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第1話 私立 夢見学園

 都心から離れた郊外に建つ私立夢見(ゆめみ)学園。


 ヨーロピアン調の校門の前は、朝っぱらからきゃあきゃあ騒ぐ声が響いていた。


 大半は自分の遅刻など意に介さない、ギャルメイクのチーク塗りすぎ女子高生達。


 その人波の前に窓まで黒塗りのワゴン車が現れると、超音波に近い悲鳴があがった。


「きゃああ! 御子柴みこしば君っ!」

「待ってええ! 行かないでええ!」


 そのまま校門の中まで追いかけようとするギャル達は、朝からぶつかり稽古げいこを千回は終えてきた、ツインズ力士りきしの異名を持つ二人組の名物警備員達に、押し出しをくらいあっさり追い払われた。


 その横を在校生達は得意気に通り抜ける。


 私、神田川かんだがわ 真音まおとも在校生の一人だった。


(今日もいい仕事してるね! ツインズ)


 うっかり浮かんだ笑顔が、ギャルの目についてしまった。


「なによ! 

 同じ高校だからっていい気になるな!

 ブースッ!」


 いやいや、なんで私に八つ当たり?


 御子柴だか豆柴だか知らないが、私はそんな子犬のような軟弱な男を追いかけ、ここに入学したのではない。


 私が追いかけて来たのは……。


「きゃああ! ヤンヤンよ!」

「ヤンヤン――っ! こっち向いてええ!」


 ギャル達に取り囲まれるようにして現れたのは、お笑いアイドルのやなぎヤマト。


「朝早くから応援ありがとうやん。

 自分の学校行かなあかんやん」


 違う! 


 断じてこいつではない。

 元関西人の私には許せないニセ関西弁の男。


(微妙に全部アクセントおかしいねんっっ!)


 しかも、調子に乗って愛想を振りまいて、私にぶつかりやがった。


「おおっ! びっくりした。ごめんやで。

 あれ? あんたえらい色黒やん。

 なに? またガングロブームきてんの?」


「いえ。私はスポーツ9組なんで」


 私の容姿を物にたとえるなら、チョコのこってりコーティングされたポッキーらしい。


 陸上の長距離ランナーとしてそれなりの経歴を持つ私は、ガリガリで無駄に背の高い、日焼けガングロだ。


 もはや黒過ぎて目鼻立ちに言及される事もない。


 伸ばし放題の黒髪は後ろに束ねたままで、ショートの時はよく男に間違われた。


 ブスと言われて反論出来る要素など、何一つなかった。


 でもそれを悔やむまい。


 なぜなら、そのお蔭で彼と同じこの高校に入学出来たのだから。


「おお。そうなんやん。

 女子は野球部違うやろうし、陸上選手やな。カッコええやん」


 スポーツ9組は野球と陸上の特待生で占められている。

 彼ら売れてる芸能人は芸能1組。

 駆け出し芸能人は芸能2組だ。


 そして……。


 ざわめきと共に華やかな声が聞こえてきた。


「きゃあん。朝からありがとうございます」

「また劇場にも来て下さいねえん」

「握手?

 それは私のグッズを買った人だけですう。

 ごめんねえ」


 制服にフリルやらリボンをつけて、集団で登校してくる地下アイドル3組。

 彼女達を出迎えるのは、惜しげもなくニート臭を発散する、この時間にここにいて何の仕事してんだよ男達。


 地下アイドル3組には男子もいるが、韓流アイドルに似た彼らのファン層は、子育て真っ盛りの主婦が多く、さすがにこの時間に待ってる人はいない。


 そして4組から8組が名目上、普通科となっているが、実際は才能ないけど芸能人を夢見る、夢見学園の金脈だ。


 いや、一番の金脈は芸能1組にもいる。


 有名芸能人と同級生になりたい、学園にたっぷり寄付するミーハーなセレブ子女達だ。



 この高校は、芸能超大手事務所の社長が、趣味と実益を兼ねて建てた、欲と陰謀渦巻くドロッドロの超実力主義学園だった。


次話タイトルは「甲子園アイドル 夕日出 隼人」です

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