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一方的な口付けの後、そっと離れたクロナは元の表情に戻っており、一方で玲人は急な展開に頭が追いつかず目をパチクリとさせていた。


「ごめんね、こうでもしないとこの先が危ないから。」


「え、あ…いや、良いんだけど、良いんだけど…何故キス⁈」


「それも説明する。だから落ち着いて聞いてね。」


クロナの言葉に深呼吸をして返す玲人。思わぬ所でファーストキスを失った事に関しては何とか飲み込めたものの、それでもなお目の前の美少女の唇を意識してしまい心臓が高鳴る。


「妖怪の事を知識として理解したレイトは、この先妖怪側の守秘義務によって命を狙われる。勿論私もだけど…。そうなれば普通の人間であるレイトは自分の身を守れない。例え武術を習っていても妖怪の使う術には勝てない。だから、黒狐族の力を少し分け与えた。ここまではいい?」


「こ、言葉としては理解出来るけど…状況としてはあまり…。」


「うん、今はそれでいい。続けるね。

今のレイトは所謂半妖状態。普通の人間に比べれば肉体の回復も早く死ににくい。それこそ、瀕死程度ならば生きれるの。それに多少の妖術も可能。…けれど、あくまで人間から見たらの話。1人では絶対妖怪には勝てない。」


「う、うん。」


「だから、私と契約した事によって生まれた繋がりで私はいつでもレイトを助けれる様にした。その為の接吻。分かった?」


何度か頷く玲人。しかし、疑問は多く未だ整理できていない様子を悟ったのかクロナは微笑み


「レイトは私に人間の事教えてくれた。だから、私はレイトに妖怪の事を教える。…そうやって一緒に生きていきたい。私も、優しいレイトが好き。」


「…そう言われたら分かったとしか言えないよ。」


頬を染めながら微笑むクロナの顔を見て断れる程玲人は無情ではなく、むしろ自分にとって願っても無い形で訪れた恋のチャンスに思わず息を飲んだ。


だが、それも束の間。頭の中で何か警告音を鳴らす。


「…いいタイミング。レイト、ここはダメ。外に出るよ。」


「えっ…あ…待ってクロナ‼︎」


先程までの表情からまた一転。キリッとした目付きで玄関めがけ4足歩行で走り出したクロナを追いかけ、履き慣れた靴を履いて外に飛び出した玲人は、近くの道に今まで感じたことのない歪みを見つけ思わずそこに入る。するとそこには、中型犬程のサイズをした大きな白狐が3体、仁王立ちをして睨むクロナを前に低い唸り声をあげて構えていた。


「レイト、これが妖怪。白狐族。私達黒狐族を目の敵にする妖怪の中でもタカ派の一族よ。」


「これが…‼︎」


『…クロナよ。貴様は人間界に降り立つ禁忌を犯しただけでなく、貴様の祖父が行った禁忌中の禁忌…人間と契約をも交わしたというのか。』


脳内に響く程の重低な声で話しかけたのは真ん中の白狐だった。その風貌は正に答えを違えても嘘を吐いても咬み殺すとばかりに威圧的だが、それに一切の引けを取らないクロナはその白狐を睨みつけて声を張る。


「ええ、そうよ。私はお爺様の夢を…人間と妖怪の共存を諦めたわけではないわ。だからこうして、レイトと共に私は戦う。」


『戯けが‼︎貴様の祖父がそれを望みどうなった⁈忘れもしない…400年以上も前‼︎人間は我らを都合良く扱ったばかりか少しでも意にそぐわない我らの同志を屠殺したではないか‼︎八岐大蛇のあの姿を忘れたのか⁈』


「私はその頃産まれてないから知らない‼︎それにお爺様がいつも言っていた…あれは人間が悪いのではなく人間を餌にしようとした八岐大蛇様が悪いのだと‼︎共存をうたった我らが人間を殺したからだと‼︎」


『黙れ‼︎元来我々は人間を餌にしてきた種族。それを今更都合良く共存など甚だおかしい話だ‼︎』


「それは貴方達タカ派だけだ‼︎私達黒狐や他のハト派をうたう妖怪は昔から人間に手出しなどしていない‼︎例え手出しをしていたとしても、今はその風習を全て捨て食文化を変えているではないか‼︎未だに我々に黙って人の子を攫い妖怪の山に連れ去っては食糧にしている貴方達とは違う‼︎」


『貴様何故それを…否、そんな事はどうでもいい‼︎とにかく貴様が人間と共存を選ぶなら、今すぐこの場で咬み殺すまでだ‼︎』


激しく言い合うクロナと白狐。互いの表情はまるで縄張り争いをするかの如く鋭く、一触即発とも言うべき形だった。

そんな中、玲人はポツリとクロナに問いかける。


「クロナ、さっきの話は本当なのか?」


「…どの話?」


「妖怪が『人の子を攫い食糧にしている』って話だ。」


「…うん。悲しいけど事実だよ。特に彼らのような食肉を好むタカ派の一族は、特に人肉を好んでるわ。他には猩々や赤鬼等…。」


「…もう大丈夫。」


「…レイト?」


クロナは契約により繋がった玲人の感情が著しく変わったことに気づき、思わず不安そうな顔で玲人を見つめ側による。


「どうしたの…レイト…?」


「クロナ、僕には君を守る以外にも彼らと戦う理由がある。今それが分かった。」


『何を言い出すと思えば‼︎クロナから少し力を与えられた半妖風情が、我らからクロナを守ると⁈笑わせるな小童‼︎』


「…今から7年前。当時小学生だった天原胡桃アマハラクルミが行方不明になり、後日無残に食い散らかされた姿で発見された…。」


「…レイト、それって…?」


「そう、僕の妹だ。それから僕は妹を食い殺した動物が憎くて憎くて、気が付けば動物愛好会に入り常日頃からその習性を調べてきた。だが、この世界に住む動物ではどれにも当てはまらなかった。その謎が解けた…お前らが、胡桃を…‼︎」


沸々と湧き上がる怒りをぶつけるかの様に言葉を吐く玲人。その様子にクロナは息を飲み、どうしようもなくそっと玲人の服を握る。


「ごめん…レイト。私達の誰かが、レイトの家族を…。」


「クロナ、君は教えてくれた。そんな君には罪は無い。だけど、目の前の奴らは違う。彼らは食人を好む奴らなんだろう。ならば答えは一つだ。」


『人の子がいい気に…丁度いい。貴様らを殺し暫くの糧にしてくれるわ‼︎』


一斉に駆け出す白狐達。その勢いは凄まじく、触れただけでも人間なら耐えられないだろう。だが、それ以上に玲人は怒り、それは拳に集まっていた。


「レイト…‼︎」


「7年分の恨み、返させてもらうーっ‼︎」


拳を構え、迫る白狐を睨む。次の瞬間、体に違和感が起きた。

頭の辺りから聞こえる人間の耳とは違う音域の音、そして腰の辺りから感じるふさふさの毛並み。それらが出た瞬間玲人が見る風景はガラリと変わり、目の前の白狐がゆっくりと走り始める。そして拳を構える右手には幾つもの梵字が浮かび上がり、玲人の腕に刻み上がる。


「凄い…何も教えてないのに…獣化まで…‼︎それにこの力はーッ‼︎」


「うぉぉぉぉぉぉおッ‼︎」


白狐と玲人が触れ合う直前。玲人によって振るわれた拳は勢いに乗り、白狐に触れた瞬間に刻まれた梵字を流し込んだ。


『なんだと⁈…こ、これはーッ』


次の瞬間、拳が触れた箇所が光り出し、爆発音と共に左へ吹き飛ぶ。ま左にいた白狐を巻き込み中央の白狐は揉みくちゃになりながら落下防止の柵にめり込んだ。


『な…強化妖術・金剛か…⁈しかしこの威力は一体…‼︎』


「ハァ…ハァ…‼︎」


『クソ…半妖ガァァァァァ‼︎』


「させない‼︎火焔妖術・火燕‼︎」


『グォォ…⁈』


2匹同時に潰され一時はたじろいだ白狐だったが、再び襲いかかる。だが、それはクロナによって作り出された炎を纏った無数の燕によって封じられ、その身を炎に包んでいく。


『おのれ、許さぬぞ…クロナ‼︎』


「許されなくて結構‼︎貴様らの様な妖怪の恥晒し、一族もろとも潰えてしまえ‼︎」


体の全てを燃やされた白狐はやがてそのまま灰となり、風に乗って霧散した。

それを見届けるや否やクロナは玲人に駆け寄りその安否を確認する。


「レイト‼︎…大丈夫⁈」


「ハァ…ハァ…クロナ、か…ハァ…ッ‼︎」


「お疲れ様、もう大丈夫だから、レイト…。」


肩で息をしたまま、鬼の様な形相を崩していない玲人を見て思わず抱き締め背中をさする。すると、鬼気迫るその顔からは少しずつ安らぎの表情へと戻り始める。そのまま疲れ果て、クロナの肩に頭を乗せる形で眠ってしまった玲人を優しく抱き締めながらクロナは登り始めた朝日を見て微笑んだ。

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