表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月の夜 2  作者: 桐生初
6/30

霞のプロファイリング

「井上久美の体内からは、何も検出されていないんですよね?」


霞がプロファイリング前に確認すると、柊木と話して来た夏目が答えた。


「はい。レイプの痕跡は、生前死後共にありましたが、ホシの体液その他は一切採取されませんでした。」


「ーなるほど…。急にDNAを残さなくなったのは何なのかしら…。」


職業を見てた太宰が言いづらそうに言った。


「病気、気にしたんじゃねえかな。井上久美は風俗嬢だ。」


「課長、そんなに言いづらそうに言わなくて大丈夫ですよ。

私が女である事は忘れて下さい。

なるほど。そういう事ですね。

DNAはヒット無し。つまり前が無い。

犯人は捕まらないという自信が過剰にあるのは、私達に送りつけて来た犯行声明文でも明らかです。

DNAを隠す目的でなく、そっちの心配でというだけなら、頷けます。」


「あと大丈夫なら、霞ちゃん、お願い。」


太宰に促されると、霞は深呼吸をしてから、プロファイリング述べ始めた。


「犯人は皆さんもお察しでしょうが、最低でも男性4人のグループです。

目的を持って、計画的、且つ、組織的に犯行を行い、考え方は一緒です。

甘粕さんが仰った様に、犯人達は過去に重大犯罪を犯しながらも、少年法に守られ、保釈された人間への制裁という形で、世論を味方につけつつ、好きな事を行っている快楽殺人犯集団に過ぎません。

制裁云々は、方便です。

つまり犯人達は、この様な残虐の限りを尽くした犯行を楽しんで行えるという、同じ趣向の持ち主の集団です。

この特異な趣味の人間が、同じ職場や学校などで見つかるというのは、レアなケースとも思われるので、犯行グループの中で、以前からの個人的な知り合い同士がいたとしても一組と考えます。

後は、ネットなどで知り合った可能性があるかもしれません。

今の所、犯行は夜間から早朝にかけてですから、職業を持っていても可能と思われます。

被害者を拉致するにも、車は必須かと思われますので、年齢は18~30代。

犯罪捜査にもそれなりの知識があり、隠蔽を図っている事、又、犯行自体の計画性からも、少なくとも10代が居ても、犯行グループのリーダー的な存在では無いかと思われます。

次に犯行グループの従事している職業ですが、計画を立てた人物、また犯行声明文を出した人物は、恐らくはリーダー的存在でしょう。

彼は知能も高く、教養もありますが、相当な残虐性を持っています。

優等生ではありますが、自己の鬱屈した鬱憤を晴らす為、他者への暴力という手段に出、また女性、或いは男性という、自分の性の対象に対して、暴力的傾向があるか、またはそういった要求をして、ドン引かれたかの過去があるでしょう。

幼い時から、暴力的な問題起こしていたか、或いはこっそりと動物虐待や同級生へのいじめなどにも加担していたと思われます。

人付き合いも上手く、ソツが無い感じですが、一方で過激な発言や、家族に対しては暴力的、ないしは暴力的な言動で、仕事でのストレスを当たり散らしているでしょう。

他のメンバーに関しては、今の所、趣味をやらせてくれるリーダーに付き従い、楽しんでいる形かと思われます。

暴力、残虐性はやはり幼少期から見られたと思いますが、リーダーの様に、隠蔽は図らなかったかもしれません。普通程度の知能だと思われます。

職業ですが、徐々に過剰な行為に走っている事からも、全員、日頃からストレスの多い生活をしていると思われます。

リーダーはそんな感じですから、そこそこの社会的地位のある職業かとは思いますが、意に反してストレスを感じる職種ではないかと思います。

銀行員やデパートの外商部門など、接客でのストレスかもしれません。

夜から明け方に必ず時間が取れるという事は、仕事は定時に終わる状態でしょう。

又、被害者の行動のリサーチをしている事からも、勤務時間外は、融通が利く職種であると思われます。

他のメンバーも、当然リーダーのリサーチは手伝っているでしょうし、犯行にも加わっている事から、残業などは無く、勤務時間外は自由になる職業で、また夜勤などは無いと考えられます。

ちょっと大まかで、私も、どんな職業かというのは思い浮かばないのですが、中程度の職業で、ストレスの溜まりやすい職場としか言えなくてごめんなさい。

接客業でのストレスというのは、私のカンでもあります。

もしかしたら、普通の人ならなんとかやり過ごせる事でも、ストレスに感じているかもしれないので、そこは分かりません。

上司にも色々いると思いますし。」


一際激しく頷く芥川を見て、微笑みつつ、続ける。


「そして、夏目さんの大嫌いなホモが2人は確実に居そうですね。

ただ、純粋なホモかどうかは、まだ定かではありませんが、少なくとも、山本七実から採取出来たのは、常田和裕と藤田勝から採取されたDNAとは別人の2人の男性の物なので、まあ、男性が好きな男2人に、ノーマルの男2人と考えておくべきかもしれません。」


今度は、顔中に青筋を立てて怒っている夏目を見て、仰け反る。


「は、犯行ですが、先ず、常田和裕の方は、群馬県警の捜査の通りでしょう。

1人でアパートの部屋に居た常田宅に宅配便か、押し売りかを装い、訪れ、突然襲う。

男性4人なら、常田がいくら巨漢でも、拉致は出来たかと思われます。

薬の副作用で太っていただけで、常田和裕は力は無かったと、刑務官にも聞いておきました。

そして拉致した常田和裕をアジトへ運ぶ。

多少猿ぐつわなどをしていたにしろ、これだけの拷問を行える。

また死亡推定日時は全て、失踪から3日から4日後となっています。

つまり、その間ずっと拷問やレイプを行っていた訳ですから、監禁していてもバレない、1人暮らしの家、或いは家族が住んでいても、恐ろしいまでの放任主義かと。」


太宰が不思議そうに聞いた。


「拷問用アジトとかいうんでなく?」


「はい。私も、常田の時はそう思いました。

でも、今回の5人が生き埋めにされた土は、全く別々の土でしたよね?

アジトを5つ、或いは4つ用意するにはお金もかかりますし、足がつく可能性もある。

アジトがあれば、そこで生き埋めにしてしまえば良い訳で、そうしたら、同じ土の中で死亡するはずです。」


「ああ、そっか。なるほど。」


「また、仕事の合間を縫うにしろ、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県と、広範囲の被害者をリサーチして、拉致に及んでいる事からも、犯人は全員、関東近県に住んでいると思われます。

そして、其々の被害者に、比較的近い地域に住んでいるのではないかと思うのです。

土の分析である程度絞られるといいんですけど。

ただ、土に埋められたという事は、全員、一軒家、或いは、庭が無くても人目につかず、埋められる場所に連れて行ける、関東近県でも、片田舎という環境かもしれませんが。

というわけで、全員車は所有していると思われます。

ごめんなさい。あんまり詳しくではなくて…。」


太宰が感心した様子で笑顔を見せた。


「いやいや。捜査方針がこれで出たよ。

じゃあ、ネットやSNSで今回のホシの犯行に類似した妄想とか、願望とか語って、やろうかみたいな事言ってる連中を探すのが1つ。

これは、科捜研の原田と芥川でやってもらおうかな?」


芥川は、仕事を与えられ、ほっとした様に、笑顔でいい返事をした。


「夏目は幸田に土の分析せっついて来て。甘粕と霞ちゃんは、もう少しプロファイリングを詰めてみて。」


「あ…。」


甘粕が何か思いついた様子で太宰を見た。


「どした?」


「手足と尻尾切られた猫が発見された所に、ホシが居ませんか。」


「おう!そうだな!今、霞ちゃんが言った県に問い合わせてみろ!そういう死体が無かったかどうか!」


「はい。」


霞が我が事の様に、嬉しそうに手を叩いた。


「そうだわ!大事な手掛かり!流石甘粕さん!」


何故か真っ赤になる甘粕。


ー甘粕…。そんな事で赤くなるなんて、最近の小学生でも無えんじゃ…。


太宰は、甘粕のあまりの純情振りに、頭を抱えそうになったが、ふと不安になり、指示をすると、直ぐに飛んで行った夏目の様子を見に行った。


案の定、夏目は殆ど幸田を脅していた。


座った目をして、ドスの効いたダミ声で、長身をいい事に、座って作業している、背の低い幸田を威嚇する様に見下ろしている。


「幸田さん。早くして下さい。これでホシの住んでる場所が特定出来んですよ。」


流石の幸田も冷や汗をかいて、若干声が上ずっていた。


「わ、分かってるっつーんだよ、んな事あ!小僧、ちょっと黙っとけ!?」


「そうは仰られても、課長にせっついて来いって言われたんです。結果が出るまでここに居させて頂きます。」


そう言って仁王立ちし、幸田を射抜く様な目で見つめている。


「ーやりづれえってえ!」


幸田が可哀想になり、太宰は顔を覗かせた。


「夏目…。せっつけって言ったけど、脅せとは言ってないよ?」


「私にとっては同義語ですが。」


幸田と太宰は目を点にして、同じ事を思った。


ー同義語なんかい!


太宰はなんとか気を取り直して、夏目を遮るつもりで幸田の前に立ち、幸田の手元を覗きながら言った。


「やっぱ大変?」


「つーか、時間かかんだよ。細けえとこまで調べりゃ、何市位までは分かるかもしれねえからな。念には念を入れてえの。」


「成る程。ありがとさん。大体どれ位かかる?」


「そうだなあ…。あと1時間てトコかな。」


「ふんふん。分かった。待ってる。」


太宰が、まだ脅しの為、居座りそうな夏目を引っ張って帰ろうとした所で、甘粕が血相を変えて走って来るのが見えた。


「どした、甘粕。」


「課長…。また…。」


「また…。事件か!?」


「はい。この寒さの中、蒸し焼き状態の女性遺体が発見されました。

4年前の真夏、パチンコ屋の駐車場の車に子供を置き去りにして、死なせた母親です。

他にも子供が居たのと、本人も反省しているという事で、執行猶予がついて、保護観察も終わった矢先でした。」


「なんと…。5人殺してから、まだ2日しか経ってねえぞ?」


「そうです…。間隔がドンドン狭まって来ています。これはまずいです。もう、次のターゲットも捕まえちまってるかもしれません…。」


「場所は!?」


「目黒なんで行けます。」


「よし!行こう!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ