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1-5

翌日。

鼻を刺激するいい匂いと共に目が覚めた玲人が時間を見ると、時刻はすでに夕方となっており慌てて飛び起きた。


「あっ…レイト‼︎大丈夫…?」


「うん、ありがとうクロナ。」


「良かった…。」


思わず安堵の息を漏らし抱き着くクロナ。だが、玲人はそれよりも頭に残る昨日の記憶を頼り妹の体に刻まれていた傷跡を思い出す。


「…違う。」


「レイト…?」


「いや、昨日…と言うより今朝方の白狐達の大きさでは妹の体に刻まれた傷とは比べ物にならない程小さいんだ。もっと大きな…爪や牙だった。」


「…妹さんの事…。その、本当ごめんなさい…。」


玲人の言葉に表情を落とし、ギュッと強く抱き着くクロナ。それに気付いた玲人は慌ててクロナの頭を撫でながら取り繕う。


「クロナは人間との共存を目指しているんだろう?だったら僕の妹に手を出してない。だから気に止む必要は無いよ。」


「でも…私達妖怪が手を出さなければ…なければ…っ‼︎」


まさか自分を救ってくれた人間の身内が妖怪の被害者だとは思いもしなかったクロナは、誰にも咎められないその罪悪感から泣き出してしまう。そんなクロナをついつい抱き締めて頭を撫でた玲人は、一頻り泣き落ち着いた彼女の姿に疑問を持つ。


「落ち着いたなら、その格好について聞きたいのだけど…。」


「ん…これ?レイトの本棚から糧の作り方の本を取り出してみた。」


いつものワンピースの上からピンクのエプロンを付けたクロナは、『誰でも簡単料理』と書かれた本を開きながら必死に料理を作っていたらしく、フライパンの上ではザク切りで入れられた野菜炒めが火を止めろと言わんばかりの音を立てていた。


「ちょ、クロナ‼︎火‼︎止めて‼︎」


「クゥ?…あっ‼︎」


慌てて火を止めるクロナ。間一髪間に合ったそれは一部焦げてはいるもののまともに食べれる様で、それ以外にも米や味噌汁など和風料理が作られていた。


「…これ、全部クロナが?」


「うん、お爺様の残した本とレイトの本で作ったの。」


「凄い‼︎凄いよクロナ‼︎ありがとう、僕は嬉しいよ‼︎」


思わずクロナの手を取り飛び跳ねて喜ぶ玲人の姿に、耳まで赤くしながら照れるクロナは恥ずかしがりながらも尻尾を勢いよく振り回していた。


「あ、味はわからない…から、レイト、失敗してたらごめん…ね?」


「ううん、大丈夫。さ、食べよ?」


「うん…っ。」


皿に盛り付けて机に持って行き、2人はぴったりとくっついてたまま合掌をする。そして一口、クロナが不安そうな顔で見つめる中玲人が食べるとー


「…うん、おいしいよ‼︎」


「本当…?はむ…っうん、美味しい…っ。」


玲人の反応を見てホッとしたのか、クロナはパクパクと箸を進め始める。


「うん、本当クロナは凄いよ。まだ1日しか経ってないのに人間に順応している。」


「それは、レイトと契約してるからもあるの。人間と契約すると、互いに互いの知識が共有できる。」


「そうなんだ、便利な事だ…。」


「その、レイトが尻尾が生えた女性と結婚したいって知識も…。」


「ぶっ⁈ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」


クロナの爆弾発言に思わず吹き出す。

まさか自分の妄想までバレていたとは。よく見ればクロナは先程からもじもじしており何度もチラチラとこちらを見ては顔を赤らめている。


「それに、昨日のあーんとか、一緒に寝るとか…レイトが恥ずかしがっていた理由わかった…わ、私その、誰とでもそんな事する訳じゃないから…レイトだけ…っ。」


「う、うん、わかった。わかったからこれ以上自爆するんじゃない‼︎」


結局甘酸っぱい時間が流れたまま無言で食事を終える。そして食器を片付けていると、クロナが思い出したかの様に話しかけてきた。


「そういえば、レイトの妹さんを殺した妖怪…わかるかもしれない。」


「本当か⁈」


「うん、多分…白狐族の長老…太白様。4m以上ある体に未だ衰えない妖術。タカ派の中でも強い発言力を持ってる妖怪の中の首領よ。」


クロナの言葉に息を飲む玲人。だが、それを見てクロナは手を取り首を横に振った。


「太白様には勝てない。もっと力をつける必要がある。私も、レイトも。」


「…ッ。分かってるさ。」


クロナの言葉に苛立ちを見せる玲人。だがそれは間違いだとすぐに気付きクロナを見れば、やはり少し俯いてしまっていた。


「ご、ごめん。クロナに当たっても何もないのに。」


「ううん、大丈夫。レイトは優しいから、たまにはそうやって誰かに感情をぶつけないと…私でいいから、さ。」


ギュッと抱きつきながら笑顔を送るクロナ。恐らく無理して笑っているのであろう。そんな様子に心を握られる想いをした玲人はそっとクロナの肩を掴み小さく首を振った。


「それはただの八つ当たりさ。僕が恨むべきはタカ派の妖怪だろう?」


「レイト…。」


それ以上何も言わなくなったクロナは、時折心配そうに見つめては視線が合うたび微笑んでいた。

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