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結局その夜は一緒に寝ながらも昨日とは違い少し距離を開けて寝た玲人は、知識を得た事により過剰に意識をしだしたクロナにドキドキとして眠れず、ちらりとクロナを見る。
すると同じくドキドキして眠れないのかクロナも布団の中からこちらを見ており、目が合った瞬間顔を赤らめてもじもじとし始めた。
「…寝れないのかい?」
「…うん、レイトも…?」
クロナの返事に頷いた玲人は、苦笑しつつクロナの手を握る。
「あっ…。」
「昨日みたいに抱きつかれると恥ずかしいけど…これ位なら…うん。」
「レイト…。うんっ、ありがと…っ。」
玲人の優しさを素直に感じたのだろうか。満面の笑みを浮かべたクロナは握った手を大事そうに両手で包みつつ、気づけばスヤスヤと寝息をたて始めていた。
その気持ち良さそうな寝顔を見つめていると先程までの胸の高鳴りは心地良いものとなり、安らかなリズムを刻み始めやがて玲人の眠りを誘った。
翌朝。
休みが明け平日となった今日は玲人にとっては鬱蒼する程の月曜日で、再び学校生活が待つ一週間となった。
だが、そこで玲人は困った事を思い出す。
「…クロナ、君を1人にして大丈夫なのか?」
「…ん?大丈夫。手は打ってある。私に抜かりはないっ。」
どこで覚えたのか、その豊かな胸を張り手を当ててえっへんとばかりに言い放ったクロナを見て、嫌な予感がしつつも反論はせずに準備を整える。
「それじゃ、行ってくるね。何かあったら必ず言う事。いい?」
「うんっ。レイト、行ってらっしゃいっ‼︎」
朝から最高の笑顔で見送ってくれるクロナにドキドキしつつも玲人は部屋を後にして自転車置き場に置いている原付のエンジンをかける。
大学まではそこまで遠い距離ではないものの、帰り道疲れ果てた体で山の傾斜を登るのは辛い為買った原付だった。
「よっ、ケモナー‼︎」
「馬鹿、その呼び名はやめろって‼︎」
大学に着き原付を停めていると後ろから背中を叩いて挨拶してきた女性は、同じ動物愛好会に所属している波風憐と言って、男勝りな性格とボーイッシュな見た目、そして本人公認の百合属性(とはいえ恋愛はどちらもいけるらしいが。)もあり同大学の女子からも人気が高い。玲人とは何だかんだ中学からの付き合いだった。
「なぁ玲人。お前女できたのか?」
「ぶっ⁈いきなりなんだ⁈」
唐突に言い出す憐。その言葉に驚いた玲人は思わず吹き出し、慌てて憐を見る。
「いや、何となくそんな気がしたのだけど…まぁでもそんな事ないか。尻尾ないとお前と付き合えねーしな‼︎」
「ま、まぁな‼︎普通の女の子よりやっぱ尻尾ないとな‼︎」
豪快に笑いだした憐につられるように笑いながら、2人は授業を受ける為に歩き始める。
今でこそこれだけ笑顔で話せる仲ではあるが、実は中学の時2人は仲が悪くそれこそ犬猿の仲とも言うべき状態だった。
そんな2人が仲良くなったのは不幸にも玲人の妹が亡くなった日。毎日喧嘩する間柄だったのに完全に塞ぎきり学校に通わなくなった玲人を心配して毎日家に来ては玲人の面倒を見始めてから仲良くなっていったのだ。
正に喧嘩する程仲がいいをいつの間にか体現していた2人はいつしか親友となり、高校、大学と同じ場所を選んでいたのだ。
「しかし毎度僕の事待ってたら本当に勘違いされるぞ?」
「ま、まぁそれはそれで良いんだけど…」
「ん?」
「い、いや何でもない‼︎考えてみろ、百合属性の私とケモナーの玲人だろ?天地がひっくり返ってもないって‼︎」
「それもそうか、取り越し苦労だったな。」
「あははっ、ああ…。」
溜め息を吐いた憐に気付かないまま2人は何気ない雑談を交わしつつ、一限目の教室へと辿り着く。
少し早めについた2人は一番後ろの席に隣同士で座りつつ授業開始を待った。すると、他の生徒が続々と入って来た中とある話を耳にした。
「なんかうちの学校に編入生来るらしいよ。」
「大学で編入?珍しい。」
「しかも編入試験全て満点らしい。なんでBランクのこの学校選んだのか…。わからんものだな人生。」
「へぇ、珍しい事もあるんだな。」
「だなー。可愛い子だと良いんだけど。」
「尻尾生えてたら僕のもので。」
そんな冗談を交えつつ、最後に開いた扉を見つめるとー
「く、クロナ⁈」
「あ、居たレイト〜。」
何故かクロナが学校に来ていた。
そして玲人は先程の会話と今朝の会話を照らし合わせる。
「…あの、まさか…。」
「うん、レイトと同じ所に居れば問題ないかなって。」
朝と同じポーズをとったクロナ。その様子に思わず苦笑していると横から憐が脇を小突き
「おい、玲人‼︎なんだこの可愛い生き物は‼︎なんでこんな子と知り合いなんだよ‼︎」
「ん、まぁ色々あってだな…。あ、ヤベェ教授が来た。クロナ、とりあえず横座るんだ。憐、後から説明する‼︎」
「おい絶対だぞ⁈」
どこか睨みつけた形で玲人を見つめる憐を抑えつつ、ゆっくりと現れた教授に怒られない様に教科書を開いた玲人は、内心溜め息を吐きつつ授業を受け始めた。