表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月の夜 2  作者: 桐生初
5/30

ハンムラビ事件2件目発生

龍介達が太宰に連れられて去ると、甘粕と霞は龍介の話にあった地下室へ向かった。


2人は言葉を失った。

人形かと思うほど、美しく飾り立てられた少年少女達は、龍介が言った通り、性的なポーズを取らされていたり、不気味で、倒錯しきった独特の世界を作りあげていた。


「これを作るのが目的なのか、これは楽しみの延長なのか…。」


甘粕が呟くと、霞が手術室を覗きながら唸った。


「どっちかな…。」


手術台に寝かされていた処理済みの少年は、あの鈴木代議士の息子だった。


「ごめんね、間に合わなくて…。」


霞が言い、2人で手を合わせた後、手術室の奥を見る。

単なる物置の様で、防腐処理用の薬品や綿などの、主に処理用の品が置いてある部屋だ。


地下には他には何も無いので、甘粕達は一階部分を見て回った。

男やもめの割に、異様に綺麗に片付いている。

埃一つ無い。


「いくらなんでもこれは神経質ってやつだな…。こんな広い屋敷なのに。」


「そうね。物置的な部屋も、お見事に片付いているわ。気持ち悪いくらい。それに甘粕さん、見て。この整理の仕方。」


この物置は、食料庫らしいが、見事に系統立てて、整理整頓されている。

ダンボールや袋に入っているであろう物も、全てプラスチックの全く同じケースに入れられ、ラベルが貼られている。

そのラベルも測った様に正確に同じ位置に貼られ、手書きで品物の名前が書いてある。

その文字も特殊だった。

物差しで書いた様な字なのだ。


「強迫神経症だな…。あの小間使い的な男の方か…。」


「多分ね…。」


一階には、その小間使いの男の部屋があったが、ここも同様だった。

プラスチックの引き出しタイプのケースには、被害者の物と思われる衣服が入っていたが、やはり物置同様、物差しで書いた文字でラベリングされている。

但し、それは名前ではない。

全て日付とナンバーだった。

全て女の子の物で、少女を餌食にしていたのは、この男の様だ。

剥製にしている事から見ても、被害者を物化している。

パソコンなどは無く、甘粕達は二階に移った。

二階は家具に白いシーツ掛けられた空き部屋が何個かある中、内二部屋は、龍介達が使ったと見られる部屋で、後は、書斎と、主ー成田泰一の大きな寝室があった。

主の部屋にも、プラスチックの引き出し式のケースがあった。

やはりこの被害者の衣服が入ったケースも、日付とナンバーだけで、名前は無い。

こちらは、少年の物だけだった。

ケースには、小間使いの文字でラベルが貼られている。

寝室には、小間使いの部屋同様、他に変わった点は無かった。

パソコンも無ければ、ポルノ系のいやらしい物も何も無い。

そして、矢張り、チリ1つ無い異様に綺麗で片付いた部屋。


「霞さん、あいつら、不能かな。」


「そんな気がするわ。剥製にして、幻想を形にして満足している様な気がしますね。」


「確保する時、当然、こっちは腕掴むだろ?うわああって感じで嫌がったんだよ、あいつら。汚い、触るな的な嫌がり方。」


「潔癖性が高じて、生きている人間との接触も不潔になっているんでしょうね。だから、性行為なんて絶対無理なんだわ。」


「ーあんなのにいい様にされた挙句じゃなくてまだ良かったが…。」


「そうね…。」




甘粕の言った通り、夏目を置いておくだけで、2人はベラベラと喋った。


剥製にして、自分達の幻想世界を形にし、性的な満足を得る為に、少年少女を攫っていた事。

甘粕達の読み通り、生前も死後も、少年少女には性的な接触は行って居ない事。

最初にこの計画を言い出したのは、小間使いの男ー日比野昌男の方で、主従関係はその点では逆転していたのも、霞の読み通りだった。


成田泰一の父親は、厳格且つ、暴力的で、常に麻酔科医と小間使いの男は殴られていた。

日比野昌男は成田泰一を庇い、更に殴られる事も多く、それを恩に感じ、日比野昌男の事は兄の様に慕っていたという。

また、今では見られたものでは無いが、日比野昌男は、少年期はそれなりに可愛かったらしく、成田泰一の父親に性的な虐待を受けていたらしい。

成田泰一もまた然りで、2人は教科書通り、幼い時に傷付いた、汚れた自分を綺麗にしようとする余り、異様な潔癖性となり、また、性的不能になった様だ。

それは、不幸な事ではあるが、だからと言って、20名近い少年少女の命を奪っていい事にはならない。


そんな訳で、夏目の様な物凄く男らしい、男っぽい男が、殺しそうな勢いで怒っているのは、父親を思い出して非常に恐ろしく、萎縮してしまったらしい。


犯行は、五課の思った通り、成田泰一が、週に一度の勤務の帰りに、渋谷のゲームセンターを物色し、自分や日比野の好みの少年少女を見つけると、様子を見て、声をかける。

美雨にしたのと同様に約束を取り決め、その1週間後、長野の自宅に誘い、携帯も新しく買ってあげるから、それは親から連絡が来ると、鬱陶しいだろうなどとそそのかし、捨てさせる。

連れて行って、直ぐには殺さず、少年少女を見ながら、どんな人形にするか、妄想を廻らせ、2人で相談して決まる頃、大体の子供達が帰りたいと言い出すか、携帯を買いに出たいとか言い出すので、それを見計らい、食事に睡眠薬を入れ、そのまま致死量の麻酔を点滴しながら処理を始めるのだそうだ。

処理から完成品を愛でる瞬間までが1番楽しく、病みつきだったという。


鬼よりも怖い夏目の威圧感のお陰で、聞いた事には全て答え、全面的に罪を認めたので、速攻で送検出来てしまった。




しかし、ほっと息を()く間も無く、2件目のハンムラビ事件が起きた。


被害者は、5人の若者。

12年ほど前に若いカップルを襲い、女性をレイプし、2人を激しい拷問の末、山中に生き埋めにするという、残虐の限りを尽くして殺害したが、やはり少年法で守られ、数年前に少年院から出て来ていた。

こちらの釈放はつい最近ではなかったせいか、霞と甘粕が保護対象のリストに入れていたにも関わらず、警察の保護も後回しにされ、間に合わなかった様だ。

都内では一件も無く、やはり、住んでいた地域で殺されている。

男が3人の、女が2人のグループだったが、其々、やはり拷問とレイプを繰り返された後、彼らが殺した被害者同様、生き埋めにして殺害している。

そしてまた犯行声明文をマスコミ宛てと五課宛てに出している。


流石に2件目であるし、また、被害者も6人に上っている事から、管轄の壁はほぼ消え失せた。

だが、どうも上手く纏まらない。

捜査に当たっている警察官も、あまりに酷い有様と、犯罪の特異性からか、バタバタしている様が見える様だった。


「これは、群馬で起きた事件と合わせて、整理した方がいいね。送ってくれた情報、ちゃんと整理しよう。」


太宰が正式に送られて来た調査報告書や検死報告書を、ドッサリとデスクの上に置きながら言うと、夏目が早速ホワイトボードを出し、霞と甘粕は情報の整理に取り掛かった。

夏目は太宰が言うまでも無く、新しい被害者達の検死報告書を柊木の下へ持って行き、太宰は甘粕達を手伝いながら、嬉しそうに呟いた。


「いいねえ、こういう少数精鋭ってのは。指示要らなくて。」


甘粕が笑って頷いた。


「俺が精鋭に入ってるかどうかは兎も角、楽で良いですね。一課みたいな大所帯と違って。」


「お前は精鋭ですよ。ほんと、一課は大所帯過ぎてなあ…。」


噂をすれば影なのか、一課の甘粕信奉者の芥川が顔を覗かせた。


「内さんが、お手伝い出来る事があったら、聞いて来いって言ってくれたんで、来ました。なんか無いっすか?」


「今無えよ。」


太宰があっさり返事をすると、芥川は見るからにがっかりした様子で肩を落とした。


太宰は気の毒になりながら、労わる様に言った。

一課の課長、本村の下は、芥川の様な下っ端は、特にキツイのだろう。

本村は目下の者に当たり散らす性質持っているからだ。


「ありがてえが、そっちは大変だろ。去年の多摩川土手一家惨殺事件、そろそろ1年経っちまう。刑事部長からなんとかしろって、矢の催促なんじゃねえのか。」


「そうなんすよ…。本村さん、凄えイライラしちゃって、やってらんねえっす。特に俺、気に入られてねえから、当たりがキツイんで、内さんがあっち行って来いって言ってくれたんすけど…。」


「そっか。内さんが助け船出してくれたんだな…。うーん、甘粕、なんか無い?」


書類に集中していた甘粕は、キョトンとした目で顔を上げて、太宰を見た後、芥川を見た。


「うーん…。今かあ…。じゃあ、お前、コレ、ボードに貼って行ってくれる?ガイシャの写真と、犯行現場の写真。ちゃんと時間軸でな。」


「はい!」


夏目が戻って来て、芥川が居る事に少し不思議そうな顔をした。

しかし、彼は、それで止まる事は無い。

直ぐに芥川を手伝い始め、ボードに事件の順番通りに写真を貼り付けて行った。


全部貼り付け終えると、甘粕と霞が手分けして書き込みを加え、凡そ1時間で一連のハンムラビ事件のボードが出来上がった。


第一の事件。

事件は、2012年1月8日朝7時。

群馬県内の中学校の門前に遺体が置かれているのを、出勤してきた教員が発見。

被害者は元少年A、常田和裕。26歳。

タバコの火を押し付ける、生きたままナイフなどで身体を斬りつけるなどの拷問の他、レイプを受け、心臓を鋭利な刃物で一突きして殺害した後、手足を切断し、猫の手足と尻尾を縫い付け、再びレイプ。ただし、被害者の体内に残された体液は2人分だった。

高崎市内の常田の自宅アパートに争った形跡があり、指紋や足跡などは採取出来ていないが、恐らくここで拉致されたものと見られている。

ボランティアの保護監察官が常田の行方が分からなくなったのを確認したのは、遺体発見の前日、1月7日。

アパートで争う様な声を、近所の住民が聞いた気がすると証言したのは、遺体発見の4日前の1月4日、午後11時。

又、切断後の手足は未だ見つかっていない。


第二の事件。

12年前に起こした、カップル殺害事件の犯人5人全員が一緒に、一昨日の午前9時に神奈川県横浜市港北区の産廃廃棄処理工場前に並べて置かれていた。

常田殺害から2週間後の1月22日の事である。

全員、口中から喉、食道にまで土が入っており、又、全裸の身体も土まみれであった事から、土の中で生き埋めにされたとみられる。

全員分の土は、現在分析中だが、見るからに色が違う土が付いている者もいるので、恐らく、別の場所で埋められたものと思われる。


主犯格の藤田勝29歳、山本七実29歳、川野賢治28歳、黒崎信一28歳、井上久美27歳が検死に寄る死亡推定時刻の順だ。

生き埋めにするまでの間、常田同様の拷問とレイプを男女関係無く受け、生き埋めにされている。

夏目がついでに柊木に聞いて来てくれたところ、常田よりも、更に深くナイフで抉ったり、傷付けたりしているので、生き埋めにされる頃は、かなりの出血量で、弱っていたのではないかという話だった。

拷問自体は、格段に激しさを増している。

各々に拘束の後があり、手足に鎖の痕やそれに伴う痣が出来ていた様だ。

5人共、職場やアルバイト先等からの帰宅途中に、なんらかの方法で連れ去られた様だ。

目撃者は無く、被害者の自転車や車は、近くの茂み等で隠されていたのが、後日見つかっている。

藤田と山本が住んでいたのは、遺体が発見された地域で、職場も同じ。

同棲もしており、事件前も後も深い関係らしい。

本来なら、事件関係者との関係を続けるのは好ましくないし、受刑者自身も関係を断ち切る場合が多いのだが、この2人に関してはそれは全く無く、他のメンバーとも積極的に連絡を取ろうとしている様子や、職場での態度等からも、又、少年院の警務官等に寄れば、この2人に反省の色は全く無かったらしい。

退院させるのも、反対する警務官が何人も居たという話だった。

2人共、職場を無断欠勤するのはよくある事だった様で、欠勤して3日目に、クビを言い渡そうとした上司が連絡が取れず、身元引受人に問い合わせ、漸く失踪が発覚し、警察ももしやという事で動いた所、件の5人全員が行方不明となっている事に気付いた時には、藤田と山本が失踪して、既に8日、川野と黒崎は4日、井上久美は3日が経過していた。

5人は、神奈川県、茨城県、埼玉県、千葉県と、かなりバラバラに住んでおり、管轄の壁の弊害が出た形になってしまった様だ。

藤田勝の乗っていた車は、職場から自宅アパートへの帰り道の茂みに隠されていた。ここが拉致現場とみられている。

山本七実と一緒に帰ったという目撃証言がある為、恐らく2人一緒に拉致されたものと思われる。

2人が勤務先の工場を出たのは、1月12日の夜12時だったそうだ。

夜間も稼働している工場なので、2人は大体午後から夜中までのローテーションで働く事が多かったらしい。

車が発見された場所は、人家は無く、林と夜間は誰も居ない自動車修理工場しか無い場所で、目撃情報は一切無い。

車の車内からは山本七実の財布や携帯電話などの貴重品が入ったバックや藤田勝の携帯電話などが見つかっている。

藤田勝からも、山本七実からも体内から2人分のDNAが見つかっており、生前、死後、両方とも繰り返しレイプされた形跡がある。

又、藤田勝から発見された男性のDNAは、常田和裕の体内から採取されたDNAと一致している。


川野賢治は比較的真面目に、建築会社で大工の見習いをしており、仕事をサボるという事も無かった為、無断欠勤したその日の1月16日の朝に失踪が発覚した。

埼玉県内の勤務先から自宅へ帰る道程で、矢張り川野賢治の軽自動車が見つかっており、藤田達同様、車内から携帯電話が発見され、車も隠され、その場所は矢張り人通りの無い寂しい道路だった。

川野賢治は勤務先を出た後、いつも必ず食事を摂る定食屋に同僚と行き、そこで別れたのが午後7時半位という証言から、その後、このいつもの帰り道で拉致されたものとみられる。


黒崎信一はコンビニのアルバイトのローテーションに来ない事で失踪が発覚したが、前の勤務時間から丸一日開いているので、失踪時間は定かでは無い。

ただ、ネットゲームの仲間とツイッターをしており、仕事が終わったとか、そういう事は逐一上げていた様なので、勤務終了直後からのツイッターが途切れているので、失踪はそのツイッターのあった1月16日午前1時以降と思われる。

黒崎は千葉県に住んでいたが、拉致現場と思われる自転車や携帯電話が発見された道は、矢張り寂しい人通り人家も無い場所だった。


川野賢治、黒崎信一から採取されたDNAも常田和裕、藤田勝両名から採取されたものと一致している。

遺体の状況は藤田勝と酷似しているが、藤田と山本よりも更に酷い拷問を受けていた様だ。

又、状況から見て、死亡は黒崎の方が後の様だが、拉致そのものは黒崎の方が先とみられた。


井上久美は埼玉県内の風俗で働いていたが、川野とは自宅も職場も離れている。

風俗勤務を終えた17日の午前3時に店を出て、自転車で寮に戻る途中の人家の無い暗い道で、「変な車が付いて来る。」と友人にLINEを送ったのが最後の情報だった。

この変な車というのが、犯行グループものだという可能性が高い。

井上久美の拷問とレイプ状況は1番酷いと言える。


全ての整理が終わり、太宰に促され、霞のプロファイリングが始まった。

















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ