甘ったれるな
そして、目を覚ましたらこの今の状況だよ。もう、意味わかんない。
「あ、あのっ!ここはどこなんですか?」
そう尋ねるとお姉さんたちは顔を見合わせて、納得したような表情をした。
「えーとね、ここは世界の狭間って言うの。君のいた世界と別の世界との間の場所よ」
「そして、私たちは神様。で、君はどうしてここにいるのかというと今からその別の世界に勇者として行ってもらうのよ〜」
僕にアメをくれたお姉さんと年齢を聞いたお姉さんがそう答えてくれた。
「ゆ、勇者?勇者ってあの、ゲームの?」
「そうそう、最初は君の予定じゃなかったんだけどね?」
「え?それってどういうーー」
そこまでいったところで気がついた、あのお兄さんだ。あの時の光あれはお兄さんを連れて行く予定だったんだ。
「じゃあ、あのお兄さんが…?」
「そうだね〜、あのお兄さんが本来勇者の予定だったんだ〜。でも、君も勇者の因子を持ってるみたいで良かった〜」
「勇者のいんし?」
「そう、勇者ってのはね?割と誰でもなれるものなんだ、むしろなれない人の方が珍しいの」
アメのお姉さんが言うことには勇者の因子は地球の人類の殆どが持っているが鍵がかかっており普通はその鍵が開くこともなく何も気付かないまま一生を終える場合がほとんどらしい。しかし、何事にも例外というものがあるらしくあのお兄さんもその例外らしかった。
「あのお兄さんは常時開放型でね。能力は、まあ超怪力と超戦闘能力ってとこかな」
超怪力はなんとなくわかるけど超戦闘能力ってなにかな?
「あ、あの、超戦闘能力ってなんですか?」
「ん?えーと、簡単に言えばすごく強いのあのお兄さんは多分誰と喧嘩しても負けることはないんじゃないかな。同じ超戦闘能力を持ってる人以外には」
「同じ能力を持ってる人には負けるんですか?」
「いやいや、それは能力の練度の差だよ。能力をしっかりと鍛えてるやつには勝てないのさ」
いつの間にか横に立っていた赤い髪の強そうなお姉さんがそう言った。
「あら?クレイヴじゃない。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか!お前たちがさっさと勇者を連れてこないから私が迎えに来たんだ!」
えっと、このお姉さんクレイヴさんは僕になんのようなんだろう。
僕がそう考えているとクレイヴさんがこっちを向いてニヤリと笑った。
え、なに怖いよ。
「小僧お前が勇者だな?」
「は、はい。そうですけど…」
僕がそう答えるとクレイヴさんは笑い出した。
「はっはっは!どんなヤツが来るのかと思えばお前みたいなのが勇者!?笑わせてくれるな!はっはっはっは!」
「ちょっと、クレイヴあまりいじめちゃダメよ」
「いやいや、しかしミランダよ。この小僧があの魔王を倒せると思うか?」
確かにそう思う、魔王がどんなやつなのかわからないけど少なくとも普通の小学生に倒せる相手だとはどうしても思えない。
「や、やっぱり僕が勇者なんて無理なんじゃ…」
「ん〜、でも魔王を倒すまであなたお家に帰れないわよ?」
「え…?」
今ミランダさんはなんて言った?魔王を倒すまで家に帰れない…?
「嘘だ…」
「ごめんね?嘘じゃないの、残念ながら真実よ」
そんなの嘘だ、僕がなにをしたっていうんだよ!
「なんで…」
「なんでか教えてやろうか?」
クレイヴさんがいつの間にか隣に来て真剣な表情でそう言った。
「お前があの時、あんなことをしなければこんなことにはなっていなかったんだ」
「でも…でも僕は…」
そう僕はこんなつもりじゃなかったんだ。
「甘ったれるな!」
パシッと乾いた音が響いて僕は吹き飛ばされた。そして、僕の頬が痛みを認識した時初めて打たれたのだと気がついた。
「ちょっと!クレイヴ!」
「ええい!黙ってろミランダ!」
クレイヴさんはこっちに来ると僕の胸ぐらを掴んで言った。
「いいか、小僧!お前が首を突っ込んだんだ!自分のやったことにくらい責任を持て!」
そうだ、確かに僕が首を突っ込んだんだ。だけど…だけど…
僕が黙っているとクレイヴさんは手を離し後ろを振り向いて言った。
「一晩考えろ、勇者になるかそれとも…」
そこまで言うとクレイヴさんは歩いてどこかへ行ってしまった。
「大丈夫?痛くない?すぐに治療するからね?」
「クレイヴも酷いよね〜、こんな小さな子をいきなり打つなんて!」
「どうして、武神ってどの世界もみーんなあんな感じなのかしら」
みんな僕のことを慰めたり心配してくれたりクレイヴさんの悪口を言っていたりしたけれど僕の心はどんよりと曇ったままだった。