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満月の夜 2  作者: 桐生初
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龍介登場

太宰達は、美雨のずば抜けた観察力のおかげで、かなり精巧なモンタージュを作成すると、直ぐに甘粕達に送った。

甘粕達はそれのお陰で、かなりスムーズに『水曜日のジェントルマン』探しが行えている。


美雨は残ってくれ、そのまま更に、『水曜日のジェントルマン』に関する印象を伝えてくれた。

原田に、東京勤務で、古い屋敷を長野に持つ50代の男性を探して貰っている間、太宰と霞で話を聞く。


「あの男は、女の子好きでは無いと思うんです。」


「というと?」


霞が聞くと、思い返しながら答えた。


「いくら隠しても、いやらしい目とかすると思うんですよ。

攫って何をしているのかは分かりませんが、あの目は尋常じゃない事をしている。

十中八九、快楽殺人犯だと思います。

でも、彼の私に対する目は、そういう快楽の対象を見る目じゃなかった。

好意を持っていない。

親切な事ばかり言ってるけど、目は冷たかったし、端的に言えば、私に興味がある人の目ではありませんでした。」


美雨は子供っぽい感じとはいえ、かなり可愛らしい。

男から、興味津々の目で見られる事も、好意を寄せた目で見られる事も多々あるだろうから、どんな目だと自分に興味や好意があるか、よく分かっているはずだ。

それは正確な感想な気がした。


「なるほどね…。

確かに、ちょっと一緒にいる時間も短いわよね…。

行方不明の男の子の友達が聞いた話だと、1時間以上話を聞いてくれてたって事でしたよね?課長。」


「うん。て事は、水曜日のジェントルマンの方は、夏目が全力で毛嫌いするホモか。」


「という事になります。

でも、女の子も仲間の為なのか、あるいは別の目的か、必要なんでしょうね。

あと、なんかあった?」


「あとは、中年女性が大嫌いの様でした。

というか、怖いに近いのかな。

席の直ぐ側を通ろうものなら、身をよじって、触れない様にしていました。

又、私の目は見れるのに、男性店員や女性店員とは目を合わせる事も出来ず、注文の際はずっとそっぽ向いているという、異常な位の避け方でしたね。

あとは、潔癖性でした。

テーブルは座る前に拭いてたし、自分の手もマイウェットティッシュで拭いて、更に除菌スプレー。

両親両方から虐待、或いは、過剰に厳しく育てられた感じを受けました。

あ、そうだ。写真撮られたと思います。

ゲーセンでですけど。

クレーンゲームのガラスに映る様子を見ていたら、その後、送ったように見えました。」


「仲間に送ったのかね?この子でいいかみてえなさ。」


「でしょうね…。やはり犯人は2人組。

水曜日のジェントルマンが調達係…。

原田さんと甘粕さんに、もうちょっと詳しいプロファイリング言います!」


美雨がサッとiPadと薄いキーボードを取り出して言った。


「一斉配信しますのでどうぞ!」


「わあ、助かる!ありがとう!」


霞は早速プロファイリングを語り始めた。


「犯人は2人。

少年少女調達係が水曜日のジェントルマン。

長野の古い屋敷に仲間が待っている。

水曜日以外に東京には出てこず、そこで犯行をじっくりと行っている。

恐らくこの2人のみで暮らしており、状況から考えて、人里離れた一軒家。

周囲に人家は無く、あっても無人の状態。

何れにせよ、この家の敷地は周囲から孤立し、またかなり囲まれて見えなくなっていると思われます。

また、これだけの人数を殺しているにしろ、生かしているにしろ、広大な敷地面積と思われます。

水曜日のジェントルマン自体は、少年にしか興味がありません。

恐らく成人女性が怖い、付き合えないタイプではないでしょうか。

従って、職場でも、極端に女性との接触は避けているはず。

かといって、男性とも仲良くは出来ません。

過去の著しい虐待故に、成人との人間関係が築けないのです。

長野の屋敷に居る仲間との力関係は不明ですが、例え立場的に優位だとしても、従っている立場でしょう。

主従関係の下でないと、安心出来ないのです。

従って、職場でも、目立たず、暗く、人との接触を極力避けています。

出世も望みません。

講義の他に、勤務もしているという話でしたから、なんらかの医師である事は間違いなさそうですが、その性格でもどうにかこなせるというと、麻酔医かもしれません。

患者との接触は基本的に無い筈ですから。

レントゲン技師という線も考えられなくはありませんが、アレはそれなりには患者に接しますし、暗がりというのは、虐待を呼び起こす可能性が高いので、職業として選ぶとは思えないので外しました。」


霞はここまで、かなりの早口で一気に話したが、美雨のタイピングは、太宰が見惚れる程早く、ほぼ同時に終わった。


「美雨ちゃん、ここまでどうかしら?」


「流石だなあと思って伺ってました。」


「足りないところは無い?」


「無いと思いますっていうか、私に聞かないで下さいよお。素人なのに~。」


「いや、素人じゃないでしょ。じゃ、送信しちゃって下さい。」


「了解しました!」




霞のプロファイリングを読んだ甘粕と夏目は、そのまんまの男を三軒目の大学病院で見つける事が出来た。


真っ先に向かった麻酔科の教授が教えてくれた。


「ああ、成田君に近いな。

顔もこのモンタージュによく似てるし。

今、准教授なんだけど、教授になると、週に1度の出勤じゃダメになるし、お付き合いも色々出てくるからって、嫌がってくれたお陰で、僕が教授なれたんだけどさ。

変人だよ。

昔から友達なんか1人も居ないし。

なんか松本かどっかで開業してる医者の息子だったみたいだけど、大学の最中に親父さんが死んで、病院ごと売っぱらって、金には困って無かったみたいだけど、全然遊ばなかったね。

合コンにも来なかったし。」


「母親に関しては何か聞いてませんか?」


「今思うと、若年性認知症だったんだろうな。言動がおかしいからって、直ぐ病院入れちゃったみたいで、それっきりみたいだよ。」


「ご健在ですか。」


「知らない。」


「お住まいはどちらです?」


「長野だと思う。ちょっと待ってね。」


教授は名簿を出してきてくれた。


直ぐにメモして、原田に伝える夏目。

その間甘粕は他の情報を得る。


「何かお気づきの事はありませんか?なんでもいいです。どんな些細な事でも構いません。」


「そうだなあ…。

もうひたすら変だし、俺たちとも用件以外話さないから、変と言えば、全部変なんだけど…。

なんか長野で子供の時から世話してくれてた…って言っても、同い年らしいんだけど。

まあ、使用人の子供だな。

そいつと2人暮らしだってのは聞いた事あるな。

女かって聞いたら、真っ青な顔して、バカな事言うな!男だ!って凄い怒ってさあ。

ホモかと思ったけど、うちの大学の若いのから年寄りまで、誰も迫られた事無いっていうし、変な目つきされた奴も居ないって事で、違うのかなあと思ったけど。

何せもう病的に潔癖性だからさ。

女と接触も汚いとか思って、出来ねえタイプだよななんて言ってるんだ。」


どうも当たりの様だ。

甘粕が夏目と目を合わせた時、甘粕の電話が鳴った。

教授に礼を言い、出ると、原田だった。


「ダーリン!ビンゴ!」


「成田泰一の名前で屋敷があった?!」


「あったよ!長野に築70年の、霞ちゃんが言う通りの屋敷持ってまあす!

周囲全部山と木。他に家も無い、崖っぷちみたいなところ。

日比野昌男って同い年の男が住んでるわ。

元は成田家の別荘だったみたいね。」


「ありがと!相変わらず仕事が早くて助かるぜ!」


「ー違うでしょ、ダーリン。私への感謝の言葉は一つでいいの。」


甘粕は周りを気にしながら、真っ赤な顔になると、受話器を両手で囲みながら、小声で言った。


「あ、愛してるから…。」


「もっと大きな声で、ちゃんと言ってちょーだい!」


そして甘粕は今日もまたヤケになって愛を叫ぶ…。


「愛してるぜ!ハニー!ありがとな!」


「はい、よく出来ましたあ。

因みに、今そこは大きな雪崩が幾つか起きた上、大雪になってしまって、唯一そこへ向かっている道は凍結。1キロ区間全面通行止めよ。」


「分かった。」


電話を切ると、教授は驚き顔で、失礼な事に甘粕を指差して笑い転げており、夏目もゲラゲラ笑っていた。


「霞さんに言やあいいのに、なにやってんですか。面白え人だな。」


「うるせえ!本庁戻って、対策会議だ!」




ところが、結果的に言うと、会議にはならなかった。

夏目が本庁に戻った途端、美雨の養父であり、夏目の剣道の師匠から電話が掛かって来たのが、その原因だった。


「龍介がですか?」


龍介というのは、甘粕も聞いた事がある名前だ。

師匠の孫で、子供嫌いの夏目にしては珍しく可愛がっている子で、確かまだ中学生だった。

弟弟子(おとうとでし)でもあり、また結構な美少年という話である。


「おう。学校の旅行中だったんだが、雪崩でみんなと分断されて、携帯も繋がらねえし、女の子も一緒だしって事で、どっかに避難しようと思ったんだろうな。

そんで長野の山奥の家に迷い込んじまったらしいんだが、多分この家だろうって家の持ち主を、お前んとこが調べてるって聞いたからよお…。

変態の餌食になってんじゃねえかって心配でさあ…。」


住所を聞いた夏目の顔は、珍しく青ざめた。


「まさにそこです…。分かりました。龍介は俺が必ず無傷で助け出します。」


「ええ!。夏目!?一本しかねえ道、凍っちまってんのよ!?どうすんの、おま…。」


そして電話を切ってしまい、全員のコートを取って、持たせながら早口に言った。


「向かいましょう!今現在、少年少女があの家に、未だ生きてる状態で入ってます!早く、早く、早く!」


「えええ、夏目!?未だ令状も取っておらんのよ!?」


「龍介の命と貞操が掛かってんですよ!

んな事は後でどうにでもなんでしょう!?

課長!さっさとする!」


既に日はとっぷりと暮れていた。


大雪は長野県だけでなく、途中の埼玉県の端っこから降りしきり、高速も規制が敷かれてしまっている。

だが夏目はものともしない。

タイヤだけはスタッドレスに替えて来たものの、大雪など関係無しの運転で爆走して行く。


太宰は心中でひたすら祈った。


ー娘達とカミさんにもう一度会えますように…。


この道20年の太宰でもそう思ってしまう運転という事で、この恐ろしさはお分かりいただけると思う。


あまりというか、全く怖がっていない甘粕が助手席から言った。


「だけど夏目、成田の屋敷に向かう一本道は路面凍結で全面通行止めらしいぜ。

1キロも凍った道、どうすんだ。」


「どうするも何も、それしか道が無いのなら、行くしかありません。」


甘粕は笑い出したが、太宰と霞は更に青ざめた。


「強烈な男だのう…。夏目…。」


「で…ですね…。」


酔う暇も無いようなスリリングな暴走運転で、午前2時を回った時には、例の通行止めの一本道の前に来た。

道路には封鎖中の目印である柵が出ているが、夏目は車を停める事も無く、スピードすら緩める事もせず、柵をぶち破って通行止め区間に入った。


「ああああああ!!!アレ、いくらすんだああ!?」


太宰が叫ぶが、聞いちゃいない。

太宰の頭の中には、書かねばならない始末書の山が出来ている。


いくらスタッドレスを履いていても、カチンコチンに、スケートリンクの様に凍りついた道では、タイヤは横滑りする。

いくら夏目でもスピードは落としたが、それでもその恐怖感は凄まじい。

何せ、片方は岩のそびえ立つ崖だし、片方は断崖絶壁の様な急勾配の崖だ。

岩に当たったら、車はぺしゃんこだし、崖から落ちても命は無い。

しかも外灯など無く、ヘッドライトの明かりのみ。


太宰と霞は生きた心地もしない。


「29年生きて来て、ここまで怖いの初めてです…。」


「お、俺も…。」


甘粕は冷静に夏目にアドバイス。


「もう少しハンドル右に切っとけよ。うん、そう。」


そして、対向車が現れた。

この先には、成田の屋敷しか無い。

4人は注意深く車の中を見つめた。


夏目は運転している少年と目が合った。


「夏目さん!?」


少年の口元がそう動いた。

夏目も窓を開けながら叫んだ。


「龍介!無事か!?」


「はい!後ろから変態2人が追って来てます!」


「後は任せろ!」


夏目の目が成田達の乗る車を捕えた。


するといきなり急ハンドルを切る夏目。


「ぬおおおおー!夏目えええー!俺には妻と3人の娘がああああー!」


夏目は正面から来る成田の車に、丸で殴るかのように斜めからぶつけ、コントロールを失わせると、アクセルを踏みしめて、自分が運転している車で、岩の崖にグイグイと擦り付ける様に押し始めた。

ガーガーキイーキイーと凄まじい摩擦音を立て、成田の車は崖に押し付けられる。


「夏目えええー!俺には妻と3人の娘があああー!」


「大丈夫ですよ、課長。生きて会えます!」


そしてやっと車を停め、甘粕と同時に飛び出すと、成田と日比野を車から引きずり出し、手錠を掛けた。


「午前2時20分、児童拉致監禁容疑で現行犯逮捕!」


甘粕の声が、静かな山の中に響き渡った。


「か、課長…。」


霞に声を掛けられ、太宰はやっと我に返った。


「あ…。あの子達、保護しなければ…。」


霞と車からよろめきながら出て、車を停めてこちら見ていた龍介に話しかける。


「あ、あの…。警視庁捜査五課の太宰です…。

もし大丈夫そうだったら、話を聞かせて貰いたいんだけど…。」


噂通り、芸能人でも見ないような凄い美少年の龍介という少年は、太宰を心配そうに見つめた後、頷いた。


「大丈夫です。お話します。」


しかし、はっきり言って、ここから落ち着いて話せる場所に移動すると言っても、限られている。

つまり、成田の屋敷か、車の中しかない。

成田の屋敷は暖かいだろうが、戻りたくないだろうという事で、太宰は龍介が運転してきた車に霞と乗り込んで、話を聞く事にした。


名前や住所、学校などを聞くと、落ち着いた様子でスラスラと答えた。


少年は加納龍介。14歳。名門と名高い英学園の中学2年生。

少女は唐沢瑠璃。同じく14歳で、学校も同じ。

家も近く、2人はクラスメートという間柄だけでなく、仲が良さそうな感じで、龍介は常に瑠璃を気遣っている。

瑠璃という少女もまた、将来が楽しみな感じの可愛い少女で、犯人の好みだろうと思われた。


「お爺さんのお話だと、学校の旅行中、雪崩で他の子達と分断されて、携帯も繋がらないという事で、あの家に避難したと伺ったけど、それで合ってる?」


「はい。その通りです。」


「それで?」


「初めはあの下男の男が出てきました。

電話を借りたいと言うと、俺と、彼女をジロジロ見て、主に聞いてくるといい、今度は主が出て来て、入っていいと。

でも、やはりいやらしい目で見られたので、早く電話を借りて出ようと思ったんですが、電話線が切れたとか言われ、ネットも彼女が繋ごうとしてくれたんですが、繋がらないので、諦めて厄介になる事にしました。

でも、不気味な事が多かったんです。

身体にぴったりのサイズの靴や服が、常に用意されていました。

麻酔医と聞いたので、腕のいい麻酔医は見ただけで身長、体重が言い当てられると聞いた事があるので、それだろうとは思いましたが、それでも何故、そんなサイズ豊富に衣類を揃えているのか、とても奇妙でした。

この家には何かある、何か企んでいると思い、寝たフリをしてから探りに出た所、2人が俺たちの事を話しているのが聞こえました。

俺たちを飾るとか言っていたので、何をする気なのかと、来た時から気になっていた変な気配のする地下に…。」


そこまで理路整然と話していた龍介だったが、急に話を止めてしまった。

霞が心配そうに龍介を見つめて聞いた。


「思い出したくない?無理しなくていいわ。」


「いえ…。俺は平気です。ただ、彼女に聞かせたくない光景だったので…。」


そう言って、瑠璃を心配そうに見つめている。


「紳士だなあ。」


太宰がそう言い、2人で思わず感心していると、瑠璃が微笑んだ。


「私は大丈夫よ、龍。

結構グロいの平気だし、龍のお陰でこうして何事も無く、無事でいられたんだもの。

お話しして?」


この少女も、かなり落ち着いている。

龍介がそれだけ頼もしく、彼女を不安にさせなかったというのを差っぴいても、なかなかの肝の座り方だ。


「じゃあ…。

あの家の地下には、人間の剥製が陳列されていました。

年齢は俺たち位で、男同士で裸で抱き合わせたり、女の子も変な格好させられたり、扮装させられたりしていました。

数は男が15人。女の子が8人位だったと思います。」


太宰達が把握している行方不明者よりも多い。

携帯が、高樹町付近で見つかっていない子かもしれない。


「その陳列室の奥に、手術室の様な所があり、男が腹ばいで寝かされていました。

助けようと思ったら、もう背中に縫い目があって、綿がはみ出していて…。

こういう言い方も嫌ですが、彼はもう処理済みでした。

その時、あいつらが降りて来たので隠れると、一昨々(さきおととい)、処理した子を飾ると言っていました。

さっきの男の事なんだと思います。

それで、俺たちも剥製になんかされたら堪らないと思い、脱出した次第です。」


「大変な物を見てしまったわね…。大丈夫?」


「大丈夫です。それよりあいつら、絶対死刑にして下さい。

人間にあんな事するなんて…。

死んでからまであんな辱めを受けるなんて、あんまりです。」


龍介のキツイ目が怒りに震えている。

太宰はしっかり頷いて、龍介の肩に手を置いた。


「しっかり取り調べて、検察に渡すよ。出来る限りの事をする。」


「宜しくお願いします。」


そこへ甘粕が来た。


「課長。長野県警が雪上車で来てくれる事になりました。

護送と龍介君達の寝床の確保は出来そうです。」


「じゃあ、県警が来たら、夏目と俺で龍介君と瑠璃ちゃんを送りつつ、あいつらの取り調べしてるから、甘粕と霞ちゃんは、屋敷を調べてくれ。」


「了解しました。」


そして、甘粕は龍介達を心配そうに見た。


「大丈夫かい?」


「はい。」


微笑んで頷く2人を、苦笑で見つめる。


「何か?」


「いや、夏目から君の噂は聞いてはいたけど、本当に子供離れした落ち着きっぷりだなと思って。

しかも、こんな道運転して来ちゃって、どうなってるんだ?」


龍介が初めて困った顔をした。


「え…ええっと…。祖父が遊びで旅行先とかの私有地で運転を教えてくれて…。俺が車好きだからかなあ…。」


チラッ、チラッと甘粕を見ながら、かなり言い訳がましく言っている。

甘粕はそれ以上触れず、そうかとだけ言い、太宰に言った。


「あいつら、夏目置いとくだけで、多分全部喋りますよ。

夏目の奴、凄い勢いで睨み付けっ放しで、この道の運転で既に充血してる目で、鬼の形相ですからね。

俺でもビビりそうな迫力です。

それで一言も喋んないんですから。

あっちの車内、息出来ません。

奴ら、震え上がって、泣きそうになってますよ。」


「それは俺でも怖いわよ…。

夏目、普通にしてたっておっかないんだから…。

美雨ちゃんはよく怖くないねえ…。

じゃ、取り調べは夏目にさせてみよう。」


なんだか龍介は嬉しそうな顔をしている。


「ん?夏目に心配されて嬉しい?大事に思ってる感じだもんな。」


「はい。」


「仲良しなんだな。」


「確かにおっかない人ですけど、本当にいい人なんです。かっこいいし。」


すかさず瑠璃が言った。


「龍は夏目さんみたいなりたいんですって!」


その瞬間、霞は苦笑いをし、甘粕は笑い出し、太宰に至っては、泣き出しそうな苦悶の表情になってしまった。


「な、何か…?」


龍介が驚いている。


「いや、なんというか…。アレが2人と思うと、寿命が縮む気が…。」


太宰の呟きに何度も頷く霞と、更に笑い出す甘粕。


龍介は苦笑しながら瑠璃に言った。


「相当おっかねえ運転で来てくれたんだな。」


「でしょうね…。この道をあのスピードでいらしたんだもの…。龍を助ける為に。」


「いっぱいお礼しねえとな。」


「私もする。」


「じゃあ、あのチョコレートケーキがいいよ。」


「ガトーショコラクラッシック?」


「そう。あれ、凄え美味い。」


楽しげな2人を見て、太宰が言った。


「2人は落ち着いてるし、あっちも夏目が居れば大丈夫だろうから、屋敷の調べ、県警待たなくていいだろう。

甘粕と霞ちゃんで行っておいで。

取り調べ前に分かってた方がやりやすいし。」


龍介が『あ。』と声上げた。


「ご案内しましょうか。」


流石に甘粕と霞も首を横に振った。

太宰なんかは、首がおかしくなりそうな勢いで振りまくって、裏返った声で言った。


「ダメだよ!あんな所、無理して戻んなくていいの!君はここで休んでなさい!」


「でも、鍵が…。な、瑠璃。」


龍介に言われ、瑠璃も頷いた。


「あそこ、10キー配列のオートロックです。

自動的に閉まってしまう仕組みですから、多分今、玄関開きません。私、開けに行きます。」


「は…。」


こんな可愛い少女が、何故そんな電子ロックの解錠が出来るのか、甘粕でさえ、ポカンとなるほど驚いてしまったが、そう言われたら仕方がない。

大丈夫だと言い張るので、玄関までという事で、そのまま龍介と瑠璃と一緒に歩いて屋敷に向かう事にし、太宰も付いて行った。

















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