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玲人の通う大学は講師にあたる人物が目視で出席を確認している為、時折格好を似せた替え玉がいる程曖昧である。その為、もしクロナが不法進入をしていてもバレなければ問題はない。しかし……
(この格好で大学に来る猛者はいないよな……はぁ)
クロナは真っ黒のワンピースーしかも太ももがしっかりと見える程に短いー姿な為、同じ服装をしている人を探す事がまず難しい話だった。だが、その不安は杞憂に終わる。
「それじゃあこの問題について解説をー稲森、お前がやれ」
「はい。分かりました」
ここからは遠い壇上にいる教授はクロナを見てはっきりと名前を呼んだ。それに対し同じくはっきりと返事し、言われた通り解説を始める彼女に、玲人は思わず呆気に取られていた。
「宜しい。おい、天原。こんな可愛いくて頭の良い彼女がいるんだから少しはそのアホ面直して教われ」
「ちょ、先生何をっ⁈」
教授の言葉に慌てる玲人。そして講義室内は笑い声で溢れた。それを見て玲人とクロナは顔を赤くして俯き、憐はそれを笑いながら見つめる。だが、クロナはそんな憐が一瞬暗い表情を見せたのを見逃さず、それでも言及はしないで席に戻った。
結局、終始教授に弄られつつ授業が終わり、終了の合図と共に教授が壇上から降り他の生徒達は立ち上がった。対し玲人はノートを取るのに必死になりながら最後まで座っており、その様子を心配そうに見つめるクロナと苦笑しながら見つめる憐との間に挟まれながらやっとの思いで書き終えた。
「次、講義ないっしょ。玲人とクロナちゃんだっけ?どっかカフェにでも行かない?」
「ああ、僕には今糖分が必要だ……」
「オッケー、じゃあいつもの所に行こうか」
行き先を決めるや否や玲人の腕を取り歩き出す憐。そのまま引き摺られる様に席を立った玲人は、クロナの手を取りつつなんとか立ち上がる。
見る人が見れば両手に花の羨ましい形であるが、憐は生粋の男嫌いとして大学内でも有名であり、玲人もケモナーとして有名なので普段なら2人が腕組んでいようがハグしていようが気にされもしなくなっていた。が、今日は噂のクロナがいる事もあり、周囲の人間はひそひそと話をしていた。
「天原のやつ稲森さんと恋人関係らしいぞ」
「マジか。流石波風と唯一話せる男子」
「なんだろなぁ……玲人ってなんでこう、高嶺の花的な存在とばかり仲良いんだ……冴えないのに」
「最後だけ聞こえやすく言うな‼︎」
恥ずかしさから思わず突っ込む玲人に、周囲の友人達は苦笑する。人当たりも良く勉強以外は案外何でも手伝う玲人は交友関係も割と広く、普段は良く飲んだりする仲でもある。その為、噂にはなっても悪い方向にはいかなかった。
「けどなぁ。絶対玲人は波風と付き合うと思ってたけどなぁ」
「いやいや、私が玲人と付き合える訳ないよ。こいつとは親友止まりだよ」
「そっかぁ。まぁでも玲人の将来が安定して安心したよ」
「お前は僕の親か‼︎」
そんな話をしつつくだらない雑談を交わした友人とは別れ、3人は近くのカフェへと向かう。そして各々飲みたい物を頼み席に座ると、憐が目を輝かせて玲人に質問を始めた。
「で、2人はいつ出会っていつから付き合ったの?」
「いや、それは……」
玲人はちらりとクロナを見る。果たして真実を伝えるべきか。そんな簡単に妖怪の事を憐に教えてしまい彼女が巻き込まれたらどうしようか。と考え黙り込む。すると、クロナの方が口を開いた。
「実は私の祖父が亡くなり身寄りが居なくなったんですが、我が家はレイトの家系と親しく親族の方がレイトを紹介してくれたのです。それで昨日こちらに着いて……だから噂されてる恋人とかでは……」
「そうだったんだ、なんだぁ……」
思わぬクロナの機転に玲人は驚き、それでも疑われない様頷く。どうやら憐はそれを信じたらしく、少しつまらなさそうな顔で飲み物を啜った。
「それより波風さんとレイトの関係を知りたいです」
「ん、私と玲人?さっきも言った通り親友だよ。かれこれ6年程一緒に居るかな?」
「そんなになるか。年を取るのは早いな」
「そんなに長く……。波風さんはレイトにその、恋とかしなかったのですか?」
「ぶっ⁈」
クロナの言葉に思わず玲人と憐は噎せる。そして咳き込みながら憐は苦笑して答える。
「けほっけほっ……あり得ないよ‼︎大体私と玲人は元々最悪の相性だったし。毎日喧嘩してたのよ?」
「間違いない。あの時の憐は滅茶苦茶生意気だったからなぁ……」
必死に否定する2人に首を傾げるクロナは、不思議そうな表情を浮かべつつ交互に2人を見た。