龍介登場
太宰達は、美雨のずば抜けた観察力のおかげで、かなり精巧なモンタージュを作成すると、直ぐに甘粕達に送った。
甘粕達はそれのお陰で、かなりスムーズに『水曜日のジェントルマン』探しが行えている。
美雨は残ってくれ、そのまま更に、『水曜日のジェントルマン』に関する印象を伝えてくれた。
原田に、東京勤務で、古い屋敷を長野に持つ50代の男性を探して貰っている間、太宰と霞で話を聞く。
「あの男は、女の子好きでは無いと思うんです。」
「というと?」
霞が聞くと、思い返しながら答えた。
「いくら隠しても、いやらしい目とかすると思うんですよ。
攫って何をしているのかは分かりませんが、あの目は尋常じゃない事をしている。
十中八九、快楽殺人犯だと思います。
でも、彼の私に対する目は、そういう快楽の対象を見る目じゃなかった。
好意を持っていない。
親切な事ばかり言ってるけど、目は冷たかったし、端的に言えば、私に興味がある人の目ではありませんでした。」
美雨は子供っぽい感じとはいえ、かなり可愛らしい。
男から、興味津々の目で見られる事も、好意を寄せた目で見られる事も多々あるだろうから、どんな目だと自分に興味や好意があるか、よく分かっているはずだ。
それは正確な感想な気がした。
「なるほどね…。
確かに、ちょっと一緒にいる時間も短いわよね…。
行方不明の男の子の友達が聞いた話だと、1時間以上話を聞いてくれてたって事でしたよね?課長。」
「うん。て事は、水曜日のジェントルマンの方は、夏目が全力で毛嫌いするホモか。」
「という事になります。
でも、女の子も仲間の為なのか、あるいは別の目的か、必要なんでしょうね。
あと、なんかあった?」
「あとは、中年女性が大嫌いの様でした。
というか、怖いに近いのかな。
席の直ぐ側を通ろうものなら、身をよじって、触れない様にしていました。
又、私の目は見れるのに、男性店員や女性店員とは目を合わせる事も出来ず、注文の際はずっとそっぽ向いているという、異常な位の避け方でしたね。
あとは、潔癖性でした。
テーブルは座る前に拭いてたし、自分の手もマイウェットティッシュで拭いて、更に除菌スプレー。
両親両方から虐待、或いは、過剰に厳しく育てられた感じを受けました。
あ、そうだ。写真撮られたと思います。
ゲーセンでですけど。
クレーンゲームのガラスに映る様子を見ていたら、その後、送ったように見えました。」
「仲間に送ったのかね?この子でいいかみてえなさ。」
「でしょうね…。やはり犯人は2人組。
水曜日のジェントルマンが調達係…。
原田さんと甘粕さんに、もうちょっと詳しいプロファイリング言います!」
美雨がサッとiPadと薄いキーボードを取り出して言った。
「一斉配信しますのでどうぞ!」
「わあ、助かる!ありがとう!」
霞は早速プロファイリングを語り始めた。
「犯人は2人。
少年少女調達係が水曜日のジェントルマン。
長野の古い屋敷に仲間が待っている。
水曜日以外に東京には出てこず、そこで犯行をじっくりと行っている。
恐らくこの2人のみで暮らしており、状況から考えて、人里離れた一軒家。
周囲に人家は無く、あっても無人の状態。
何れにせよ、この家の敷地は周囲から孤立し、またかなり囲まれて見えなくなっていると思われます。
また、これだけの人数を殺しているにしろ、生かしているにしろ、広大な敷地面積と思われます。
水曜日のジェントルマン自体は、少年にしか興味がありません。
恐らく成人女性が怖い、付き合えないタイプではないでしょうか。
従って、職場でも、極端に女性との接触は避けているはず。
かといって、男性とも仲良くは出来ません。
過去の著しい虐待故に、成人との人間関係が築けないのです。
長野の屋敷に居る仲間との力関係は不明ですが、例え立場的に優位だとしても、従っている立場でしょう。
主従関係の下でないと、安心出来ないのです。
従って、職場でも、目立たず、暗く、人との接触を極力避けています。
出世も望みません。
講義の他に、勤務もしているという話でしたから、なんらかの医師である事は間違いなさそうですが、その性格でもどうにかこなせるというと、麻酔医かもしれません。
患者との接触は基本的に無い筈ですから。
レントゲン技師という線も考えられなくはありませんが、アレはそれなりには患者に接しますし、暗がりというのは、虐待を呼び起こす可能性が高いので、職業として選ぶとは思えないので外しました。」
霞はここまで、かなりの早口で一気に話したが、美雨のタイピングは、太宰が見惚れる程早く、ほぼ同時に終わった。
「美雨ちゃん、ここまでどうかしら?」
「流石だなあと思って伺ってました。」
「足りないところは無い?」
「無いと思いますっていうか、私に聞かないで下さいよお。素人なのに~。」
「いや、素人じゃないでしょ。じゃ、送信しちゃって下さい。」
「了解しました!」
霞のプロファイリングを読んだ甘粕と夏目は、そのまんまの男を三軒目の大学病院で見つける事が出来た。
真っ先に向かった麻酔科の教授が教えてくれた。
「ああ、成田君に近いな。
顔もこのモンタージュによく似てるし。
今、准教授なんだけど、教授になると、週に1度の出勤じゃダメになるし、お付き合いも色々出てくるからって、嫌がってくれたお陰で、僕が教授なれたんだけどさ。
変人だよ。
昔から友達なんか1人も居ないし。
なんか松本かどっかで開業してる医者の息子だったみたいだけど、大学の最中に親父さんが死んで、病院ごと売っぱらって、金には困って無かったみたいだけど、全然遊ばなかったね。
合コンにも来なかったし。」
「母親に関しては何か聞いてませんか?」
「今思うと、若年性認知症だったんだろうな。言動がおかしいからって、直ぐ病院入れちゃったみたいで、それっきりみたいだよ。」
「ご健在ですか。」
「知らない。」
「お住まいはどちらです?」
「長野だと思う。ちょっと待ってね。」
教授は名簿を出してきてくれた。
直ぐにメモして、原田に伝える夏目。
その間甘粕は他の情報を得る。
「何かお気づきの事はありませんか?なんでもいいです。どんな些細な事でも構いません。」
「そうだなあ…。
もうひたすら変だし、俺たちとも用件以外話さないから、変と言えば、全部変なんだけど…。
なんか長野で子供の時から世話してくれてた…って言っても、同い年らしいんだけど。
まあ、使用人の子供だな。
そいつと2人暮らしだってのは聞いた事あるな。
女かって聞いたら、真っ青な顔して、バカな事言うな!男だ!って凄い怒ってさあ。
ホモかと思ったけど、うちの大学の若いのから年寄りまで、誰も迫られた事無いっていうし、変な目つきされた奴も居ないって事で、違うのかなあと思ったけど。
何せもう病的に潔癖性だからさ。
女と接触も汚いとか思って、出来ねえタイプだよななんて言ってるんだ。」
どうも当たりの様だ。
甘粕が夏目と目を合わせた時、甘粕の電話が鳴った。
教授に礼を言い、出ると、原田だった。
「ダーリン!ビンゴ!」
「成田泰一の名前で屋敷があった?!」
「あったよ!長野に築70年の、霞ちゃんが言う通りの屋敷持ってまあす!
周囲全部山と木。他に家も無い、崖っぷちみたいなところ。
日比野昌男って同い年の男が住んでるわ。
元は成田家の別荘だったみたいね。」
「ありがと!相変わらず仕事が早くて助かるぜ!」
「ー違うでしょ、ダーリン。私への感謝の言葉は一つでいいの。」
甘粕は周りを気にしながら、真っ赤な顔になると、受話器を両手で囲みながら、小声で言った。
「あ、愛してるから…。」
「もっと大きな声で、ちゃんと言ってちょーだい!」
そして甘粕は今日もまたヤケになって愛を叫ぶ…。
「愛してるぜ!ハニー!ありがとな!」
「はい、よく出来ましたあ。
因みに、今そこは大きな雪崩が幾つか起きた上、大雪になってしまって、唯一そこへ向かっている道は凍結。1キロ区間全面通行止めよ。」
「分かった。」
電話を切ると、教授は驚き顔で、失礼な事に甘粕を指差して笑い転げており、夏目もゲラゲラ笑っていた。
「霞さんに言やあいいのに、なにやってんですか。面白え人だな。」
「うるせえ!本庁戻って、対策会議だ!」
ところが、結果的に言うと、会議にはならなかった。
夏目が本庁に戻った途端、美雨の養父であり、夏目の剣道の師匠から電話が掛かって来たのが、その原因だった。
「龍介がですか?」
龍介というのは、甘粕も聞いた事がある名前だ。
師匠の孫で、子供嫌いの夏目にしては珍しく可愛がっている子で、確かまだ中学生だった。
弟弟子でもあり、また結構な美少年という話である。
「おう。学校の旅行中だったんだが、雪崩でみんなと分断されて、携帯も繋がらねえし、女の子も一緒だしって事で、どっかに避難しようと思ったんだろうな。
そんで長野の山奥の家に迷い込んじまったらしいんだが、多分この家だろうって家の持ち主を、お前んとこが調べてるって聞いたからよお…。
変態の餌食になってんじゃねえかって心配でさあ…。」
住所を聞いた夏目の顔は、珍しく青ざめた。
「まさにそこです…。分かりました。龍介は俺が必ず無傷で助け出します。」
「ええ!。夏目!?一本しかねえ道、凍っちまってんのよ!?どうすんの、おま…。」
そして電話を切ってしまい、全員のコートを取って、持たせながら早口に言った。
「向かいましょう!今現在、少年少女があの家に、未だ生きてる状態で入ってます!早く、早く、早く!」
「えええ、夏目!?未だ令状も取っておらんのよ!?」
「龍介の命と貞操が掛かってんですよ!
んな事は後でどうにでもなんでしょう!?
課長!さっさとする!」
既に日はとっぷりと暮れていた。
大雪は長野県だけでなく、途中の埼玉県の端っこから降りしきり、高速も規制が敷かれてしまっている。
だが夏目はものともしない。
タイヤだけはスタッドレスに替えて来たものの、大雪など関係無しの運転で爆走して行く。
太宰は心中でひたすら祈った。
ー娘達とカミさんにもう一度会えますように…。
この道20年の太宰でもそう思ってしまう運転という事で、この恐ろしさはお分かりいただけると思う。
あまりというか、全く怖がっていない甘粕が助手席から言った。
「だけど夏目、成田の屋敷に向かう一本道は路面凍結で全面通行止めらしいぜ。
1キロも凍った道、どうすんだ。」
「どうするも何も、それしか道が無いのなら、行くしかありません。」
甘粕は笑い出したが、太宰と霞は更に青ざめた。
「強烈な男だのう…。夏目…。」
「で…ですね…。」
酔う暇も無いようなスリリングな暴走運転で、午前2時を回った時には、例の通行止めの一本道の前に来た。
道路には封鎖中の目印である柵が出ているが、夏目は車を停める事も無く、スピードすら緩める事もせず、柵をぶち破って通行止め区間に入った。
「ああああああ!!!アレ、いくらすんだああ!?」
太宰が叫ぶが、聞いちゃいない。
太宰の頭の中には、書かねばならない始末書の山が出来ている。
いくらスタッドレスを履いていても、カチンコチンに、スケートリンクの様に凍りついた道では、タイヤは横滑りする。
いくら夏目でもスピードは落としたが、それでもその恐怖感は凄まじい。
何せ、片方は岩のそびえ立つ崖だし、片方は断崖絶壁の様な急勾配の崖だ。
岩に当たったら、車はぺしゃんこだし、崖から落ちても命は無い。
しかも外灯など無く、ヘッドライトの明かりのみ。
太宰と霞は生きた心地もしない。
「29年生きて来て、ここまで怖いの初めてです…。」
「お、俺も…。」
甘粕は冷静に夏目にアドバイス。
「もう少しハンドル右に切っとけよ。うん、そう。」
そして、対向車が現れた。
この先には、成田の屋敷しか無い。
4人は注意深く車の中を見つめた。
夏目は運転している少年と目が合った。
「夏目さん!?」
少年の口元がそう動いた。
夏目も窓を開けながら叫んだ。
「龍介!無事か!?」
「はい!後ろから変態2人が追って来てます!」
「後は任せろ!」
夏目の目が成田達の乗る車を捕えた。
するといきなり急ハンドルを切る夏目。
「ぬおおおおー!夏目えええー!俺には妻と3人の娘がああああー!」
夏目は正面から来る成田の車に、丸で殴るかのように斜めからぶつけ、コントロールを失わせると、アクセルを踏みしめて、自分が運転している車で、岩の崖にグイグイと擦り付ける様に押し始めた。
ガーガーキイーキイーと凄まじい摩擦音を立て、成田の車は崖に押し付けられる。
「夏目えええー!俺には妻と3人の娘があああー!」
「大丈夫ですよ、課長。生きて会えます!」
そしてやっと車を停め、甘粕と同時に飛び出すと、成田と日比野を車から引きずり出し、手錠を掛けた。
「午前2時20分、児童拉致監禁容疑で現行犯逮捕!」
甘粕の声が、静かな山の中に響き渡った。
「か、課長…。」
霞に声を掛けられ、太宰はやっと我に返った。
「あ…。あの子達、保護しなければ…。」
霞と車からよろめきながら出て、車を停めてこちら見ていた龍介に話しかける。
「あ、あの…。警視庁捜査五課の太宰です…。
もし大丈夫そうだったら、話を聞かせて貰いたいんだけど…。」
噂通り、芸能人でも見ないような凄い美少年の龍介という少年は、太宰を心配そうに見つめた後、頷いた。
「大丈夫です。お話します。」
しかし、はっきり言って、ここから落ち着いて話せる場所に移動すると言っても、限られている。
つまり、成田の屋敷か、車の中しかない。
成田の屋敷は暖かいだろうが、戻りたくないだろうという事で、太宰は龍介が運転してきた車に霞と乗り込んで、話を聞く事にした。
名前や住所、学校などを聞くと、落ち着いた様子でスラスラと答えた。
少年は加納龍介。14歳。名門と名高い英学園の中学2年生。
少女は唐沢瑠璃。同じく14歳で、学校も同じ。
家も近く、2人はクラスメートという間柄だけでなく、仲が良さそうな感じで、龍介は常に瑠璃を気遣っている。
瑠璃という少女もまた、将来が楽しみな感じの可愛い少女で、犯人の好みだろうと思われた。
「お爺さんのお話だと、学校の旅行中、雪崩で他の子達と分断されて、携帯も繋がらないという事で、あの家に避難したと伺ったけど、それで合ってる?」
「はい。その通りです。」
「それで?」
「初めはあの下男の男が出てきました。
電話を借りたいと言うと、俺と、彼女をジロジロ見て、主に聞いてくるといい、今度は主が出て来て、入っていいと。
でも、やはりいやらしい目で見られたので、早く電話を借りて出ようと思ったんですが、電話線が切れたとか言われ、ネットも彼女が繋ごうとしてくれたんですが、繋がらないので、諦めて厄介になる事にしました。
でも、不気味な事が多かったんです。
身体にぴったりのサイズの靴や服が、常に用意されていました。
麻酔医と聞いたので、腕のいい麻酔医は見ただけで身長、体重が言い当てられると聞いた事があるので、それだろうとは思いましたが、それでも何故、そんなサイズ豊富に衣類を揃えているのか、とても奇妙でした。
この家には何かある、何か企んでいると思い、寝たフリをしてから探りに出た所、2人が俺たちの事を話しているのが聞こえました。
俺たちを飾るとか言っていたので、何をする気なのかと、来た時から気になっていた変な気配のする地下に…。」
そこまで理路整然と話していた龍介だったが、急に話を止めてしまった。
霞が心配そうに龍介を見つめて聞いた。
「思い出したくない?無理しなくていいわ。」
「いえ…。俺は平気です。ただ、彼女に聞かせたくない光景だったので…。」
そう言って、瑠璃を心配そうに見つめている。
「紳士だなあ。」
太宰がそう言い、2人で思わず感心していると、瑠璃が微笑んだ。
「私は大丈夫よ、龍。
結構グロいの平気だし、龍のお陰でこうして何事も無く、無事でいられたんだもの。
お話しして?」
この少女も、かなり落ち着いている。
龍介がそれだけ頼もしく、彼女を不安にさせなかったというのを差っぴいても、なかなかの肝の座り方だ。
「じゃあ…。
あの家の地下には、人間の剥製が陳列されていました。
年齢は俺たち位で、男同士で裸で抱き合わせたり、女の子も変な格好させられたり、扮装させられたりしていました。
数は男が15人。女の子が8人位だったと思います。」
太宰達が把握している行方不明者よりも多い。
携帯が、高樹町付近で見つかっていない子かもしれない。
「その陳列室の奥に、手術室の様な所があり、男が腹ばいで寝かされていました。
助けようと思ったら、もう背中に縫い目があって、綿がはみ出していて…。
こういう言い方も嫌ですが、彼はもう処理済みでした。
その時、あいつらが降りて来たので隠れると、一昨々日、処理した子を飾ると言っていました。
さっきの男の事なんだと思います。
それで、俺たちも剥製になんかされたら堪らないと思い、脱出した次第です。」
「大変な物を見てしまったわね…。大丈夫?」
「大丈夫です。それよりあいつら、絶対死刑にして下さい。
人間にあんな事するなんて…。
死んでからまであんな辱めを受けるなんて、あんまりです。」
龍介のキツイ目が怒りに震えている。
太宰はしっかり頷いて、龍介の肩に手を置いた。
「しっかり取り調べて、検察に渡すよ。出来る限りの事をする。」
「宜しくお願いします。」
そこへ甘粕が来た。
「課長。長野県警が雪上車で来てくれる事になりました。
護送と龍介君達の寝床の確保は出来そうです。」
「じゃあ、県警が来たら、夏目と俺で龍介君と瑠璃ちゃんを送りつつ、あいつらの取り調べしてるから、甘粕と霞ちゃんは、屋敷を調べてくれ。」
「了解しました。」
そして、甘粕は龍介達を心配そうに見た。
「大丈夫かい?」
「はい。」
微笑んで頷く2人を、苦笑で見つめる。
「何か?」
「いや、夏目から君の噂は聞いてはいたけど、本当に子供離れした落ち着きっぷりだなと思って。
しかも、こんな道運転して来ちゃって、どうなってるんだ?」
龍介が初めて困った顔をした。
「え…ええっと…。祖父が遊びで旅行先とかの私有地で運転を教えてくれて…。俺が車好きだからかなあ…。」
チラッ、チラッと甘粕を見ながら、かなり言い訳がましく言っている。
甘粕はそれ以上触れず、そうかとだけ言い、太宰に言った。
「あいつら、夏目置いとくだけで、多分全部喋りますよ。
夏目の奴、凄い勢いで睨み付けっ放しで、この道の運転で既に充血してる目で、鬼の形相ですからね。
俺でもビビりそうな迫力です。
それで一言も喋んないんですから。
あっちの車内、息出来ません。
奴ら、震え上がって、泣きそうになってますよ。」
「それは俺でも怖いわよ…。
夏目、普通にしてたっておっかないんだから…。
美雨ちゃんはよく怖くないねえ…。
じゃ、取り調べは夏目にさせてみよう。」
なんだか龍介は嬉しそうな顔をしている。
「ん?夏目に心配されて嬉しい?大事に思ってる感じだもんな。」
「はい。」
「仲良しなんだな。」
「確かにおっかない人ですけど、本当にいい人なんです。かっこいいし。」
すかさず瑠璃が言った。
「龍は夏目さんみたいなりたいんですって!」
その瞬間、霞は苦笑いをし、甘粕は笑い出し、太宰に至っては、泣き出しそうな苦悶の表情になってしまった。
「な、何か…?」
龍介が驚いている。
「いや、なんというか…。アレが2人と思うと、寿命が縮む気が…。」
太宰の呟きに何度も頷く霞と、更に笑い出す甘粕。
龍介は苦笑しながら瑠璃に言った。
「相当おっかねえ運転で来てくれたんだな。」
「でしょうね…。この道をあのスピードでいらしたんだもの…。龍を助ける為に。」
「いっぱいお礼しねえとな。」
「私もする。」
「じゃあ、あのチョコレートケーキがいいよ。」
「ガトーショコラクラッシック?」
「そう。あれ、凄え美味い。」
楽しげな2人を見て、太宰が言った。
「2人は落ち着いてるし、あっちも夏目が居れば大丈夫だろうから、屋敷の調べ、県警待たなくていいだろう。
甘粕と霞ちゃんで行っておいで。
取り調べ前に分かってた方がやりやすいし。」
龍介が『あ。』と声上げた。
「ご案内しましょうか。」
流石に甘粕と霞も首を横に振った。
太宰なんかは、首がおかしくなりそうな勢いで振りまくって、裏返った声で言った。
「ダメだよ!あんな所、無理して戻んなくていいの!君はここで休んでなさい!」
「でも、鍵が…。な、瑠璃。」
龍介に言われ、瑠璃も頷いた。
「あそこ、10キー配列のオートロックです。
自動的に閉まってしまう仕組みですから、多分今、玄関開きません。私、開けに行きます。」
「は…。」
こんな可愛い少女が、何故そんな電子ロックの解錠が出来るのか、甘粕でさえ、ポカンとなるほど驚いてしまったが、そう言われたら仕方がない。
大丈夫だと言い張るので、玄関までという事で、そのまま龍介と瑠璃と一緒に歩いて屋敷に向かう事にし、太宰も付いて行った。




