以外の部分を覆う服はどちらも深い紺で、上は鎧の下から足首までコートの様に覆い、下は乗馬ズボンの様に(もも)の部分が膨らんでいる。

 靴はしっかりとした膝丈の革で、手袋と同じ素材の様だ。柔軟だが、幾ら歩いてもすり減る事など無さそうだった。


 ……いかにもファンタジーって感じで、ちょっとワクワクしてくる。見た目は幼女でも一端の冒険者に見えるのではなかろうか。

 こうしてフル装備になると不思議なもので、俄然マーティアなんぞに負ける気がしないな!


 杖を構え、カンフー映画の見よう見まねで右に左に振り回す。

 この身体、元々のわたしより動けるっ……! 

「くふふっ、何処からでもかかって来るが良い……」

「構えだけは一流ですね。アクキオー(来たれ)・ウィルガ・イグニウォムス!」


 マーティアが右手を身体と平行に伸ばし招来呪文を唱えると、一本の赤い光線を描く様に杖が神殿の中から高速で飛翔し、手の平の下でピタリと止まった。一瞬の間を置いて、杖はそのままマーティアを軸に独りでに回転を始めた。

 ……さっきわたしが手を使ってやった事を、魔力だけでやってるという訳か。ぐぬぬ、やるじゃないか。


 わたしの心を見透かしたようにマーティアは皮肉たっぷりな笑みを浮かべた後、乱舞する杖を回転しながら掴んで背に構えた。

マーティアの杖は、白銀に輝く柄に細かなレリーフが金で彫り込まれており、燃える様に赤い宝玉を杖の頭部に(いただく)く。まるで聖火を宿す松明の様だった。


 にわかに、未だ山積みの修練石に向かってマーティアは杖を突き出すと、二つの石が山の中からわたしたちの間に飛んでくる。

「如何に訓練といえども熱が入れば誤りもございましょう。不肖、私めがマルム様を(しい)(たてまつ)るのは不本意の極みにて。つきましては簡単な遊戯にて勝敗を決めたく存じます」


 ……こいつ、まるで自分が負けないと確信してる様な口ぶりだな。わたしを甘くみると後悔する事になるぞ。何せわたしは想像世界で誰にも負けた事が無いのだ。ヤクザだってボコボコだぜ!


「して、その遊戯とは?」

「『ルーデレ(石弾き)ラピダータム(遊び)』と呼ばれる実に単純な遊びです。互いに修練石を魔力で保持し、先に石を地に落とした方が敗者となります。要するに相手の持つ石を攻撃して弾けば良い訳です。修練石には追加で特殊な障壁呪文を掛けますゆえ、遊戯中は全ての攻撃を石の障壁が受け持ちます。もっとも、障壁の限度を超えますと石は砕け散りますので、その時点で負けとなります」


 ……自分で考えておいて何だが、随分物騒な遊びだ。まあ、要するに自分の石を守りながら、相手の石を弾き飛ばすか、許容以上の大ダメージを与えて壊してしまえば良い訳だ。


「因みに敗者には、少しばかりの罰がございます。まあ、マルム様は既に体験済みかと存じますが。以上の説明でご理解頂けましたか?」

マーティアは不敵な笑みを浮かべながら、首を指で示した。


 何だよ、結局ビリビリなのかよ! どうせ負けないから良いけどね!

 わたしが頷くと、マーティアは二つの石に新しく障壁呪文を掛けた。


 マーティアが杖を正面に突き立て一礼する。わたしも彼女に(なら)い一礼を返した。わたしたちの間に暫くの静寂が流れた後、自然と同じタイミングで互いに杖を構え、石を持ち上げる。

「始めっ!」

マーティアが声を大きく張り上げ、試合の始まりを告げる。


 わたしの初めての闘いが幕を上げた。


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