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第2の説

「自殺ですか…?」

「うん。まずは事件を整理してみたんだけどね。」

副部長はテーブルの上に広げられていてた汚く書き散らかされたノートのページをめくり、真っ白な次のページを開くと、丁寧になにかを書き始めた。



犯人が侵入し、出て行ったのはいつなのか?

1、帰宅前、帰宅前

2、帰宅前、帰宅後

3、帰宅後、帰宅後

4、どちらか、現在も中にいる。



向かいの席に座る自分らがみやすいよう反対向きに提示されたノートには、そんなことが書いてあった。先程とはうってかわってまともな字にほっとする。


字に気をとられてすぐにピンとはこなかったが、「なるほど…」と思わず息を呑んだ。こんなおかしな状況が自然にできあがるはずもなく、犯人という誰かの意志が介在しているのは間違いないわけで、副部長の意図するところとは違うのかもしれないが、こういう風に、人物がとった行動を1つ1つ明確にしていけば、前にすすめるかもしれないと、手ごたえのようなものを感じたのだ。


「犯人がとったと思われる行動はこの4つに分類できる。順に説明すると、帰宅前に、閉め忘れて鍵が開いていたか、ピッキング・盗んだ鍵等で部屋に侵入、死体を置いて退出、外から何らかの方法で施錠した。」

1とかかれた項目を、ボールペンの先でノックする。


「ちょっと待て。さっき帰宅する前に死体があったら、すぐに気づくってお前がいったばかりじゃないか。」

先程の副部長の反論を、今度は部長がそっくりそのまま返す。口調こそ険しいが、二人にとってはこの手の言い合いは平常運転なのだろう。副部長は平然と返答する。


「一応、可能性の話。私もないなとは思うけど、彼女が寝ている間に、トリックで死体を動かしたか、死体が完全に死んではいなくて、動いた可能性はある。そんなことする意味がないし、そんなトリック聞いた事ねーよって感じだけどね。他にも、死体を置いていく理由も、鍵をかけてでていく理由もよくわからない。」


部長がまだ何か喋りだそうとするのを制するように、次の2の項目について副部長は喋りだした。

「2は、帰宅前に侵入したのは1と一緒。ただし、彼女の就寝後に部屋を脱出。鍵をかけてでていったパターンね。トイレか浴室にでも死体と一緒に隠れていて、彼女が眠るまでやり過ごした後に脱出、施錠していった。」


「でもこのパターンも、死体をおいていく理由と鍵をかけてでていく理由を説明できないですよね?」

話を聞く一方では居心地が悪いので、躊躇いながらも二人の会話に参加する。

「1と違って、人が来たから慌ててしまい、物音でおきてこられるとまずいと犯人が思って、とにかく逃げることに専念したから、死体は置いていかざるをえなかったのかもしれない。鍵の方は…、そうだね。」


慌てて逃げようとしたのなら、鍵をかける時間すら惜しんで、施錠せずにそのまま逃げていきそうなものだと思ったが、副部長は自殺説を唱えている以上、副部長的にもこの案には賛同していないわけだし、追及は自粛した。ただ、副部長はあまり気にしていないようだが、なんで他人の部屋を現場として犯人は利用しようとしたのか…、そこにひっかかりを覚えた。


「3番目は、就寝後に施錠されている鍵をピッキングか合鍵を用いて侵入、死体を置いて施錠して退出したパターン。そして、4番目は、まだ室内に犯人が潜んでいる、つまり死体さん自身が犯人…、いわゆる自殺ってところ。」

「ちょっとわかったようで、よくわからないんだが、結局どうして自殺を推すんだ?」

しばらく話を聞き入っていた部長は、肩を竦めた。


「結局、どのタイミングで犯人が侵入しようとも、犯人が必ず施錠していったことになる。つまり、この状況を解く鍵は、施錠の目的と死体を置いていった目的にあると思うの。」

副部長は手元のホット用のカップを一口啜った。一息ついただけなのか、気合でも入れようとしているのか。話の先を待つ中途半端な静寂がしばし訪れる。


「見ず知らずの部屋に、他人の死体をわざわざ置いていく理由が思いつかないし、まして、家主がおきるか帰ってくればすぐに事件が露見するのはわかりきってるのに、施錠する意味もない。そう気づいた時、これは逆なんじゃないかって。」

「逆?」

「鍵はかけたくてかけたわけじゃない。死体は置いていきたくて置いていったわけじゃないってこと。つまり、鍵をかけたのは、ただロックを内側からまわしただけ。内側から鍵をかけるのは楽だし深い意味はなくて。そして、死体を置いていったのは、そもそも室内で自分が動けなくなったから。と、そんな風に両方をなんとかギリギリ説明できるから、自殺だと思ったわけ。」


聞いたばかりの第一印象としては、副部長の説は、部長の説よりもなんだか説得力があるように思えた。しかしふに落ちないというか、シンプルなその疑問は、考えるより先に喉から溢れていた。

「赤の他人の部屋で、なぜ自殺を?」

「俺もそう思った。それに部屋に侵入するには、ピッキング、合鍵?、結構な準備が必要だろうし、あるいは、鍵をかけ忘れる日を気長に待ってたってことになるよな。」

二人の視線が副部長へと向かう。


「多分その前提が間違い。見ず知らずの他人、そう思ってるのは本人だけなのかもね。いじめた側は忘れてるけど、いじめられた側は一生覚えてるなんて話良く聞くじゃない?小中高、昔の因縁だったり、あとは本当に、恋人を寝取った女とかそういう妄想や妄念にかられて、勘違いの恨みの末にの事件なのかもね。えっと…、鍵は…、鍵が開いてたから部屋に入れて、自殺という衝動に流されてしまったで一応説明つくでしょ。そもそも鍵が掛かっていたら、こんなことにはならなかった。」


強引で都合の良い部分もあるもの、一応、筋は通っている。明確になってきた問題点…どうして他人の部屋が事件の現場になったのか。死体を置いていった理由。施錠した理由。奇妙な点は一通り説明はできているようだけれど、しかし、自殺説への反論が思い浮かばないというだけで、完全に納得とはいかず、心情的にはどこかスッキリしきれない。


「嘘をついてるってことはないだろうけど、アイツに連絡して面識の有無を念入りに確認してもらわないか。身につけてるかもしれない遺書を探して欲しいしな。」

言い終わる前に、部長は既にポケットから取り出していた携帯の画面を操作していた。その部長の顔からは、自分と同じように釈然としないものを感じているのかどうかは判断できなかった。









2,3の情報追加といっておきながら、区切りの都合で次回になります。話の流れの通り、自殺を否定する情報とだけ。予定通りの6話で終わりそうです。

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