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1-8

 それから暫く、3人は談笑をする。

 憐が話題を振り、玲人がはぐらかし、クロナが微笑む。そんな形で話しつつも、時折クロナが玲人の口周りを拭いたり、何かと気を遣っている所を憐は見逃さず玲人がトイレの為席を離れた瞬間を狙いクロナに話しかけた。


「……で、稲森さんは玲人のどこが好きなの?」


「ふぁい⁈だ、だから恋人でも何でも無く……」


「それは聞いた。けど、玲人は自分が許した相手以外は下の名前で呼ばないよ。つまり、たった数日でそれだけ許されてるの」


 鋭い眼差しでクロナを見つめる憐。その勘の良さに冷や汗をかいたクロナは、思わず言い淀んでしまう。知識を得たからこその葛藤。もしもクロナが人間と知識を共有しなければ答えていただろう質問に、頭を抱えた。


 「……はい。私はレイトが好きです。優しくて、それでいて大切にしてくれるレイトが好きです」


「そっか……。あいつはそうだね、うん。いつも優しくて、自分が大切にするって決めた人はずっと大切にするからね……」


 どこか寂しげな眼差しで遠くを見つめる憐。その様子にクロナは思わず見惚れてしまい、ただひたすらに彼女の次の言葉を待った。


「……私ね、昔玲人が好きだったの。中学入って直ぐかな。いつも笑顔で、周りを明るくする純粋だった玲人が。だから告った事があるんだけど……見事に振られてね。理由が、急過ぎていきなりは無理って」


「…………」


「でね、私ってそん時凄く陰険ってか嫌な性格しててさ、付き合えないなら一生嫌ってやるって言っちゃって……それからかな。毎日の様に玲人にだけ攻撃的になったの。けど、それでも私は嬉しかったな。玲人が怒ってくれたり、話してくれたりする時間が凄く大切だったの」


「……今でも好きなのですね。レイトの事」


「……どうかな。分かんないよ。私は玲人以外好きになった事無いからさ」


 恐らく、今でも好きなのだろう。だが、昔振られた思い出が余程ショックだったのか、再び告白する勇気の持てないらしい。それ程、彼女の中では玲人の存在も言葉も大きいのだろう。


「だからね、私は今の関係を崩したく無い。もしこの気持ちがずっと続いてる恋だとしても、それを伝えて関係が崩れるなら私は伝えたく無いかな」


「そんな……悲しいですよ……」


 何故か自分の事の様に落ち込むクロナ。そんな彼女が玲人と被り、思わず笑い出した憐。丁度その時玲人が戻ってきた。


「ごめん、遅くなっ……何だ?何か面白い話してたの?」


「いや、昔玲人に腐った牛乳を投げ付けたの思い出してさぁっ」


「おまっ……あれ笑い事じゃ無いからな⁈本気で臭かったんだぞ‼︎」


 笑いながらじゃれ合う2人。そんな仲睦まじい光景をみたクロナは、微笑みながら自分は果たして本当に玲人をこちらの世界に呼び込んで良かったのかと悩み始めた。



 気が付けば講義の時間が終わりに近づいており、3人は次の講義の為にカフェを後にし大学へと戻る。その道中、玲人に手を繋がれたクロナは思わず喜びを顔に出してしまい慌てて憐を見るが、憐は気にした様子も無く玲人と話していた。

 だが、クロナは本当に玲人を独占していて良いのか。憐も本当は手を繋ぎたいのでは無いのかと悩み始める。そんな様子に気付いた玲人は、心配そうにクロナを何度もチラ見するが、その度にいつも通り微笑む彼女を見て首を傾げていた。


「次の講義なぁ……受けてる人少ないから浮くんだよなぁ……」


 憂鬱そうに呟く玲人。次の時間は選択科目である生物学だった。だが、この学校で生物学を取っているのは現在動物愛好会位しか無く、授業を受ける時も大抵4人程だった。


「別にいいじゃん。私と稲森さんが居るじゃないの。両手に花継続だよ?」


「まぁクロナが花なのは認めるけど、腐った牛乳投げる花はなぁ……あの臭さを思い出すと百合の花とラフレシアに挟まれてるよ」


「うぐっ……だとしても酷い言い様だね……玲人はもっと私に対する心遣いってのが必要だよ?」


「いやいや、だって憐だよ?僕が憐に気を使うなんてー「ダメです‼︎」」


 いきなり言葉を遮ったクロナ。それに驚いた2人は思わずクロナを見つめる。すると、今にも泣きそうな表情で玲人を睨み付け、口を開いた。


「波風さんも立派な女の子ですよ‼︎昔からの親友だからといって、こんなにも美しい女の子を無碍に扱ってはダメです‼︎レイトは……レイトは波風さんにも優しくするべきですっ‼︎」


「いや、その……落ち着いて、クロナ」


 瞳に涙を浮かべたクロナは、それ以上何も言わずじっと玲人を見つめる。どうやら、了承する迄許さないつもりらしいクロナに思わず苦笑した玲人は、憐の頭とクロナの頭を撫で、微笑む。


「僕からすると憐もクロナも一緒だよ。大切な人。だから、言葉とかは違っても大事に思ってるよ」


「れ、玲人……何してんの……っい、いきなり……っ」


「クゥ…なら良いです……」


 頭を撫でられ顔を真っ赤にした憐と、心地良さそうに目を瞑るクロナ。それを見て溜め息を吐いた玲人は、2人を連れて講義室へと入った。


 ちなみに後日、この事が元で玲人にしばらく二股疑惑がかけられたのは言うまでも無い。


 

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