全国の槍職人に謝れええええ!
それから1年の月日を経て、佐藤涼真が異世界へとついに旅立つ日となった。
「さて、小僧。最後の修行だ」
「ええ、宜しくお願いします」
旅立ちの日にクレイヴさんから呼び出された僕は武闘場にいた。
思い返せばこの1年いろいろなことがあったな…初日にいきなりフルマラソンさせられたのも今となってはいい思い出です。
僕がこの1年を振り返っているとクレイヴさんがムッとした表情でこっちを見る。いけないいけない。
慌ててクレイヴさんを見ると満足そうに頷いてこう言った。
「よし、それではお前はこれから勇者として旅立つわけだが…最後に卒業試験を受けてもらう」
「卒業試験ですか?」
「ああ、そうだ」
そう言うとクレイヴさんは一言二言魔法を唱えた。レリアさんに最後辺りに習った【神魔法:具現召喚】を唱えた。これは記憶にある無生物を具現化して無制限に使用できるという壊れ性能の魔法だそうだ。残念ながらこれは僕は使えないらしい。なんでも神魔法は覚えられる人間は限られてくるらしい。しかも、覚えられる人間でも種類が少ないとのことである。
神魔法は僕も使えることには使えるのだがーーー
そうこうしているうちにクレイヴさんは準備が整ったようだ。
「さて、始めるか」
そう言って笑ったクレイヴさんの手には金色に輝く槍が1本握られていた。
「私に一太刀でも浴びせられたら合格としてやろう」
「…参考までにお聞きしますがその槍は?」
「ああ、これか?【ブリューナク】といって過去の勇者の聖剣だ」
「ねえ!本当なんでそんなことするん!?」
「ゴタゴタ言わずに行くぞ!」
慌てて無理だと言うがクレイヴさんは一切聞かずに槍を投げてくる。
「危ねえ!」
「避けても意味がないだろ!」
「無理ゲーすぎやしませんかね!?」
横に避けるとクレイヴさんから怒られた。
しかも、槍の方を見ると方向転換してこちらに向かってきていた。
「ねえ!追尾してくる槍とかやめてくれませんかねえ!?」
「追尾できなきゃ槍じゃない!」
「全国の槍職人に謝れええええ!!」
僕の絶叫に合わせたかのごとく槍が僕めがけて飛んでくる。
くそっ…こういう時の対策は…そうだ!
僕は踵を返し全速力でクレイヴさん目掛けて走る。このまま逃げ続けてもいずれ槍に追いつかれるだろう、なので僕は脚に魔力を纏いクレイヴさんを飛び越える。
僕のその行動にクレイヴさんは感心したようにこう言った。
「ほう、なかなかいい作戦だ。だが…」
「なっ…!そんな無茶苦茶な!」
「私を舐めるなよ!小僧!」
「くっ…!」
クレイヴさんは飛んできた槍を掴むとそのままの勢いで一振りする。すると、槍から衝撃波が発生し僕を吹き飛ばす。
そして僕はそのまま数メートル程転がり停止する。
…身体中が痛い…手足も擦りむいたようだ。
そんな僕を見てクレイヴさんは大きなため息をつく。
「なんだ、その程度か…残念だよ。この1年間お前は何を学んできたんだ?まあ、所詮その程度なんだろ。さて、とっとと終わりにするとしよう」
そう言ってクレイヴさんは槍に魔力を込めると僕に向けて投擲してくる。
(ここで避けてもさっきと変わらない…ならば!)
僕も負けじと足に魔力を込め聖剣を構えると槍に向かって突進する。
そして、槍が僕に刺さりそうになった時にスッと横に回避する。
しかし、先程と違う点は槍の穂先に聖剣を当てていることだ。
さて、ここで問題である。【絶断】の特性を持つ剣の刃を真っ直ぐに飛んでくる槍に当てた場合どうなるだろう。正解は『槍が真っ二つになる』である。
僕は槍を切り裂いた勢いのままクレイヴさんに肉迫する。
そしてーーー
「見事だ小僧。いや、サトウ・リョウマ」
「ありがとう、ございます…」
「よくやったな、これで貴様も勇者だ」
そう言って笑うクレイヴさんの頬には一筋の切り傷があった…
僕はクレイヴさんに、異世界の武神に傷を負わせることができたのだった。
なんとなく書きました。おそらくカクヨムに移行します。