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現場状況の確認と、第一の説

ファミレスのドアをくぐり、目当ての席に駆け寄ると、部長が立ち上がって迎えてくれた。

「おっす、大丈夫だったか?」

「大丈夫も何も、現在進行形で大変なままっすよ。」

「それもそうか。」


180cm以上ある大柄で筋骨粒々な体格、そしてハキハキと明るい受け答えから、文化系というより体育会系、それも格闘技方面でならした人にしかみえない2年生部長なのだが、いつかの飲み会で、中学時代からずっと文化部だったと聞いた覚えがある。未だに信じられないが。


「早速本題に入って悪いけど、色々聞かせて。」

向かいの席に腰掛けていた、2年生副部長が切り出す。こちらはうってかわって、高校生とも遠目には中学生にも間違われそうな小柄な体格である。顔の造形も、幼さの残る造形のままで…怒られそうで一度も口にしてはいないが、THE童顔、部長と並ぶと兄と妹にしか見えない。


「すいません。何にも注文しないのもあれなんで、ちょっと先に…。」

部長の隣に腰掛ける。話を聴きたくてしょうがなさそうな副部長の眼差しを、メニュー越しにも感じながら、朝ごはん用に、ご飯物をそそくさと適当に注文した。朝までドリンクバーだけで平気に粘れるお二人と違って、いたって小市民な俺である。


「電話でも軽く話しましたけど、最初から説明しますね。」

「おっけい。」

「うん。」

まだ時刻は午前7時前。朝のかきいれ時とは無縁な学生街のファミレス店員の緩慢な動きを横目に、十分遠ざかったのを確認して、電話で聞いていた現場の状況を一通り、改めて説明したのだった。



昨晩の飲み会終了後、10時過ぎ頃に一人暮らしの自室、101号室へと店から徒歩で帰宅。鍵を開けて部屋に入った時に死体はなかったそうだ。玄関の施錠をし、酔いと睡魔に襲われながら、上着を脱いで下着姿でベッドへもぐりこみ、そのまますぐに就寝。

朝6時起床後、玄関脇のトイレのドアが開いていて、トイレの部屋からはいでるように誰かが横になっている事に気づく。見知らぬ他人で、ハンドバックや財布などの荷物は見当たらなかった為、身元を示す免許証や保険証なども当然見当たらず、名前も不明。お洒落に着飾っている衣服や外見から20代前半に見え、外傷や衣服の乱れは特にないらしい。誰か来たらマズイ?と焦り、施錠しようと思ったところ、外へと繋がる玄関と窓は鍵が既に掛かっていて、密室だと気づく……。



「大体こんな感じの、状況みたいです。」

しばらく一方的な報告を終えたところで、二人の顔色をまじまじとうかがう。ミステリ小説の感想文の発表といったサークル活動の折々で、知見や洞察力、経験の差を痛感させられているので、二人の眼には、この奇妙な出来事がどう映ったのか、とても気になるところだった。


向かいの副部長は、メモをとっていた手を止め、ノートのあちこちに速記のような殴り書きを書き連ねていく。今のところ何か言い出す気配はない。一方、隣の部長の方へ顔を向けると、得意気な顔の部長と目線がぶつかった。おもむろに口が開かれる。


「犯人が、なんらかの理由で死体を部屋に置いて行った…だな。」

「え?この状況を説明できるんですか!?」

「おう。細かいところは置いておくとして、多分犯人は、同じアパートに住む住人だろう。」

部長は豪快な笑顔とともに、胸を張り、大きな体がさらに一回り大きく見えた。


「え、犯人もですか?!」

これだけの話で、部長は一体何を見つけだしたというのだろう。自分はどこから考え始めればいいのかもわかっていなかっただけに、犯人という具体的フレーズが、脳内にこだまするように響いた。


「家の近所で、犯人は被害者を死亡させてしまう。偶発的なのか殺意があったのかわからんけどな。で、死体を一旦自室に持ちかえろうとしたまではよかったが、途中でトラブルが起きたってとこか。」

まるで現場をみていたかのように、すらすらと流れるように自説を展開させるので、驚きのあまりつい部長の顔を凝視してしまった。それを伝わっていないと誤解したのか、部長は頭をかき、言い直した。


「経験あるだろ?例えばエロ本とかさ。人に見せられないものを持って帰ろうとしたけれど、途中で誰かに見つかりそうになったから、その辺に隠して、後でまた取りに戻ってくる事にしたってこと。アイツの部屋の鍵が開いてた偶然と、犯人が死体を隠そうとしたタイミングが運悪く重なって、死体が部屋におしつけられたわけだ。犯人の通り道、帰り道に隠すわけだから、隠した場所がアパートの一室なら、犯人はアパートの住人だろ。」


「でも、それは変じゃない?」

見た目は童顔だが、振る舞いや物言いは20歳の立派な成人女性。副部長はエロ本という単語にも何の反応も示さず、きわめて冷静だった。


「なんで今鍵がかかって密室になってるわけ?後で取りにくるつもりなら、鍵なんてかける必要ないじゃない。」

「だから、鍵はアイツがかけたんだよ。死体が置かれた直後に入れ違いでアイツが帰宅して、施錠。で、犯人は取りに戻ってきたくても戻れなくなってしまった。」

「そ、それってマズくないですか??」

死体を必死に取り返そうと、そしてそのまま部屋の主まで手にかけ、すべてを闇に葬ろうとする犯人が、警察官の格好でもして101号室の扉の前にたち、いまにもインターホンに指をかけ部屋に入ろうとする場面がホラー映画のようにおどろおどろしいBGMと共に脳裏に浮かびあがった。


「でも、玄関そばに死体があれば帰宅直後に気づくでしょ?」

「あぁそうか。」

「なら、アイツが寝た後に死体が置いていかれたんだよ。これなら問題ないだろ?アイツが泥酔していたせいで鍵をかけ忘れた。」

「じゃあ、誰が鍵をかけたわけ?」

「それは、寝ぼけて起き出したアイツが…、死体に気づかず鍵をかけて、そのまま布団にまたもど……。」

言葉にしながら、流石に無理があることを自覚したのだろう。次第に尻すぼみとなっていった。


「鍵…鍵かぁ」

どこか諦めきれない様子で、つぶやく部長は放っておくことにして、問題点を的確に指摘した副部長の考えを聞いてみたくなり、話を振ってみる。


「副部長は、こんな風になったのはどういう理由だと思います?」

「私は、自殺かな。今の鍵の話で思いついただけだけどね。」









次話で2,3情報は追加されますが、消去法のための情報なので、ここまでの情報でも十分に、犯人となぜこのような状況になったか推論可能です。あと、どうでもいい裏設定ですが、1・2年キャンパスと3・4年キャンパスが分かれているために、2年部長(1~2年キャンパスの代表)という役職です。部員数が少なくて2年生で部長なわけではありません。

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