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満月の夜 2  作者: 桐生初
3/30

怪しい中年男の影

太宰と夏目は、雪がチラつき始めた寒い中、近場の行方不明者の家から訪ねて行った。


なんとなく荒んだ感じの家が多かった。

一見ちゃんとして見えても、親が子供の事を丸で理解せず、頭ごなしに叱っているのが、容易に想像がつく様な話しっぷりとか。


或いは、家庭環境が非常に複雑であったり。


確かに家には帰りたくなくなりそうだなというのは感じられた。


それに、16人中、16人の親が、子供の交友関係は拾われた携帯を見て初めて知ったと言った。


親に友人の話なども一切していなかった様だ。




政治家の鈴木代議士の家は、一見きちんとした家庭だったが、内情は冷たい空気の漂う、殺伐とした感じだった。

母親は夫や前妻の出来のいい子供達に気を遣うあまりか、居なくなった将太君の事をかなり悪く言っていた。


「主人もお兄様方も良くしてくださっているっていうのに、本当に何が不満なんだか分かりません。

家には帰って来ないし、帰って来れば、ヤクザの様な言葉遣いで悪態を吐いて…。」


夏目は黙ってメモを取っていたが、その横顔には不愉快としっかり書いてある。

太宰は心の中で苦笑しながら、質問を続けた。


「仲のいい友達なんかはご存知ありませんか。」


「再婚して転校してから、私と口もききません。

警察が届けてくれた携帯を見ましたが、仇名ばかりで、何がなんだか…。」


「その携帯、お借りしても宜しいでしょうか。」


太宰が言うと、他の子供の親達同様、すんなり渡した。




鈴木家を出ると、太宰が運転席に座った夏目の肩を叩いた。


「どした。言ってみな。」


「いや、なんだかもう、虫酸が走るオバハンだなと思いまして。

自分の幸せばっかじゃないですか。

多分将太って子は、新しい親父も転校も嫌だったんじゃないんですか。

いくら金持ちになったって、幸せの形は人それぞれです。

将太の幸せは元の生活だったんじゃないんですか。」


「だろうな。俺もそう思った。じゃあ、時期的にも1番早いって所で、将太の友人に連絡取ってみるかね。」




今度は、LINEのやり取りが1番多い子供の住所を原田に調べて貰い、その友達に話を聞きに行った。


「俺は今の将太の学校で一緒な訳じゃないですよ。前の学校で一緒だったんです。」


もう夜の8時になっていたが、その子は快く会話に応じてくれた。

将太が居なくなったのを、心から心配している様子が見てとれ、その子の母親も心配している様子で、太宰達を中に入れてくれた。


「将太、転校すんの凄い嫌がってました。

そりゃまあ、うちの高校、そんなに頭は良くないけど、でも、楽しかったんですよ、結構。

仲間も居たし。

なのに、お袋さんが再婚したからって、なんとかっていう有名な私立高校に転校されられて…。

友達も出来なかったみたいです。

みんな気取ってるって嫌がってました。」


「それで君としょっ中連絡取ってたんだね。居なくなった日はどう?」


「あの日は…っていうか、将太は毎日学校に行くふりして、渋谷で遊んでたんです。

で、俺たちの学校終わると、合流して、うちか他の奴の所に泊まる感じ。

なんだけど、あの日は俺たちが学校終わって連絡しても、返事も無えし、LINEも未読のまんまで…。

どうしたんだろうなって心配してたんですけど、偶に親父の秘書だかなんだかに渋谷で遊んでる所見つかって、連れて帰られると、暫く連絡取れなくなるから、それかなって言ってたんですけど…。

あんまり連絡取れないから、思い切って、家に電話してみたら、お袋さんが出て、将太は田舎の寮のある高校の方に転校させたとか、また訳分かんねえ事言うんで…。」


そう言って母親を見て、母親が話を継いだ。


「私、電話代わって言ったんです。

毎日の様に将太君泊めてますって。

将太君本当にいい子だし、心配なんですけど、本当に大丈夫なんですかって言ったら、悪いと思ったんでしょうかね。

やっと実は行方不明だ、携帯が渋谷で見つかったんだって話して…。

でも、黙っててくれ、絶対誰にも言わないでくれってそればっかりでした。

自分の立場と将太君とどっちが心配なのって感じでした。」


あの母親ならそれは容易に想像出来た。


「それで、渋谷で遊んでる時に誰かに声をかけられたとか言ってなかったかい?中年のおじさんとか、大人の人に…。」


「ーん~…。あいつさ、金だけは有り余る程親父から貰ってたんだ。

だから、結構一人でゲーセンとかで遊んで時間潰してるだけだったみたいなんだよね…。

だから、ついて行った事は無いけど、金やるから1時間付き合えって言ってくる変態のオッサンは居たみたいだけど…。」


「そういう見るからに怪しいオッサンじゃなくて、信用してるんだなみたいな人の話は聞いてないかい?」


「ーああ…。

なんかちょっと聞いた事あるかも…。

ゲーセンで遊んだ後、入ったバーガー屋で、優しそうなオッサンが一緒の席いいかって聞いて来て、ちょっと喋ったって…。

凄えいい人で、話なんでも聞いてくれるし、優しいんだ、ああいう人が親父だったら良かったのにって言ってた事あったな…。」


「どんな人とか、名前とかは?」


「それは言ってなかったよ。」


「君は会った事ある?」


「ううん。無い。話聞いたのもそれっきり。」


「それ、いつ頃の事かな?」


「将太が居なくなる…1週間前位じゃなかったかな…。」


話の流れと、霞のプロファイリングで行くと、その優しいオッサンというのが、犯人の可能性が高い様に思われた。


そうやって、学校にも行かず、ゲームセンターで時間を潰している一人きりの、寂しそうな少年に目を付け、バーガー屋まで尾けていき、そこで初めて会ったかのように話しかけ、親身になって、話を聞いて、信用させる。


そして再び偶然を装い、別の日に声を掛け、既にある信頼関係を利用して車に誘い込み、何か上手い事を言って、携帯を捨てさせる…。




車に戻って夏目に太宰がそう言うと、夏目も頷いた。


「そんなタダで迷える少年の話を聞いて、立ち去るだけなんて人のいい大人が居るとは思えませんね。」


「そ、それもどうなんだ、夏目…。」


「こういう時代ですんで。

だし、それが本当の親切心からなら、もっと将太が救われるような方策を取るんじゃないんですか。

児童相談所連れてってやるとか、自立の方法を教えてやるとか。」


「確かにな。それは言えてる。」


「でしょう?」


「ん。さて、今日はもう子供の家を訪ねるには遅いな。その将太君が通ってたゲーセン行ってみっか。」


「そうですね。」




2人は、先ほどの将太の友人が教えてくれた、渋谷の中心部にあるゲームセンターに行った。


店員に将太の写真を見せて、話を聞いてみる。


「ああ、この子。毎日来てましたね。最近見ねえけど。」


念の為、他の行方不明の子供達の写真を見せると、店員は驚くべき事を言った。


「みんな来てましたよ。

時間帯はマチマチでしたけど。

学校帰りから、未成年者入場禁止時間までずっと居る子とか、真昼間から居る子とか、バラバラですけど。」


当たりな気がした。

犯人はここで子供達を物色していた可能性が高い。


「それで、この子達をじっと見てた、或いは、少年少女を物色して歩いているような中年男は居なかったかい?」


「ゲームしないで、若い奴観察しながら歩いてる人でしょ?

結構居ますよ。

金出してやったりして。

下心あんだから気をつけなって見かけた時は言ってやってんですけど、まあ付いて行っちまう事も多いかな。」


「そうか、それはありがとう。

でもそういうんじゃなくて、本当にただ物色してるだけで、声とか掛けずに帰って行く様なの、心当たり無いかな?」


「そうだな…。

なんかやたら身なりがいい、金持ち風の人で1人居ますね。

朝から未成年者追い出すまでの時間帯、ずっと、そこのスロットをやってんだかガキ見てんだかって感じだけど。

週に一度必ず。」


「どんな男?顔とか覚えてる?」


「いや、顔はいっつもマスクして眼鏡掛けてるんでわかんないっす。

背は刑事さんよりちょっと低いくらいかな。」


太宰を見ていうので、170センチより低めという事だろう。


「160センチ後半てとこかな?身体つきは?」


「普通ですね。太ってもいないし、痩せすぎてもいない。」


かなり特徴の無い男の様だ。


「年齢は?」


「うーん、分かんねえな。印象的には、40から50って感じに見えますけどね。」


「そっか。週に一度って言ったね?なんでそんなはっきり言えるの?」


「ああ、必ず水曜に来るんですよ。だから俺たちの間では、水曜日のジェントルマンて呼んでます。

殆ど金も使わず、あそこ陣取ってるから、皮肉ですけど。」


「色々有難う。その男性が来たら、連絡して貰えるかな?」


「はい。」




2人は車に戻った。


「超、怪しいですね、水曜日のジェントルマン。」


「だな。じゃあ、そろそろハンムラビの手紙の鑑識も終わってる頃だろうから戻ろうか。」


2人が本庁に戻ると、丁度鑑識の幸田が大きなダンボール箱を持って、五課に入る所に出くわした。


「おう。手紙の鑑識終わったぜ。」


「おお、ありがと。中で聞かせてくれ。」


甘粕と霞は、ターゲットになり得ると思われる元受刑者達の警護を、地元警察に依頼しているところだった。

電話の区切りがつくと、幸田に一礼し、話を聞き始める。


「えー、指紋無し。

毛髪などの類いも無し。

全部同じエピック社のプリンターで出力。

ウィンドウズのワードで打ってるな。

全部ヒロタコムウェアのホラー体フォント。

1番メジャーなフォントだな。

でえ、プリンターもワードも非常に出回っているタイプ。

はっきり言って、これから出処を探るのは針山の針状態だな。

しかし、プリンターにある特殊な癖みてえなもんを発見した。」


幸田は証拠品袋に入った手紙をホワイトボードに貼り付け、縦書きに書かれた文字の丁度真ん中辺りを横に向かって、指を滑らせた。


「ここ!ここな!よーく見ると、擦れがあんだろ?」


4人は近付いて目を皿の様にしてみたが、全然わからない。


「幸田、分かんねえよ…。」


「ったく!ダメだな、おめえは!鑑識にはなれねえぞ!?」


なろうと思った事は無いが、太宰は黙って、続きを促した。


「この擦れライン、2007年製のCRT-36-Zっつー機種のマイナートラブルで、リコールまで行ってねえんだが、購入者には手紙で知らせ、無料で修理してんだ。

つまり、これを修理してねえって事は、会社に記録が残ってるはずだっつー事で。」


一回言葉を切り、太宰のデスクの上にドンとダンボール箱を置いた。


「芥川に取りに行かせた。

これが修理に応じてねえ顧客リストだ。

ざっと1000人らしい。

なんせ安くて性能がいいって、売れに売れたからな。はいよ、全国分。」


流石鑑識マニアの幸田である。


「あ、ありがとう…。」


凄い数ではあるが、針の山から針を探すよりはマシと思わなければなるまい。

太宰達は礼を言い、幸田が帰ると、箱の中身を覗いてため息を吐いた。


「仕方ないな。やるしかねえだろう。取り敢えず、群馬県警に報告入れるわ。」


太宰が電話すると、千田が出たので、手紙の鑑識結果を伝えた。


「エピック社のリコール修理漏れの人物の調査、こっちでやりましょうか。」


「ーいや、悪い…。送ってもらえるか。

こっちでやるわ…。

そこまでやっといて貰っておきながら、本当に申し訳ねえんだけどよ…。」


なんだか千田の声に元気が無い。


「署長に絞られましたか…。俺が出しゃばったりしたから…。」


「いや、違うんだ。そんな事ねえよ。

俺から頼んだんだし、本当に感謝してる。

だけど署長がさあ…。頑として聞かねえんだよ…。

なんか申し訳なくなっちまってさあ、あんたに。」


「俺はいいんですよ。」


「いや、良くねえよ。だからさ、せめて、少年Aの殺害されるまでの足取りと、検死報告書写メって送っから。」


「千田さん、そんな事なさったら…!」


「いや、いいんだって。

俺ももう今年で定年だ。

それにこのヤマ、これで終わるとは思えねえ。

異常な奴の犯行だ。

後々の事考えたって、あんたらが分かってた方がいいに決まってる。

気にすんな。そいじゃな。」


電話の後、太宰の携帯に千田から、被害者の足取りをまとめた書類と検死報告書の写真が送られて来た。

早速拡大してプリントアウトし、被害者の足取りを見ながら、柊木を呼んで見せる。


「んああああ~!これ解剖したかったぜええ~!」


太宰以外の3人は苦笑し、太宰は嫌そうな顔で目を伏せる。


「そう言うと思ってたよ。いいから早くお前の見解を言え。」


「タバコの火で根性焼きの他、鞭で叩くとか切り刻むとかの拷問の末、致命傷は心臓を一突きか。

そんで殺してから手足は電動ノコギリで切断。」


「結構な音が出たでしょうね。」


霞が言うと頷いた。


「拷問中の悲鳴や音もそうだし、それに、いくら死んでたって、結構血は飛び散るぜ。

どこでやったんだかな。

そいで、猫の手足を縫い付けたのは、普通の裁縫糸と針か。

こりゃ随分と雑で下手くそだな。

少年Aの方がまだ上手かったんじゃねえか?」


「男ですかね?ホシ。」


夏目が言うと、首を捻る柊木。


「どうかね。うちの娘なんか女のはずだが、裁縫やらせたってこんなもんだぜ?

医者目指してる兄貴の方がまだマシだ。

あと、縫いづれえってのはあんだろうな。裁縫糸と針じゃ。

血だのなんだので滑るからよ。」


「なるほど。」


夏目が納得した所で、次の箇所へ。


「レイプは生前と死後。ホシの体液は残ってんな。でも、2人分あるぜ。」


レイプと聞いて、太宰達も驚きを隠せなかった。

確かに少年Aは、被害者を脅したり、拷問したりしながらレイプし、体液を残した状態で殺害し、更に、猫の手足を付けてから死後もレイプしていた。

全く同様の手口で行われてはいるものの、少年Aの被害者は全員女性である。


「奴らホモ集団て事ですか!!」


夏目が真っ青になって叫ぶので、柊木も含めた全員で笑ってしまった。


霞が笑いながら言った。


「まあ、ホモ集団かどうかは置いといて、でも、複数というのは確かかもしれませんね。

手紙の『我々は』という表現は、カモフラージュかとも思いましたけど、事実そうなのかもしれません。

被害者は出所後、落ち着いて群馬県内のアパートに住み始めた直後に消息を絶っています。

アパート内には争った形跡があると書かれています。

少年Aは向精神薬の投薬の副作用でかなり太っていたようですし、いくら気絶させるなどして大人しくさせたにしても、この巨漢を運び出すのは、普通の男性1人では無理なのではありませんか。」


太宰も頷いた。


「俺もそう思う。死体ってえのは異様に重い。あの学校前に持ってくのだって、相当な労力だ。」


霞と甘粕が保護対象のリストに上げた、元受刑者の保護を管轄の警察署に通達した後は、ハンムラビ事件で、太宰達がやれる事はもう何も無い。

翌日から次の水曜日までの4日間は、手分けして、行方不明の子供達と仲の良かった子供達への聞き込みを始めた。

どの子からも、『水曜日のジェントルマン』の話をしていたというのは聞けたが、『水曜日のジェントルマン』の職業や詳しい事を聞いた子は居らず、捜査は早くも暗礁に乗り上げた。


しかし、こうなって来ると、行方不明の子供達は『水曜日のジェントルマン』の餌食になっている可能性が高い。

早く見つけなければと焦るが、手掛かりは一向に出て来なかった。


そして、水曜日が来た。

ゲームセンターの店員が約束通り電話をくれたのは、午前10時半を回った頃だった。


「すいません。話通しといたはずなんですが、早番の奴、掃除で忙しかったらしくて、忘れちゃってたらしいんすよ。今俺が来たら思い出して、30分位前まで居たって…。」


「ありがとう!直ぐ行くね!」


夏目の暴走運転で、かなりの渋滞も物ともせず10分足らずで到着した。

太宰を見ると、電話をくれた店員と忘れてしまっていたらしい店員が頭を下げた。

太宰はいいんだよと笑顔で宥めると、目撃者の方の店員に話を聞いた。


「来て、割と直ぐ出てっちゃったんすよ。その前にクレーンゲームで遊んでた可愛い女の子の後、尾けてったんじゃねえかな…。」


「その子、どっちへ!?」


太宰が聞くと、店員は左方向を指差した。


「女の子の特徴や服装は分かるかい!?」


「背が小さくて…。そうだな、150位かな。

で、真っ白いフリフリしたダウンコート着て、茶色のジョッキーブーツみたいな、踵にベルトの付いた膝までの高級そうなロングブーツ履いてました。

髪は背中までのロングのストレートで、染めてないですね。

なんかいい物身に着けてたし、お嬢様って感じがしたな。

クレーンゲームが異様に上手くて、びっくりしちゃったけど。」


夏目が首を傾げてブツブツ言っている。


「クレーンゲームが上手い…。その服装って…。まさかな…。まだ時間早えもんな…。」


「どした、夏目!手分けして探すぞ!左方向の飲食店、全部だ!」


4人で手分けしてそこら中の店を覗き、中年と女の子の組み合わせを探したが、見当たらない。

そして夏目は、ゲームセンターの店員の証言通りであり、また慣れ親しんだ人物を見つけた。


「美雨!」


「あれえ?達也さん?」


美雨でかなりびっくりしたが、店員の証言通りの女の子は、他には居ない。


太宰が聞く前に、夏目が早速尋問に入った。


「眼鏡にマスクの紳士風の男に声掛けられなかったか?」


美雨はニヤリと笑った。


「掛けられたわよ。なんか悲しかったけど、向こうは中学生か高校生って思ってるみたいだし、怪しいオヤジだったから、話合わせて、色々聞いてみたわ。」


「でかした!そんで!?」


「口調とか、顔の皺から行くと、50代かなって感じ。

『どうしてこんな時間にこんな所に居るの?学校が嫌なのかな?』

って聞いて来るから、これはひょっとすると、達也さんが捜査してる水曜日のジェントルマンだなって思って、学校も嫌だし、家も嫌とか適当に言ったら、

『おじさん水曜日はいつもここで朝食を食べてから家に帰るから、おじさんで良ければ、また来週も話聞くから、ここで待ってて。』って。

だからどうして朝食をここで食べてから帰るのかって聞いたの。」


「おう。で?」


「この近くの大学病院に火曜日に講義と勤務で来て、夜勤してから帰るんですって。

だから、おうち遠いの?とか聞いてみたら、『長野だよ。とってもいい所なんだ。』って。

古いお屋敷なんだって。」


「で、どこの病院とか、詳しい住所とかは。」


「どこの大学っていうのは、聞いたけど、教えてくれなかったわ。

住所までは中学生が聞かないでしょう?

疑われたら終わりだもん。

次が無くなったら困るから、その辺で質問はやめておいたわ。

でも、来週の水曜日、午前11時にここで待ち合わせの約束は取り付けました!」


太宰の顔色が悪くなった。


「囮捜査はいかん!ダメだ!危険過ぎる!」


「嫌だわ、課長さん、ついてなんか行きませんよ。皆さんでここで張り込みされてればいいじゃないですか。」


「ううーん…。」


霞が笑った。


「すごいお手柄ですね、美雨ちゃん。

かなりの情報は得られましたよ、課長。

美雨ちゃんとの約束前までに、そいつを割り出せばいいのでは?」


「まあそうだな…。

じゃあ、甘粕と夏目でこの近隣の大学病院で火曜だけ勤務して、そのまま夜勤で大学病院にいるという条件を満たした、50代の准教授、或いは教授、又は講師を探せ。

霞ちゃんと俺は、長野の古いお屋敷の持ち主で、東京勤めって奴を探し、ついでに、モンタージュ製作に入ろう。

という訳で、美雨ちゃん、来てくれる?」


得意げだった美雨の表情が曇った。


「う…。折角ここまで辿り着いたのに…。」


「ーん?」


夏目も不思議そうに聞く。


「そういやお前、どうしてこんな時間に?約束って昼じゃなかったのか?」


「何?約束があったの?」


太宰も聞くと、申し訳なさそうに頷いた。


「友達が渋谷でお昼食べようと言うので、昨日達也さんに地図を書いて貰い、あのゲーセンが例の店なんだって聞いたのもあり、また迷子になって遅れても嫌だからと早めに家を出たら、意外と呆気なく着いてしまったので、時間を潰しておりました…。」


「でも、仕方ねえだろ。山本さんには断っとけ。」


「うん。でも、達也さん、見てえ!」


美雨はバックからひよこの大群を出した。


「凄いでしょ!?クレーンゲームでガッポガッポよ!」


「おま…お前、こんなにどうすんだよ…。」


「テレビの周りとかに飾るの。」


「やめろ。」


「いいじゃあーん。」


「ダメっ。」


ほっぺがぷっくり膨らんだ美雨を笑って連れ出し、太宰と霞は本庁に戻り、夏目と甘粕は大学病院を併設した近隣の大学の所在地を原田に聞きながら、太宰達と別れた。







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