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数話で終わります、多分。
軽く読んでって下さい。
すう、はあ。意識して何度か呼吸をする。
もう十二月だ。
目の前の扉に手を掛けながら考える。一体いつから私はこれを始めてしまったんだろうか。いつになれば終わるのだろうか。終わらせたくなるのはいつになるのだろうか。
なんて、センチメンタルに語っても意味は無いのだけど。今に満足していればどうでもいいことは多々あるものだ。
「失礼します」
マフラーから口を出し、扉を開ける。いつも通り、職員室の中には一人しかいなかった。こんな早い時間に来ている先生なんて私はこの人しか知らない。学校一番の高齢で、もうすぐ還暦を迎える女の先生。オールドミスという言葉が似合う人。
先生は私を見つめて待ち構えていた。
「おはよう。はいこれ。朝礼前には戻って来なさいよ」
何の変哲もない、古惚けた鍵を私に渡して先生は素っ気なく言う。
「はい。ありがとうございます」
私は先生に軽く頭を下げる。でももう先生は机に向かっていて、私を見てはいなかった。世間話をすることもなく、そのまま私は職員室を出て行く。
この距離感がちょうどよかった。
朝の早い、かなり早過ぎる時間。薄暗い人気のない校舎。私は鍵を握り締めて廊下を歩く。
壁には自転車のルールのポスターや美術館の広告、生徒が描いた部活紹介のポスターが貼られていた。それを横目で見て、何かを思う前に通り過ぎた。首を竦め軽い鞄を体にくっつけて、できる限り体を小さくしながら。
校舎から一歩外に出ると、冷たい風が吹き付けてくる。制服の下はスカートだから足元が寒くて仕方ない。タイツを履いて来なかったことを後悔した。でもマフラーがあるから首は温かい。マフラーに顔を埋め直すと歩き出した。今日はよく晴れた日だ。
学校の敷地の端に旧校舎はある。その昔、生徒の数が多くなり新しく校舎を建てたものの、少子化により生徒数が減少。新校舎だけで事足りるようになった。その後潰されることも無いまま、旧校舎は今も建っている。
ここが今の私の拠り所だった。
人が居なくなった校舎は薄気味悪く、お化け屋敷のような見た目で迫力がある。太陽が昇りきってない今の時間だと、さらに怖い。肝試しに使えそうなくらいだ。
とはいえ、もう完全に閉鎖されたから無理なことなのだが。扉も窓も開かないように施錠され、誰も中に入れなくなった。そして皆の記憶から薄れ、存在を全く知らない人が増え、旧校舎は忘れ去られた。
十二月の寒さの中を黙々と歩いて、私は旧校舎の正面出入り口の前にいた。旧校舎には大きな出入り口が一つある。使われていた時には、きっとたくさんの生徒が使用していただろう。
ここが唯一、今の旧校舎に入れる場所。他のところはもう校舎を壊さないと入れない。扉は直接校舎に打ち付けられ、一階の窓はガラスを外され金属板で塞がれている。
さっさと壊してしまえばいいんじゃないかと思うが、お金とか卒業生の思い入れとかの関係でこうなっている。この校舎が残っているお陰で私は助かったのだからよくわからないものである。
正面出入り口には大きな古い南京錠が付いているだけだ。
ずっと外に出ている冷たいそれを掴む。指から熱が奪われ、ぶるりと寒さに震えた。早く手を離したいがそうもいかない。先生から借りた鍵を差し込み、鍵穴の上部分に押し当てながらゆっくりと回す。ガッと一回止まり、それでも力を弱めずに回せばガチャリと音を立てて開いた。ふうと止めていた息を大きく吐き出した。
この鍵を開けるのにもすっかり慣れてしまった。何年も開けられることの無かった南京錠は錆び付いて固くなり、最初は全く鍵が回らなかった。試行錯誤を繰り返し、何とか回るようになり、最近漸く上手く開けるコツを掴んだのだ。一回で開けることができた時はすごく嬉しかった。同時に、私は何をしているのだろうと虚しくなったが。
扉を開け、中に入る。私が何度も出入りしているからか、最初の頃と比べて埃っぽくなくなった。靴箱が並ぶ間を抜け、ローファーのまま上がる。履き替える必要がなくて楽だ。下駄箱のど真ん前には階段がある。真ん中の部分だけ埃がとれて光沢を放っている。
何となく鼻歌を歌いながらリズム良く上っていった。




