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1-3

クロナを連れ外へ出ようとした時、ふと気付く。


「…ところでクロナ、靴はある?」


「靴…?」


小首を傾げ、目をパチクリさせるクロナ。その可愛らしい様子に思わず頬を緩めた玲人は、自分が普段履いている靴を手に取り


「人間は外に出る時皆靴を履くんだよ。」


「…無い。私達は履かない…。」


玲人が教えると、困った表情をみせたクロナはオロオロとし始める。そこで、玲人は靴箱からクロックスを取り出しクロナにそれを履くように伝える。


「ありがと…っ。」


「いいよ、それと…その尻尾は隠せる?僕としては気にならないけど…。」


「できる。それ位は簡単…。」


コンビニまでは近いとはいえ、店員に見られでもしたら何を言われるかわからない為ダメ元で頼んでは見たものの、案外素直に受け入れてくれた為、取り越し苦労に終わった。そのまま2人は部屋を後にしコンビニへと向かう。


「レイト…歩きにくい…。」


その道中。家の中では何不自由なく歩いていたクロナは初めて履いたクロックスの感覚に慣れないのだろうか。ヨタヨタと覚束ない足取りで歩いていた。それをみた玲人はクロナの歩く速度に合わせゆっくりと歩く。するとー


「レイト…前足出して…。」


「前足?…あぁ、手か。」


クロナがぷぅと頬を膨らましながら玲人が差し出した手を取ると、そのまま腕に抱き着く形で歩き始める。


「く、クロナ?は、恥ずかしいんだけど…‼︎」


「歩きにくいもん…嫌なら離すけど…。」


「い、いや、嫌では無いかな…。」


「ならいい。このままっ。」


思わず赤面した玲人を他所に、歩くのに集中しているクロナは足を進める度にぎゅっと抱き着き、その女性らしい体を玲人の腕に押し付けた。

そのまま、ぎこちなく2人が歩くこと数分。

全国的にも有名な牛乳瓶マークのコンビニへと到着した。


「クロナ、何が食べたい?」


「ん…肉。後木の実…。」


「中々難しいお題だ…‼︎」


少し歩くのに慣れてきたのか、先程よりは普通に歩き出したクロナに抱き着かれたまま店内を彷徨く。すると、クロナは弁当のところで足を止めハンバーグ弁当と書かれた商品を凝視し目をギラつかせた。


「レイト…これっ…‼︎肉…大きいこれ…‼︎」


「わ、分かったから落ち着いて…ハンバーグ弁当ね。」


商品を手に取ると何度も大きく頷き、喜びを表しているのか腕に頬擦りを始めたクロナを落ち着かせつつ、ついでに水や自分用にカップ麺を手に取りレジへと向かう。


「ありがとうございます。こちらあたためますか?」


「クゥ…?」


「あーええ、お願いします。」


店員の言葉に首を傾げるクロナを見て慌てて返事をした玲人は、そのまま会計を済ませ商品を手に取り直ぐにコンビニを出た。


「レイト、さっき渡してたのは何?」


「お金だよ。人間は物を買う時お金を払わないといけないんだ。」


「クゥ…狩りはしないの?」


「あはは、今狩りをする人間は極少数だよ。」


帰り道。クロナはコンビニで起きた事を玲人に聞きつつ、彼の手にある商品をチラチラと見つめながら歩いている。どうやら早く食べたいらしい。それに気づいた玲人は、クロナに人間のマナーを伝えた。


「クロナ、人間はね。決められた所でご飯を食べるんだ。ここはまだそこじゃ無いから…もう少し待ってね。」


「クゥ…人間って大変…。」


目に見えてしょんぼりとした彼女を見て思わず苦笑した玲人は、少し歩を早めてアパートへと向かう。


「クゥン…レイト、早い…っ。」


「ふふっ、頑張って歩けばご飯を食べれるよ?さ、クロナ。ファイトっ。」


「うぅ…っレイトは意地悪だ…っ。」


涙目になりながら頬を膨らまし、必死に歩くクロナ。その様子が微笑ましく、思わず笑うと更にクロナは頬を膨らまし半ば自棄になりながら歩き始める。そうして行く時よりも早くアパートにつき…


「疲れた…レイトは優しいのか意地悪なのか分からない…。」


「ごめんごめん。ほら、ご飯を食べよう?」


「ガルゥッ‼︎肉っ‼︎」


ほんの数秒前まで拗ねていた表情は一気に変わり、喜びのあまり獣の耳と尻尾を飛び出させたクロナはまるで待てを言われている犬の如く興奮状態となっていた。


「はいはい、こっちね。」


「うんっ…レイト、もういい?」


「ああ、いいよ。どうぞ召し上がれ。」


「いただきますっ…⁈クゥ…⁈あちゅい…っ‼︎」


勢いのままハンバーグにかぶりつきー直ぐ様離したクロナは、舌を出しながら玲人を見つめオロオロとし始める。それを見た玲人は思わず吹き出し、クロナの横へと座った。


「そりゃそのままかぶりつくからだよ…。はい、箸は使える?」


「…これ?どうするの?」


「こうやって使うんだよ。そうすれば熱くても…ふぅーふぅー…ほら、あーん。」


「あー…ん…っ。〜‼︎美味しい…‼︎それに熱くない…っ‼︎レイト、凄い…っ‼︎」


感動のあまり抱き着くクロナに危うく押し倒されそうになりつつも何とか堪え、喜びを表しているのか胸元に頬擦りをするクロナを何とか座らせる。


「はい、じゃあ箸の練習もしようか。」


「クゥ…?そのままじゃだめ?」


「うん。人間はそんな食べ方しないよ?」


「クゥ…大変だ…。」


耳と尻尾を萎れるのを見て苦笑しつつ、クロナに箸の使い方を教える。すると最初こそ苦戦していたものの、元来器用なのか直ぐにコツを掴んだ。だが、やはり力の加減が分からないのか小指が攣りそうになったりしており、手がプルプルと震えていた為中々進まなかった。


「レイト…っ肉が…逃げるっ…手伝って…?」


遂に涙を流し始めたクロナを見て思わず頭を撫でていた玲人は、これ以上無理をさせるのは良くないと思いクロナから箸を受け取る。


「よく頑張ったよ。残りは食べさせてあげるから、ほらあーん?」


「うん…っあーん…。…レイトが食べさせてくれると余計美味しい…なんか妖術でもかけてるの?」


「いやいや、そんなものかけてないよ。」


クロナの幸せそうな顔を見つめながらその後も食べさせてあげ、やがて食べ終わった頃。


「レイトは何も食べなくていいの?」


「ん、僕は食べてから帰ってるからね。大丈夫だよ。」


「クゥ…じゃあ今度レイトに食べさせる。」


「そ、それは恥ずかしいかな〜…。」


クロナの提案に思わず赤面する玲人。そして時計を見れば午前3時を回っており…


「ヤバい。明日は休みとはいえそろそろ寝ないと…。クロナ、お風呂に入ってくるから大人しくしていてね。後僕が出たらお風呂に入る事。」


「うん、分かった。」


お腹が膨れて満足したのだろう。来た時よりも素直に返事を返すクロナを見て安心した玲人は、軽く汗を流し着替えて部屋に戻った。


「お待たせ。クロナ、どうぞ。」


「うん、行ってくる。」


元気良く返事をしたクロナは、頭陀袋から小さな包みを取り出し風呂場に向かいー


「キャゥゥッ⁈れ、レイト‼︎水っ熱い‼︎何これ⁈」


「ちょちょちょっ⁈せめてタオルで隠してっ‼︎」


裸で飛び出してきたクロナの体を直視しない様に目を背けつつ、玲人は近くにあったバスタオルでクロナの体を隠し一緒に風呂場へ向かう。


「水を出したい時は、あの青色の蛇口を捻るんだ。いいね?それとついでに言っておくと頭はあのシャンプー、体はあのボディソープで洗うんだ。いいね?」


「うんっ、わかった。ありがとう…‼︎」


何度も頷いて再び風呂場に入ったクロナは、中からバスタオルを外に投げつつ体を流し始めた。


「…ちょっとだけ見てしまったけど…不可抗力だから…‼︎」


風呂場で機嫌良く体を流すクロナに頭を下げつつ、玲人はクロナが戻ってきた時に再び患部を処置できる様に準備をし始めた。


数分後。

体からいい匂いを振りまきながらご機嫌で戻ってきたクロナは、玲人の隣に座り処置を受けた後に彼の部屋へと着いてくる。


「えーっと…どうしよう。クロナ、どこで寝る?」


「クゥ?一緒に寝る。」


「ま、まじかぁ…。」


「嫌?」


「むしろ嬉しくて寝れなさそうだよ…。」


苦笑する玲人に首を傾げつつ、再びワンピースを着ているクロナは玲人のベッドに横たわり、玲人が転がるのを待っていた。

仕方なく…というより喜んで隣に転がった玲人は、そのまま抱きついてきたクロナを受け入れて布団をかける。


「…レイト。一つ聞いていい?」


「ん?なんだい?」


「どうしてレイトは私にここまで優しくする?」


玲人の胸を枕の様にしているクロナが唐突に質問する。その返答に少し悩んだ玲人はそれでも素直に答えようと思いー


「そうだね…放っておけなかったのもあるだけど一番はあれかな。一目惚れしたからかな。」


「…クゥ…?」


「あーと…つまり、うん。クロナが可愛くて助けた…‼︎」


「…はわっ⁈」


玲人の言葉に赤面しおずおずと見つめてくるクロナ。その表情がまた一段と可愛らしく、玲人も思わず赤面する。


「そ、その…レイトは私が好き…なの?」


「う、うん…好き…だよ。」


「…クゥ…。ありがと…。」


それを聞きもじもじとしながら黙り込むクロナ。そして少しよじあがり、レイトの顔の横に自分の顔を持ってきたクロナは、まだ顔を赤くしたまま再び口を開く。


「その…レイト。さっきも言ってたけど…私が何者か、まだ気になる…?」


「え、うん。けど話したくないならー」


「ううん。教える。こんなに良くしてくれるレイトなら…教える。けど、この先何が起きても自己責任。それでも聞く…?」


まだ顔は赤いままだがその眼差しは真剣そのもので、聞けば後戻り出来ない事を本気で伝え様としているクロナに、思わず息を飲む。しかし、こうなった以上知りたいのが人の欲でもある。


「…ああ。教えてくれ。君は何者なんだい?」


「…うん、私は稲森イナモリクロナ。黒狐族の最後の生き残りにして人間を妖怪から守る為に選ばれた守護狐…。本来なら人間界には降りない妖怪の類。妖そのもの…。」


その瞬間、周囲の空気ががらりと変わる。だが、その様子を微塵にも気にしないクロナは先程までの表情を消し凛とした顔つきで玲人に唇を近づけー


「…本来なら知るべきではない知識を得た人間レイト。これより私はそんな貴方を守る為の守護狐となります。ですが私1人では来たる脅威には勝てません…ですので、レイト。私を助けてくれたお礼に貴方を守る力を授けます。」


「く、クロナー⁈」


そっと唇を重ねた。

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