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満月の夜 2  作者: 桐生初
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解決…ではない…?

太宰と甘粕が、注射器を買った安部友枝の自宅の小さなマンションを訪ねると、それだけで、安部は怯えていた。

コーヒーを出してくれたが、手が震えて、ソーサーがガチャガチャ音を立てている。

これは畳み掛けて一気に崩せると判断した太宰は、甘粕と目を合わせるなり、いきなり核心に触れた。


「注射器をジャングルという通販サイトから購入されていますね。その時に注射針も一緒に。それが、清水朋香さん殺害に使用された注射針と同じものなんですが、どういう事か、ご説明願えますでしょうか。」


「あっ…、ああ…。ええ…ええっと…。あああああ!」


安部友枝は頭を抱えて、泣き叫ぶ様な声で繰り返した。


「どうしよう!どうしよう!だから嫌だって言ったのに!」


「ご説明をお願いします。」


「わっ、私は注射針を血管に刺しただけで、もっと血を抜こうと言ったのは、校長先生で!」


「なるほど。初めから詳しくお願い致します。」




安部友枝は、動揺しているのと、元の性格からか、話が回りくどいので、太宰達も聞き出すのに苦労したが、その自白のお陰で、疑わしかった教員と校長、総勢10名が任意同行で引っ張れ、校長以外の供述を纏めると次のようなものになった。


悪魔教では無いと本人達は言っているが、校長が発足させた美容の会という物の一環として、犯行は行われた。

生き血を飲むと、若さが保てる、実際校長は鶏の生き血を飲み続けて、この若さを保っていると言っており、確かに効いた気がし、教員10名でその会を作り、校長が飼育している鶏を毎週金曜の夜に理科室で殺して、生き血を飲むという事をしていた。

その会の中で、学園内の問題児の話題が出た。

校長は安部曰く、潔癖な性格で、虐めの加害者等の学園内で問題を起こす生徒を敵視していた。

愛校精神が強いと安部は言っていたが、寺内という教員が言うには、その中でも、主に集中的に攻撃するのは、駒田先生に近付いたり、仲が良かったりした生徒に限られるのだという。

校長が親に転校を促す説得をすると同時に、生徒本人は、夜の理科室に呼び出し、プランターのお願いを使って、恐怖感を与えたのだそうだ。

プランターのお願いの噂を流したのは校長。

熱心は熱心と言えるのかもしれないが、兎に角、虐め問題で学校の評判が落ちるのを酷く恐れていたので、教員に言えない子用に設けたのだそうだ。

そして、それを、問題のある生徒の脅しに使った。


「あなたの名前とした事が、プランターのお願いで入っていた。このままではあなたは呪われてしまう。私達で、あなたが呪われない様にお祈りを捧げてあげるけど、もうしない様に。そして、出来たら、この学校を去った方がいい。その方が、呪いは効きにくいから。」


などと、親身になっている様な事を言って、自主的な転校を促したのである。

しかし、他の私立校に移って、そこでも問題を起こしたら、ヨハネはこんなのを転校させてきたのかと思われて、ヨハネの評判が落ちると言って、関東近県の私立校全てに、ブラックリストを送り付けて、私立への転校を妨げた。

こんな感じで、それまでは転校させられて来た。

しかし、林田恵美子と、清水朋香はなかなか転校してくれない。

特に、林田恵美子の駒田に対してのアピールに、校長は激昂していた。

それでもったいないけどという事で、鶏の血を2度にも渡り、制服に付けたのだという。

林田恵美子は問題児だからと、誰も止めなかったというのだから、恐ろしい教師達である。

そして、林田恵美子を退学させ、暫くは落ち着いた活動を続けられていたが、今度は清水朋香が駒田に抱きついたりするなどのアピールをし始め、またしても、校長は激怒。

しかし、寄付金の額が凄いので、転校も今までの様に強気では勧められない。

居させるしかないという事に落ち着いたが、校長の腹の虫は収まらない。


「心理療法だと言って、血を取って、暫く学校に来ない様にさせましょうよ。あの子、貧血でしょう。死なない程度に結構抜けば、貧血が酷くなって、欠席してくれるんじゃないのかしら。」


と言い出した。

それにも誰も反対しなかったそうだ。

鶏の血で、これだけ効果があるのだし、人間の血で、尚且つ、かなりの量、そして若い子だったら、相当いい感じに効くのではないかと思ったというのだ。

もう病気である。

そして、清水朋香を言い含め、今回は金曜の夜では無く、土曜の夜中にした。

その日は学校で音楽会というイベントがあり、生徒達が夜まで居残っている日だったからである。そして、土曜の夜中、いつもの様に血を抜き始めた。

生の若い女の子の血は効果が全く違って思えたのだそうだ。

争う様に生き血を飲み、気がついたら、夜が明け、朋香は全く動かなくなっていた。

心臓の音も、安部が確認した所、聞こえないと言い、一同はパニックに陥った。

どうしようと騒いでいると、事務員の落合がやって来た。

校長はシナを作って、落合に泣きついた。

校長は、若い男性に対してはいつもそうらしい。

落合は自分がなんとかすると言ってくれた。

皆、安心して帰ったのだが、いざ、月曜に学校に来てみたら、清水朋香の死体が校庭に置いてあり、しかも、全裸という非常にショッキングな状態だった事で、10人は、何故、どうしてとパニック状態となり、警察が帰った直後に、落合に連絡してみたのだが、落合の携帯は不通。

家にかけても出ず、恐怖でいっぱいだったという。

鶏に付着していた繊維は、儀式の時のローブや祭壇に使用した物で、家庭科教員の岡部が購入し、マントに縫い上げた。


校長の話は全て保身出来る様、都合良くなっていた。

転校は我が校の指導体制が足りなかったから。

関東近県の私立校全てにブラックリストを送り付けたのは、あれはブラックリストでは無く、こういう子が行くかもしれないので、指導には配慮をお願いしますという意味だったとか、訳が分からない物が殆ど。

駒田に関する嫉妬は否定し、駒田が困っていたようだったからという言い逃れに終始した。

清水朋香の血を抜いたのは、出来心。

少し抜いて、もうやめようと言ったのに、皆さんが…などと泣いていたが、その他の9人の教員から、校長が率先して、


「これは効くわ!もっと抜いて飲みましょう!若いんだから大丈夫よ!」


と言ったと証言している。

よくもまあ、ここまで嘘がつける。人格障害ではないかと、太宰でさえ思った程だった。


そんな訳で、太宰達は取り調べで身動き取れず、結局、落合敬太を確保おおお!とやりたがっている危険極まりない霞に、落合の件はまかせるしかなかった。




霞達が落合の自宅アパートへ行くと、テーブルの上に、今回の証拠品全てが並べられてあった。

即ち、清水朋香の血痕が付いた注射器、注射針、清水朋香の制服類、携帯電話などの持ち物、マークを描いたペンキ、マークをくり抜いたビニール、マークとコンクリートを付けていた接着剤などである。

そして、部屋も片付けられていた。

そもそも鍵もかかっていなかったのである。


「これは、死体遺棄の罪を全て認めて、警察が来るのを予想していたという事なんでしょうか。」


夏目が聞くと、霞は頷いた。


「そうね。私が美雨ちゃんに話を聞いて、ここに直行しなくても、課長の話だと、先生達はいつ捕まるかとビクビクしていた。警察ですって、課長みたいに優しげな人でも、ちょっと強気で来られたら、ボロボロ喋ってしまうのは、素人の落合にも分かっていたんでしょうね。遅くなっても、自分が死体遺棄をしたというのは、すぐバレると。でも、それならどうして行方不明になったのかしら。」


「怖がらせる為だったんじゃないですか。校長達は、落合が雲隠れしたら、それだけでビビる。後は、どういう事だって、ギャアギャアピーピー言われるのが、面倒だったから、警察が落合が死体遺棄したってのを掴むまでは雲隠れしていようと思ったのか。」


「成る程。そっちね。流石夏目さん。んじゃ、居所見つけて、確保おおお!よね。夏目さん。」


夏目は子供のようにはしゃいで言う霞を見て笑った。

ところが、太宰からの電話で、霞の企みは露と消えた。


「落合が蒲田署に出頭して来たってよ。迎え行ってくれ。」


「了解しました。」


電話を切り、霞を見ると、もう泣きそうな顔になっている。


「そんな!確保おおお!はどうなっちゃうの!?夏目さん!」


「それは自首して来た奴には出来ません。」


「そんなのヤダああああ!」


「ヤダと仰られても、法律でそういう事になってますんで。んじゃ、ここは内田さん達に任せて、行きますよ。」


「ええええ〜!?確保おおおお!ってしたかったのにいい!!!」


霞はガックリと肩を落とし、車に乗った。




落合の自供は一見して筋が通っていた。

学校に忘れ物を取りに行ったら、理科室の方が騒がしかったので、行ってみた。

すると、校長達が清水朋香が死んでしまったとパニック状態になっていたので、恨み重なる、校長やヨハネを破滅させるチャンスが来たと思い、死体をセンセーショナルに置いたのだという。

校長は、小学校の担任当時、落合が性同一性障害である事を気味悪がり、のみならず、虐めも助けてくれる事はなかった。

その上、受験した私立中学全てに、あの子はオカマですよと、誹謗中傷の連絡を入れるなどした為に、受験校は全部落ちてしまい、仕方なく、地元中学に通う事になった。

落とす方も落とす方だが、落合はその事をずっと恨みに思ったらしい。

進んだ中学高校でも、あまりいい思いをしなかったせいかもしれない。

そして、ヨハネの事務員として就職した。

それは、復讐のネタ探しの為だった。

そして、程なく、落合は校長達の悪魔崇拝的な行いを掴む。

しかし、鶏では未だ足りない。

確かにスキャンダラスではあるが、破滅までは行かないかもしれないと、辛抱強く、ネタを探し続けていた所、清水朋香の事件に当たり、まさにチャンスだと思ったのだそうだ。

そして、ネットで女子高生の間で流行っている、六芒星のおまじないを見つけ、死体を更にセンセーショナルにする為に、材料をホームセンターで買ってきて、指紋などの証拠に気を付けつつマークを作り、雨の間を縫って、清水朋香の遺体を置いたのだそうだ。

日曜の真昼間に死体を置く訳に行かなかったので、直ぐにはそこに置かなかったと、これも不自然な所は無い。

ただ、問題は、死亡推定時刻だ。

日曜の午後3時から午後11時までの間という。

つまり、日曜の朝は未だ生きていたという事になるのだが、教師達は一様に死んでいたと言うし、落合も死んでいたと供述している。

誰も生きている事に気が付かず、清水朋香は仮死状態のままジワジワと死んでいったという事になるのだろうか。


「なんか引っかかるな…。」


夏目が珍しく、取調室の落合をマジックミラー越しに見ながら呟いた。


「おう。言ってみな。夏目。俺と同じかもしれねえ。」


太宰が言うと、えっという顔をしながらも答えた。


「なんで待てたんでしょうか。鶏の生き血だけでも、相当なもんです。やり方によっちゃあ、社会的に抹殺出来るネタだ。なのに、なんでそれ以上が出て来ると思えたのか…。それが引っかかるんですが…。」


「俺も〜。」


太宰はそう言いながら、ニヤリと笑って、甘粕と霞見ると、2人ニヤリと笑って、頷いた。


「性同一性障害なら、手術は可能なはずです。でも、彼は男のままでいる。ホルモン治療も受けていません。口調も男の人。そこに、その謎も、死亡推定時刻の謎の鍵があるのかも。」


死んでいると思い込んで、何もせずに放置して死なせてしまったのと、死んでいないと分かっていて、放置していたのでは、罪状が大きく変わって来る。

保護責任者遺棄、或いは過失致死と、殺人罪では、罪の重さが丸で違う。


「よし。俺と夏目は落合について調べよう。霞ちゃんと甘粕は取調べで探ってみて。」






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