次話への小話
ー今日は満月か。
窓辺で空を眺める少女は、どこか寂しげな表情を見せる。
ーどうしていつも悪い事が起きる日は満月なんだろう。
目に涙を浮かべ、昔を思い出す少女の手には彼女が苦手なビールがあった。
ー暫くは何も無かったけどな。人生で最悪だよ。
振られたあの日より。仲が一番悪くなったあの日より。玲人の妹が居なくなったあの日より。大好きな彼に出来た子に勝てないと知った今日が辛かった。
ーどうして、私は彼に好かれないんだろう。
嗚咽しながら涙が零れる。この気持ちが冷めるわけが無い。どんなに辛く当たられてもいい。それでも側に寄り添いたかった。だからこそ、あの日見せてくれた笑顔が忘れられなくて、この人を一生愛したいと思えた。
「嫌だよ……玲人……私、今でもずっと好きなの……」
頭を抱え、俯いてしまう。自分は最低だ。クロナにあんな事言ってまで私は玲人を奪おうとした。あんな純粋な子に、私は私だけの欲求で意地悪な事を言った。
ー波風ってさ。裏表激しいよね。俺さ、媚びる人あんまり好きじゃ無いんだ。
玲人が昔私を振った言葉が浮かぶ。あれから私は裏表なく付き合ってきたつもりだ。だけど、玲人に優しくされて嬉しくて、いつの間にか媚びてもっと見て欲しいって思った。
1人部屋に嗚咽が響く。だが、それは木霊しどこか笑い声に聞こえ始める。
ー違う。本当に誰かが笑っている。
「……誰よ……こんな私が面白いの……?」
ーケラケラケラ。可笑しいよ。人の醜悪さ。本当に醜い。君は醜い人の子だ。
「そうよ……だったらなんなのよ」
ーだけどその醜さはいい。嫉妬に燃え、恋に燃え、愛に飢えた女の醜さ。ケラケラ……実に美味しい。
不気味な声に周囲を見渡す。だが、気配もなく声以外の音もしない自分の部屋。不気味に思った憐が、ケータイを手に取り玲人へとかける。
「なんで……どうして圏外なの‼︎」
ーケラケラ……だってここは人間界じゃないからね。私の家よ。
「違う‼︎私の家よ‼︎というか誰なの‼︎姿を現しなー」
叫びながら周りを見渡す。だが、それは窓をみた瞬間言葉を止めてしまいー
『今晩は醜いお嬢さん。ケラケラ……』
「ひっ……キャ……キャァァァァァッ‼︎」
憐の部屋に響く絶叫。しかし外の誰にも聞こえなかったその声は、彼女に乗り移った妖怪の手により抑えられた。