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満月の夜 2  作者: 桐生初
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犯人判明?

現場は目黒にある駐車場の軽自動車だった。

車の持ち主は、被害者である、遠山両子32才の物だった。

この車は、次男を死なせた車で、近所の住人や、両子の実母の話によると、両子は次男の弔いの為、また自らを戒める為に、裁判が終わって車が戻ってきても、処分する事はせず、駐車場代金がかかるのも惜しまず、とっておき、毎日手を合わせに来ていたという。

あれほど夢中になっていたパチンコも一切断ち、カウンセリングにも通い、次男を弔いつつ、長男を育てる事に一生懸命だったそうだ。

事件を機に、夫には離婚され、死亡させた次男の兄である9歳の長男と、この近くのアパートで2人暮らしをしており、両子が工場に勤めている時間は、長男は実母が預かっていた。

両子が勤めから帰って来ないので、携帯で連絡を取ってみたが、出ない。

ニュースで、ハンムラビ事件は連日報道されているし、警察からも気をつけるようにというお達しが来ている。

実母は不安になり、警察に連絡したのが、3日前の1月22日の夜。

つまり、5人の被害者が土だらけの生き埋めにされて死亡しているのが発見された日の夜の事である。

警察が付近を捜索した結果、川崎の工場から駅までの間の人通りの無い道路脇の草むらに、遠山両子の自転車と携帯の入ったバックが発見されている。

遠山両子は、長男との生活の為、朝の8時から夜8時までと、ギリギリまで働いていたそうで、夜の8時というと、人気は殆どなくなる通りだそうで、これも、犯人側がリサーチしていたのが窺える。

そして、今朝6時に、この駐車場の前を通った犬の散歩中の男性が、全裸の状態で運転席で遠山両子が座っているのを見て、3日前から行方不明だと警察が調べて回っていたのを思い出し、通報した。


いち早く来て、検死を始めていた柊木に太宰が声を掛けた。


「どう?柊木。」


「まあ、あんま面白くはねえな。」


「だっかっら!面白い、面白くないとか言うんじゃないの!」


「へいへい。聞いてるとは思うが、死因は体温上昇に伴う、著しい脱水状態だな。

まだ体温が38度もあんだから、相当じゃねえか。

血が煮え(たぎ)っちまう様な感じだったろう。」


「ーどうやったんだろうな…。このクソ寒い中…。」


「それ調べんのはお前らだが、死斑じゃねえ痣があるんだ。これ、生前の物。」


柊木は指差しながら、痣を見せる。


「背中、ケツ、肘、膝。長時間どっかに当たってた感じのもんだと思う。」


甘粕が直ぐに聞く。


「狭い箱の様な物の中に押し込まれていたとかですかね?」


「かもな。そんな感じよ。」


遠山両子は、比較的小柄だ。

大きめの物置にする様なケースに、折り畳む様に入れれば、入るかもしれない。


「それと、背中には火傷の痕。拷問の根性焼きじゃなくて、低温火傷的なヤツな。」


「箱の中に大量にカイロとか入れて置いたとか?」


続けて尋ねる甘粕に頷く。


「かもなあ。このケツのなんて、四角いもんな。そうかもしれねえ。」


面白くないと言いながら、矢張り楽しげな柊木の背中を見ながら、太宰が諦め口調で聞いた。


「詳しい事は…。」


「後でな!」


矢張り、声は嬉しそうである。

太宰が大きなため息をついて、 3人を振り返った。


「んじゃ、ちょっと現場見よう。」


現場である駐車場には、監視カメラの類いは無く、民家に囲まれている。

早速、所轄刑事達が付近住民に聞き込みに行ってくれた様で、4人の所に報告に来てくれた。


「この辺、夜中は結構静まり返ってるそうですが、結構国道が近いせいか、防音ガラスにしてる家ばっかで、車のドアの開け閉め程度だと、全然聞こえないらしいんすよ。

そこの婆さんちは防音じゃないんですけど、耳がエライ遠いし、夜中起きないそうで…。

収穫無しっす。すみません。」


「いやいや、有難う。」


幸田も来た。

夏目を見て、一瞬身を強張らせる。

どうも、さっきの威嚇で、すっかり夏目アレルギーになってしまったらしい。


「ガ、ガイシャのよ…。」


「どったの、幸田。夏目はとって食わねえよ?多分だけど。」


太宰が面白がって言うと、幸田は顔色を変えた。


「多分だろ!?」


幸田は咳払いをし、気を取り直して、仕事の話に戻す。


「ガイシャによ、毛布の繊維が着いてたんだ。

黒い毛布。

コレ、山本七実と井上久美の口ん中から出てるのと、同じもんだと思う。

量産品の安物で、関東近県の量販店で安く大量に売られてた品だから、購入者の特定は厳しいが、監禁現場は同じと考えていいんじゃねえの?」


「だな。ありがと。」


「いやいや。ああ、土の、ぶ、分析はだな!」


夏目を見ながら叫ぶ様に付け足す幸田の声は、幾分か震えている。


「戻った頃には出てるぜ!」


そして幸田は言い終わるかどうかという段階で去って行ってしまった。


「余程恐ろしかったんだな、可哀想に…。

そいじゃ、俺、所轄に挨拶してから帰るから、甘粕達は先戻って、芥川の調べとか手伝って。

あと、プリンターの件あったろ?」


プリンターの修理をしていないと出る不具合が、犯行声明文に出ており、そのプリンターの修理をしていない人間のリストを幸田が取り寄せてくれ、群馬県警が調べていたはずで、何か分かったら知らせてくれるという話だった。


「群馬県警には、正式に合同捜査の通達が行ってるから、千田さんも大手振って協力出来るって言ってたから、プロファイリングも伝えてあるし、ある程度絞ってくれてると思うから、聞いてみてくれ。」





夏目の運転で先に戻りながら、霞が甘粕に言った。


「基本的に、所轄の刑事さんは、警視庁の刑事さんの言う通りにしなきゃっていう上下関係はあるんでしょうに、本当、心遣いの方ですね、課長は。」


「そうだな。でも、それだけで全然違う。協力的なのは勿論、一生懸命ネタ集めもしてくれるしさ。」


「なるほど。やっぱり課長は偉大な人ね。」


甘粕は、あの飽きっぽさと子供っぽさを思い出し、苦笑い。

それでも、甘粕の太宰のそういう姿勢は尊敬している。




本庁に戻ると、様々な結果が出ていた。


先ず、土の分析。

川野賢治に付着していた土は、神奈川県横浜市多摩区の土。

山本七実の土は、茨城県我孫子市。

黒崎信の土は、千葉県松戸市。

井上久美と藤田勝の物は、埼玉県行田市だった。


また、プリンターの修理をしていない顧客リストで、プロファイリングに合う地域に住み、営業職などの仕事をしているという人物は300人強。

その内、土の場所に住んでいるのは、100人近い。


その中で、ネット上で過激な事を言っている人物がヒットするかどうかだが、霞は埼玉県行田市在住の顧客に注目した。

そして、その人物を科捜研の原田に調べて貰うとニヤリと笑った。


「ビンゴみたいです。甘粕さん。」


「ーえ…。」


さすがの甘粕も目が点になっている。

丁度太宰も戻って来たので、霞が説明を始めた。





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