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迷い込んでいく議論

こういう状況でも、いつもと同じように明るいテンションで、部長は携帯電話に話しかける。片電話で向こうの反応はわからないものの、死体、綺麗な姉ちゃん、自殺、ピッキング、合鍵等、物騒な単語を躊躇いなく駆使して、話し合った内容を要約して伝えているようだった。


邪魔をしちゃいけないと、縮こまって視線をさまよわせていると、副部長の気恥ずかしそうな嬉しそうな、はにかんだ顔が眼にとまった。部長の…、というか三人の説として部長の口から伝えられる説明のほとんどが、先程の副部長の話をそのままなぞったものだからだろう。副部長としては、こそばゆいところなのかもしれない。一方、自分は大したことをできていないのに、協力メンバーの一人のように扱われてやしないかと、さらに身体を竦めるのだった。


一通り説明を終えると、部長は携帯電話の設定をスピーカーに切り替え、音量を調整しつつ、向こうの声がこちらにも届くよう準備してテーブルの中央に設置した。皆で意見交換できるように配慮したようだ。自分らも簡単な挨拶をすませると、早速話は、本題の自殺説の検証にうつったのだった。


「というわけで、自殺をほのめかすような手紙とか被害者が残したものない?」

副部長が主導して、聞く。

『一切手荷物はないですし。部屋もこれといって荒らされたり置かれたようなものはないですよ。ただ…衣服のポケットまでは、みてないので…。』

時間のおかげが、当初電話してきたよりも受け答えが随分しっかりしていて、落ち着いたように思えた。あるいは、状況を説明できそうな自殺説が、彼女の原動力となって心配事や不安をかき消しているのかもしれない。


「…。」

部長でさえも、流石に気がひけたのだろう。死体が遺書を持っていないか調べてみてくれないかと言葉にすることはできず、こちらは、沈黙を貫き、無言のお願いをするほかなかった。


しかし、数秒と待たずに携帯を持ち上げるようなコツッという音が聞こえると、

『ポケットにはなにもないみたいですよ。それに、服の下も下着だけで…。荷物は一切なしのてぶらで間違いないです。』と、彼女の声が聞こえてきた。


いやまぁ、外傷もないし寝てるだけみたいなもんだとか、既にスカートをめくったりとか無茶もしているわけだが、その行動力に驚かされた。それほどまでに、この状況を納得したい強い気持ちを抱いているのだろう。


待てよ、外傷がないのは、どういうことだろう。

「そういえば、自殺ってことですけど、どうやって死んだんです?外傷はないみたいだし、死因は病死や毒物によるものですかね?」


「病死はないだろう。手荷物どころかサイフやケータイすら持たないでうろつく奴はいないだろうし、偶然死んだにしちゃ、荷物がないことの説明がつかない。」

「泥棒やよこしまな目的で侵入したから、身元を隠すために最初からもってこなかったのも、なんだか変ですしね。」

捕まえられることを想定して、付近に隠しておいたとしても、捕まって、警察に引き渡されてしまえば、いずれは身元なぞばれてしまうわけで、そんなものを隠すより、むしろ顔を見られないように、変装や覆面の準備をするほうが、よっぽど理にかなっている。


「だな。部屋は荒らされてないみたいだし、盗んだ鍵やピッキング道具ももってない。それに車や自転車の鍵、帰りの電車賃すらないんだぜ?徒歩で来たってのもないわけじゃないが・・・、片道でいい自殺ならまだしも、病死は、ムリがあるだろう。」

部長の言う通り、違う観点からも病死という可能性はかなり低いと思う。


「死因は重要?部屋の鍵は閉め忘れていた。そして、手ぶらで自殺する為に毒だけ準備して、部屋に来て施錠、帰って来た後に、服毒自殺をしてその苦しみのあまり、隠れていたトイレから這い出るように横になったってことじゃないの?それと良く思い出して欲しいんだけど、本当に死体に見覚えない?」

『副部長、やっぱり何度見ても、絶対に見覚えのない顔で、こんな変な自殺をされるほど恨みを買ったとは思えないんですけど…。』

善意の助っ人にむかって、ストレートな反論もできないのかなんとも歯切れの悪い台詞だったが、自殺説を否定するその意図は、十二分につたわってきた。


『それに、実はちょっと訳あって、2日前に家の鍵を取り替えたばかりなんです。普段はずっと鍵は肌身離さず鞄に入れて持ち歩いていますし、だから、この人が鍵を盗めたとは思えないんです…。そうなると、私が鍵をかけ忘れるまで何日もドアノブを回して調べて続けるつもりだったってことで、ちょっと変な気が…。』


自殺される理由がないという点、鍵を偶然閉め忘れたという点。これらは自殺説に暗雲を立ち込ませた。特に鍵の問題は厄介だろう。自分も1、2年に一回ぐらいは、急いでいたせいで、施錠したつもりになって外出してしまったことはある。それは別にいいのだが、そこに計画的な自殺という要素が絡むと、異様でしかない。


実際は毒物の用意や荷物を持たない等の計画性があったわけで…、鍵が開いていたからおきた衝動的な自殺という副部長の説明は、これで却下されてしまう。そうすると自殺を思いつめたまま鍵が開いているか毎日確認しつつ、何日も待ちわびてようやく決行したことになってしまう。


「やっぱり、犯人はいたんでしょうか。」

「かもしれん。しかし…、犯人がいたと考えると説明がつかない。人の家になんで死体を置いていくんだ?」

部長は腕を組み、なんとも複雑な表情で重々しく応えた。その自らに問いかけるような声に、誰も返事はできなかった。副部長はまたノートになにか黙々と書き連ね、携帯電話からはなんの音も聞こえてこない。


疲れきった身体を横にしたら、そのまま立ち上がる気力をなくしてしまうように、ずぶずぶと体の奥から迫ってくるなにかを振り払うように、とにかく何か喋らなければいけないような気がした。

「も…、もしかしたら、単純に死体を置くことがすべての目的や計画だったとかどうでしょう?復讐や怨恨とか。」


部長は、こちらを向く。

「それはないだろ。次はお前の番だとばかりに、親しい人や仲間の死体を見せ付けて脅かす。迷惑な隣人を追い出したい。いくつかは思いつくが、どれも死体を用意してまですることか?死体とか殺人って一番のタブーで超リスキーなわけだし。」


副部長も手を止め、ノートから顔をあげた。

「私も目的を果たす手段としては一番下の下だと思う。なにかの目的を果たす為なら、他にもっと楽で罪にも問われないやり口はいくらでもあるでしょ。だから、大金目的じゃないと、殺人や死体を手段にする場合は普通ないと思うよ。」


二人の指摘に、弁解も反論もできない。まったくその通りだ。他にはなにか、なにか話すことはないだろうか…。


「無理しなくても大丈夫。私達は諦めないよ。だって考えるのが好きなんだから。」

副部長はそう言って、微笑んだ。そんなに気負いが態度にあらわれていたのだろうか…。ちょっとした失敗を目撃されていたような恥ずかしさに余計焦ってしまうが、そんな格好悪い部分も受け止めてくれるような、柔らかく自然な笑顔だった。






次回から解決編になります。他人の部屋が現場に関わる理由、見知らぬ死体が置かれた理由、施錠された理由。ご存知の通り、固有名詞はないので犯人一名を指名できないですが、2,3名に特定可能な条件まで導けるようにはなっていますので、よければ犯人はどういう人物かもあわせてどうぞ。

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