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【解決編】 犯人指摘

「え、おい、犯人までわかるわけないだろ。」

「大体わかる…よ。もしもの話だけど、バイト先の店長が100万円を金庫にしまって鍵をかけるのを見たとき、君は手に入れられると思う?」

「可能かどうかで答えるなら、そりゃ金庫を工具でもって壊せれば、できないことはない。」

「金庫を壊せる工具なんて聞いた事ないですけど…。」

「もし仮に、店長のポケットの底が抜けていて、床に鍵が落ちたとしたら?もっと簡単でしょ?それに、もし仮に、肉親が問題を起こして今日中に100万円必要だとしたら、手に入れると思う?」


『ちょっと、もう副部長もったいつけずに、犯人を教えてくださいよ。』

当事者からしてみれば、自分の部屋を使おうとした犯人がだれかは非常に気になるところだろう。焦る気持ちはよくわかる。副部長の意図もいまいちわからないし。

「ごめんごめん、でも言いたいことはさ、普通、人が犯行をおこなうには、動機と手段と準備の3つを満たす必要があるってことなの。」

副部長はお得意のノートを使わずに、身振り手振りで説明を続ける。


「動機はまぁ今回は関係ないので置いておくとして、今回の犯行を行ううえで必要な手段や準備は、いくつかある。1つ目、少なくとも1回以上は、アナタの部屋を訪れた事がある人物。自分の部屋にみせかけられるかどうか知ってなければ、部屋を利用してどうこうと考え始めないはず。」

「2つ目、特にこちらの方が重要。アナタの部屋の合鍵を作る事ができた人物。二日前?だったけ。家の鍵を変えて、それからは絶対盗まれてないって話だし、部屋の鍵をかけ忘れたせいで今回は入られてしまったわけだけど、当然犯人は侵入できるように合鍵を準備していたはず。」


「あんまり、絞れてなくないか?いわゆる友達ぐらいなら、両方の条件を満たしそうだ。」

部長は、いぶかしげに副部長の顔を見返す。


「いえ、合鍵を作るっていっても、アナタに張り付いて鍵を盗む。鍵屋に持っていく。盗んだ鍵を返すためにもう一度張り付く。を1日のうちにおこなわないと、ばれてしまうわけだし。要は、1日のうちに何回もアナタと会う。それと、その人の前に鞄をおいて一旦席を外す機会ができるとなると、相当親しい間柄じゃないと不可能でしょ。」


「なるほど。」

大学講義の移動時間や待ち時間に鞄を置いて席を外す隙はあるかもしれない、あとは、昼時に、一緒にご飯を食べたりするときにもそうだろう。トイレとか、ちょっとそこまでの用を済ませてくる間に盗れるタイミングはある。


「例えば、私が盗むとしたら、借りてた本を返すつもりだったとかの鞄を開ける言い訳を準備した上で、かつ、一度は席を立ちそうで、事前に予定が決まってる飲み会とかの夜遅くまで遊ぶ日に実行するね。泥酔した人を、介抱するフリして傍にいれば、鍵を返すのは出来そうだしね。」


「さすがに推論過ぎじゃないか??」

部長は半信半疑のようである。身近にいるかもしれない犯人を疑いたくないのかもしれない。

「でも、可能性は十分あると思いますよ。アルバイト中の鍵の管理とか、ここ最近に犯人が実行したのか?とか細かいところはありますけど…ここまで言われれば本人にはきっと心当たりあるんじゃないでしょうか…。」


自分の言葉で皆の視線が携帯に集中する。そんな気配が伝わるわけはないが、言葉で話が振られた形となって、携帯から丁度タイミングよく声が返ってきた。


『まぁ、心当たりは…。うん。はい。ついでに、もうひとつすっきりしちゃいました。』

重々しい返事に、アテがあることは用意に想像できた。それも、その困惑ぶりから、信頼度はなかなかのものなのだろう。もしかしたらたった1人なのだろうか。


『この前鍵を替えたっていうのは、誰かに部屋に入られたような雰囲気?気配がしたからなんです。残り香というか。当然施錠は問題なかったのにもかかわらずですよ?まぁ、結局何も盗まれてないしものが動いたりもしてなかったんですけどね。親に相談したら心配されすぎて盗聴機とか色々調べて鍵まで変える大騒動になりましたよ。あれは、犯人の最終確認とか下見だったんですね…。』 


これで、この奇妙な事件の全貌がようやく繋がったように思う。背後にあった本当のストーリーはわからないが十分だろう。頭の中で事件を整理してみた。


アイツの親しい知り合いの女友達が、訳アリ関係の女から自宅に遊びに行きたいとせがまれる、しかし、遊びだったから本気で相手をしたくないけれど、秘密や負い目のようなものがあって、代わりの部屋計画を思いつき、そこへ連れて行くことを決意。まぁ、一番説明がつくのは、女性同士で肉体関係をもった相手とかその辺じゃないだろうか。本気で嫌な相手なら、偽の部屋もなにも部屋に呼ぶわけがないし、秘密を吹聴されたくなかったのだろう。


うまく合鍵をつくることに成功したものの、事件当日には、鍵は別の鍵になっていて驚く。しかし、鍵の閉め忘れを利用してそのまま計画通り実行に移す。しかしさらなる予想外として、相手が持参した薬で死亡してしまった。検視の結果ではっきりすると思うが、個人的には、殺意はなかったと思っている。同様に殺意があるような異常精神状態の相手を部屋にいれるとは考えにくいし。相手の私的空間で脱法やら違法なんたらの薬を使って、キメた状態でことにでも及ぼうとしたのではないだろうか。検視の結果をまち、薬物の正体がわかれば、この辺ははっきりするだろう。


そして、薬物でハイになっていたか、放心していた犯人が我に返り、とりあえず死体をトイレに隠して現状をどうすればいいか検討中に、間が悪く、アイツが帰宅した。しかし運よくトイレでやり過ごした。前に部屋に来た事はあるわけで、自分の指紋や髪の毛があっても問題なく、死体のケータイやら荷物から自分に繋がりさえしなければいいと荷物ごと持ち去る。そして施錠??……して出て行った。


「あの副部長、最後の謎だと思うんですけど、なんで犯人はわざわざ密室にしてでていったんですかね?」

「えー、あれじゃない?合鍵で施錠していったようにみせるために、鍵をかえた後に、鍵を盗む機会があった人物が犯人だと思わせたかったとか。あとは…、こっちの方がそれっぽいかも。今回の死体置き去りに関しては、自分と繋がるものは一切ないとすぐわかったものの、鍵を替えられていたってことを思い出す。そして、自分の下見や鍵を盗んだ事に気づかれたのかもしれないと思った。当然、こんな変な事件と直前におきた変な出来事を結び付けて考えるだろうし、鍵と死体の件で同一犯人が関わってると気づかれれば、私達がしたように鍵を盗めたのは誰か?と自分まで辿り着いてしまうと思ったんじゃない?」


「たしかに、それっぽいな。鍵を外からでもかけられるとか。鍵をかえても簡単に侵入することができる奴がいるんじゃないかという印象を与えて、合鍵によるものじゃなくて、ピッキングやそっちに犯人像を誘導したかったんだろうな。」


「たしかに、下見の時は鍵をあけて、さらに施錠して出たのに、新しい鍵だと鍵をかけていくことができなかったとなれば、前回は合鍵で侵入したんだなとばれてしまいますからね。まぁ、開けておいて外部犯のせいだと強気でいくこともできたんでしょうけど、捕まりたくない気持ちやよこしまな気持ちから、合鍵説を必死に隠すほうを選んでしまったわけですね。」


謎は解けたような気になったが、真実かどうかは正直わからない。しかし、ミス研メンバーの中では、そう…題するなら、死体とともに過ごす朝事件は、これで決着を迎えた。まぁ、アイツにとっては、警察を呼び色々と説明したりと長い一日になることだろうが、それは任せよう。もしかしたら警察の取調べ後にわかった事実も踏まえて、今夜にでも犯人と直接対決のドラマがあるのかもしれないが、貧弱な自分ではなく、部長か過保護な両親がかりだされることだろうし。それはそれだ。


時刻はまだ9時前、適度にぬるくなったコーヒーの一口が、心地良く喉を通っていった。

 


(日常の謎や純粋論理風の)シンプルな出題内容からわいわい話して推論を広げて意外なところへ着地する。そんなミステリが好きで何作か作ってきましたが、殺人要素もそこにいれられないかと悩んだ結果、本作ができました。置いていかれた見知らぬ死体の意味とは??と。個人的には、密室にする理由もなかなか珍しい動機で面白いかもと思うのですがどうでしょう。

9マイルは遠すぎる、(麦酒の家の冒険)、こころあたりのあるものは、(少し違いますが毒入りチョコレート事件。)何か本作に好みや相性を感じ方は、上の2作を読めば、幸せになれるかもしれません。


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