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深夜2時。

人気の無いこの道は、通称稲荷道と呼ばれており、その昔狐が沢山近くに住んでいたらしい。

現在では舗装され、落下防止の柵と高い崖でその山とは分けられているが…その目で狐を見たこと無い動物愛好家にとってはちょっとした噂のスポットでもある。

そんな道を1人寂しく歩いている大学生、『天原玲人アマハラレイト』はそんな動物愛好家の1人でもあった。


彼は日頃から動物を愛するあまり、自分の嫁は尻尾が生えた美少女でないといけないと豪語し飽きられている程であり、そんな現実味の無い妄想をするあまり、『度が過ぎたケモナー』というあだ名までつけられていた。


ちなみに大学の成績はそこまで良い訳ではないものの、見た目は然程悪くは無い為友人間との付き合いは良い。今日も『天原更生会』と名付けられた合コンを終え、飲まされてはクタクタになりながら帰宅している所だった。


「うぇ…気持ち悪…吐きそ…。あいつら飲ませ過ぎなんだって…。」


千鳥足で歩くその様は正に酔っ払いで、この様子では目と鼻の先にある筈の自分の住むアパートへいつになったら着くのか分からない。そんな勢いでふらつきながら歩いているとー


パラ…パラパラ…ッ


珍しく落下防止柵の内側に小石が転がる音がする。この山では落石など年に一回あれば良い方なのだが…。

物珍しさに頭は少し冷え、自らに危害が及ばなそうな位置で立ち止まり上を見るとー


「…ん?なんか…歪んでる…?」


酔っているせいだろうか。崖の上の方が揺れている様に見える。これは本格的に飲み過ぎている。明日の授業は昼以降出よう…そう思った矢先だった。


「ーえっちょ、お、女の子…⁈しかも、尻尾…お、お、ヤバいとりあえずえええっ⁈」


その歪みから仰向け状態で降ってくる黒いワンピースに身をまとい手には頭陀袋を抱え、『尻尾を生やした』少女が現れた。

慌てて走りとりあえず受け止めなければーいや、そもそも落下防止柵の外側に落ちるのか?

頭の中で思考が巡る。しかし、それをまるで理解していたが如く少女の落下速度は急激に落ち、慌てふためく彼の両腕に収まった。


「生きてる…よな…?…それにしても綺麗な顔立ちだ…。」


生死の心配をしつつもまず最初にその可憐な顔立ちに目を奪われた。幼さは残るものの、歳で言えば自分と同じ20かその前後であろう…。そして極上の毛並みと言うべき髪と尻尾。正しく同じ人間では到底出し得ないその感触に思わず頬が緩んだ。


「凄い…この毛並み…素晴らしい…‼︎じゃ、じゃない…おい、大丈夫か⁈」


若干うっとりとしつつも肩を揺らす。だが、返事もなく顔色も悪い。更に、よく見れば至る所が泥と傷で塗れており、あまり宜しい状態ではなかった。


「脈は…ある…だが、衰弱してるな…。仕方ない…俺の家に運ぶか…っ。」


この際この子にどんな扱いを受ける事になっても仕方がない。死なれるよりマシだと考えた玲人は、未だ目覚めぬ彼女を背負い足取りを確かにアパートを目指した。


玲人の住むアパートは学生用の寮ではなく提携先のアパートとなっている為、1DKといった少し広めの部屋となっている。

その中の自身が普段就寝している部屋へと彼女を連れ、ベッドにタオルを引いてその上に寝かせる。


「とりあえず…泥は落としておくか…。」


そうして彼女の腕や足についた泥をタオルで拭こうとしてー


(やべぇ俺女の子の体なんて触った事殆ど無いからどうしよう、手が、手ガァァァァァ‼︎)


意識すると手が震え思い通りに拭けない。思わず彼女に背を向けて天を足掻いていると、少し物音が聞こえ小さく、それでも凛とした声が部屋に響いた。


「ここ…は…?」


「…‼︎気付いたか⁈良かった…。」


「ッ⁈.ニン…ゲン…‼︎な、何の用⁈」


玲人の声を聞きベッドの端へと逃げ唸り声をあげる少女。だが、当然だろうと予想していた玲人は微笑み、タオルを手渡した。


「空から急に降ってきたからね…そのまま置いていくのも気が引けたし、それなら嫌われても良いから助けてあげたかったんだ。」


「…そう…か…。ありがと…。」


玲人の言葉に顔を赤くした少女はベッドの上でぺこりと土下座をする。そしてタオルを受け取り首を傾げ


「これ…どうすればいいの…?」


「ああ、それで腕や足の泥を拭くんだ。」


「…コクン。」


小さく頷きせっせと泥を落とす少女。だが、その途中顔を歪ませる時があった。やはり怪我をしているらしい。


「…擦り傷と切り傷だね。これ位なら僕でも処置できるな。ちょっと染みるけど我慢できる?」


「ッー‼︎クゥン…ッ‼︎」


消毒液による独特の痛みが来たのか、少女は思わず玲人の服を掴み涙目になりながら必死に堪えていた。そのまま数箇所、小さな呻き声を上げつつ堪えた少女の頭を撫で、患部にはガーゼと包帯を巻いて処置をした玲人は、処置が終わった事を告げた。


「はい、終わりだよ。よく我慢できたね。」


「クゥ…人間はこれ程の痛みを易々と堪えるのか…?」


「まぁ僕らでも痛いけどね。それは人間だからでも無いさ。」


笑いながらふと、彼女の言い回しに疑問を抱く。

『人間は』という事は彼女は違うのか。それこそ、尻尾は本物なのか。冷静になったからこそ湧き上がる興味は抑えられずに口にしてしまう。


「ところでー君は一体何者か聞いていいかい?」


「…それを聞けば親切な人間も巻き込まれる…。」


「君を助けた時点でもう巻き込まれてるさ。」


「…それもそう。けど…。」


唇を噛み、視線を逸らして涙目を見せる少女。どうやら、正体を明かす事はそれだけ重い事らしい。ただの興味だけでは教えてくれそうも無い彼女を見てそれはわかり、溜め息をついて諦めた玲人は話題を変える。


「それじゃ、名前だけでも。俺は天原玲人。君は?なんて呼べばいい?」


「レイト…。私は、クロナ…。」


「ありがとう。クロナ。それを聞けただけでも嬉しいよ。」


「クゥ…。」


名前を呼ばれ少し照れ臭そうに鳴いた少女ークロナは、それからベッドに伏せの姿勢をしたまま玲人を無言で見つめ始めた。そのまま1時間程経過しー


「レイト…お腹すいた…。」


「ん…分かったよ。買いに行く?」


「行く…。」


小さく腹を鳴らしたクロナを連れて玲人は、近くのコンビニへと向かった。

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